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11月, 2023の投稿を表示しています

LK-99とは何だったのか~室温超伝導狂騒曲~

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 【イントロ】  現代社会は電気エネルギーを用いた技術、エレクトロニクスにより支えられている。この電気エネルギーをロスなく使用するため、超伝導技術に期待が寄せられている。超伝導は、物質中を流れる電気抵抗がゼロとなる現象であり、電気をロスなく流すことができるため、その実用化が長らく望まれている。  超伝導技術の課題は、その現象が一般には液体ヘリウムや液体窒素を必要とする極低温、もしくは地球内部に匹敵する高圧下でしか生じない点にある。より高温、そして常圧で動作する超伝導体、いわゆる常圧高温超伝導体の探索が今なお続けられている。特に1980年代の銅酸化物超伝導体[ 1 ]、2000年代の鉄系超伝導体[ 2 ]、2010年代の水素化合物系高圧超伝導体[ 3 ]の発見は、常圧高温超伝導体の誕生の期待を大きく高めたものの、未だ発見には至っていない。  そんな中、2023年7月、プレプリントサーバーであるarXivに「Cu置換Pb9CuP6O25、通称LK-99は、常圧かつ室温以上の温度で超伝導体になる」と主張する2本の論文が韓国の研究機関により投稿された[ 4 , 5 ]。この論文は世間の大きな注目を集め、arXiv上だけでなく、SNS上でも再現実験が報告[ 6 ,  7 ]され、さらにコミケで試料が販売される[ 8 ]など、熱狂的ともいえる盛り上がりを引き起こした。  このLK-99論文の特徴は、超伝導体の特徴と言える「ゼロ抵抗」「マイスナー効果による磁気浮上」「組成・結晶構造の同定」を含む形で論文が報告されたことである。これらは、新超伝導体の発見に対するいわゆる「田中クライテリア」(※)を満たしていたこと、さらに、初期の追試を行ったグループから 「ゼロ抵抗」 や 「磁気浮上」 が報告されたことから、その真実性がにわかに期待された。(※ 参考PDFリンク )  しかし、その後の各国研究機関の精力的な追試により、この物質が実際には超伝導体ではないことが明らかになった。報告されていた「ゼロ抵抗」および「磁気浮上」がそれぞれ、超伝導現象ではない別の現象、すなわち「硫化銅Cu2Sの構造相転移」および「強磁性による磁気浮上」を見ていたことが明らかになったのである。  本記事では、このLK-99研究に対する各国の取り組みと、どのような現象が超伝導現象と誤認されたかについてまとめ

若手奨励賞を受賞したんだから若手です~2024年度物理学会若手奨励賞~

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【イントロ】 毎年年齢を重ね、心は若くても体は衰えを隠せない日々の中、 今年もこの時期がやってきました。 そうです。 物理学会若手奨励賞の時期ですね。 第18回(2024年)日本物理学会若手奨励賞 (Young Scientist Award of the Physical Society of Japan) 受賞者一覧 https://www.jps.or.jp/activities/awards/jusyosya/wakate2024.php これからの物理学会を背負っていかれる輝かしい業績を積み上げられてきた皆さん、おめでとうございます!!! 今回のブログでは、筆者が特に好きな領域8、いわゆる強相関電子系分野の受賞者の皆さまと、その受賞理由論文について調べてみました。 やはりビジネスマンの基礎教養として、各分野のエースは把握しておかないと! 【方法】 頑張って一つ一つの論文チェックしました。 論文引用数はGoogle scolarによる検索結果を採用しています(2023年11月12日時点) 【受賞者紹介】 池田暁彦   (電気通信大学 大学院情報理工学研究科 基盤理工学専攻) 「1000テスラひずみ計測法の開発によるLaCoO3の新規電子相の発見」 画像はChatGPTのお名前からの想像です "Signature of spin-triplet exciton condensations in LaCoO3 at ultrahigh magnetic fields up to 600 T" , Nat. Commun. 14, 1744 (2023) 引用数:8件 概要:電子正孔対、いわゆるエキシトンのBECは60年以上前から予言されていた。スピン一重項エキシトンの凝縮は、その電荷中性・非磁性な点から実験的な検証は困難であったが、近年スピン三重項エキシトンの凝縮がコバルト酸化物で生じうることが理論的に予言され検証が望まれていた。この研究では、ISSPで開発された1200T級磁場を用いて、LaCoO3の磁歪測定から、スピン三重項エキシトン凝縮の兆候の観測に成功している。 図1、磁歪測定から求めた600テスラまでのLaCoO3の相図 "Two spin-state crystallizations in LaCoO3&quo

2023年11月の気になった論文(完全版)

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11月ってまじか(笑) ※Amazonアフィにアクセスぜひぜひ🙇‍♀🙇‍♀🙇‍♀ https://amzn.to/3smO9Dk ・新しい高圧Ni酸化物SC、うーんあやしい ・トポカゴメにTRSBの兆候なし ・LK-99やはり超伝導じゃない ・Bi4Br4はHOTI ・GNNを使った量子多体計算 ・多層グラフェンでフォノン媒介f波SC ・dHvA振動の実空間可視化 ・ゴールドストーン定理の例外 ・AFM‐SC近接効果によるFFLO ・PDWがX線散乱で見えるか? ・超伝導スピントロニック熱機関 ・非線形回折格子でブロッホ定理を破る ・ドハース振動の実空間可視化 ・非平衡電荷密度誘起スピン流理論 ・銅酸化物の抵抗、ハバード模型でええのか問題 ・CeCoIn5のトポロジカルフェルミオン凝縮量子相転移 ・水素化物高圧超伝導、Hirschへの反論 ・自己組織化モアレ結晶の可視化 ・鉄系CaFeAsFを空気でアニールすると超伝導 ・力学問題を解けるLLM ‐‐‐2023/12/1‐‐‐ HofstadterTools: A Python package for analyzing the Hofstadter model https://arxiv.org/abs/2311.18726 「これを動機として、私たちは HofstadterTools (https://hofstadter.tools) を紹介します。これは、正規ユークリッド格子上のホッピングを任意に組み合わせて、一般化ホフスタッター モデルのエネルギー スペクトルを解析するために使用できる Python パッケージです。」 Modular Many-Body Quantum Sensors https://arxiv.org/abs/2311.18319 「相転移を起こす量子多体系は、検出精度の非古典的な向上を可能にするプローブとして提案されてきた。しかし、このような精度の向上は、通常、臨界点近傍の非常に狭い領域に限られている。ここでは、多体系に複数の相転移を導入するためのモジュラーアプローチを系統的に開発する。」 Tensor network renormalization: application to dynamic correlation functions and non-hermi