PRLに最初に載った論文ってどんな論文?

 
【イントロ】
 いい結果だしたらいい雑誌に論文を載せたい。
 研究者の素直な欲求ですね。
 物理の雑誌で一番いい雑誌といえば、アメリカ物理学会発行のPhysical Review Letters、通称PRLです。NatureやScienceもありますが、インパクトや見た目の派手さ重視の商業誌と違って、PRLに掲載されたといったほうが玄人好みの印象です。渋い。
 それでは元祖渋い論文はどんなものなんでしょうか?
 本記事では、PRLの創刊号第一巻に掲載された論文がどのような論文なのか調査しました。

【調査方法】
 PRLの創刊号第一巻に掲載された論文を一つ一つチェックして、内容と著者と所属機関と所属国を調査しました。人力です。
ちなみに、「Physical Reviewに最初に投稿した日本人は誰か?」は、こちらのPodcast(22: First Japanese on Phys. Rev.)で考察されています。

【論文一覧】
全25本の論文の概要です。

1,Magnetization in Single Crystals of Some Rare-Earth Orthoferrites
R. M. Bozorth, Vivian Kramer, and J. P. Remeika
概要:オルソフェライトはRFeO3(Rは希土類)と表される化合物。その磁化に関する研究。
著者から、ベル研の研究と推測されます。企業の中央研究所における基礎研究の黄金時代という感じでしょうか。

2,Thermal Effects of the Martensitic Transition in Sodium
Douglas L. Martin
概要:金属ナトリウムの比熱測定。40Kから100Kの測定。何Kまで冷やしてから比熱測定するかで、マルテンサイト変態の有無により比熱のカーブが変化することを発見。著者は、カナダの国立研究機関の所属。最初の単著。

3,Paramagnetic Centers as Detectors of Ultrasonic Radiation at Microwave Frequencies
概要:UCバークレーによる、常磁性中心を利用してマイクロ波周波数の超音波放射を検出する研究。我らがキッテル先生。

4,Spin-Lattice Relaxation Resonances in Solids
H. S. Gutowsky and D. E. Woessner
概要:イリノイ大学アルバーナ校による固体中のスピン格子緩和の研究。化学分野に核磁気共鳴を適用した先駆的研究の模様。

5,Instability, Turbulence, and Conductivity in Current-Carrying Plasma
概要:スタンフォード大による、イオン化したプラズマの不安定性、乱流を数学的に考察した研究。計算プラズマ科学の先駆的研究の模様。

6,Energy vs Momentum Relation for the Excitations in Liquid Helium
J. L. Yarnell, G. P. Arnold, P. J. Bendt, and E. C. Kerr
概要:液体ヘリウム中の励起に関するエネルギー運動量関係の研究。Los Alamos Scientific Laboratory, University of Californiaが著者たちの所属。ロスアラモス国立研究所の前身なんですね。

7,Observation of Unpolarized Λ ' s Produced by 1.5-Bev π − Interactions in Pb, Fe, and C
Theodore Bowen, Judson Hardy, Jr., George T. Reynolds, Guido Tagliaferri, Albert E. Werbrouck, and William H. Moore 
概要:プリンストン大とブルックヘブン国立研究所による、非偏極ラムダ粒子の観測に関する研究。

8,Photoproduction of Positive Pions from Protons
Jack L. Uretsky, Robert W. Kenney, Edward A. Knapp, and Victor Perez-Mendez
概要:UCバークレーの研究。陽子衝突による正電荷パイオン光生成に関する研究かな?。

概要:Los Alamos Scientific Laboratoryによる、反陽子を中性パイオンに打ち込むと消滅するという話かな?著者一人だし、流石に理論の研究ぽい。

10,Spin of Ni61
H. H. Woodbury and G. W. Ludwig
概要:GE研究所による、Ni61のスピンの研究。著者たちは半導体中のスピンの研究もしてるし、固体物性系の研究かな?ベル研と同様に、企業による基礎研究の一例ですね。

11,Attempts to Confirm the Existence of the 10-Minute Isotope of 102
概要:UCバークレーによる原子番号102の元素(ノーベリウム)の同位体のうち、半減期10分のものの存在を確認しようとする研究。ノーベル賞受賞のG. T. Seaborgらによる研究。1st著者のGhiorsoさんは、新元素発見数12でギネス記録保持者とのこと。

12,Element No. 102
A. Ghiorso, T. Sikkeland, J. R. Walton, and G. T. Seaborg
概要:11番の論文と同じUCバークレーグループによる102番元素、ノーベリウムの合成報告かな。Wikiを見ると、結構確認まで紆余曲折あったんですね。

13,Search for a Long-Lived Charged Particle
P. C. Stein
概要:コーネル大による、長寿命荷電粒子の探索に関する研究。

14,Electron-Capture Energy and Level Lifetime by Temperature Effect in Sm152 Gamma-Ray Resonance
P. B. Moon, G. G. Shute, and B. S. Sood
概要:バーミンガム大による、Sm原子のガンマ線共鳴における電子捕獲と準位寿命に対する温度効果の研究。英国からも投稿あったんですね。

15,New Isotope of Beryllium
M. J. Nurmia and R. W. Fink
概要:アーカンソー大によるベリリウム原子の新しい同位体の発見。

概要:原子核のエネルギー準位間隔に関する理論かな?

17,Divergenceless Currents and K-Meson Decay
概要:コロンビア大、ロチェスター大、ハーバード大、タフツ大によるK中間子崩壊と非発散カレントに関する理論。ノーベル賞受賞のワインバーグが1st。S.Okuboさんは東大出身、ロチェスター大で博士号を取得された日本人の方のようです。かなり豪華なメンツの論文ぽい。

18,Elastic Scattering of Antiprotons on Carbon at 30 to 200 Mev.
Lewis E. Agnew, Jr., Tom Elioff, William B. Fowler, Louis Gilly, Richard Lander, Larry Oswald, Wilson M. Powell, Emilio Segrè, Herbert M. Steiner, Howard S. White, Clyde Wiegand, and Tom Ypsilantis
概要:UCバークレーによる、炭素に反陽子ぶつけて弾性散乱を調べる研究。反陽子を発見してノーベル賞を受賞したエミリオ・セグレが著者の一人。

19,The Angular Distributions of Tritons from the C 14 (d, t) C 13 Reaction 
W. E. Moore, J. N. McGruer, and A. I. Hamburger 
概要:ピッツバーグ大による、炭素14に重水素打ち込んで3重陽子が出てくる反応の角度分布に関する研究かな?

20,Configuration Mixing in the C 14 Ground State 
概要:ピッツバーグ大による、炭素14の基底状態の配位混合に関する理論的な研究かな?
(参考:原子核をくすぐる http://seisan.server-shared.com/624/624-61.pdf

21,Neutrons of Possible Thermonuclear Origin
W. C. Elmore, E. M. Little, and W. E. Quinn
概要:Los Alamos Scientific Laboratoryによる、熱核反応の起源に反する研究ぽい。

22,Circular Polarization of A37 Internal Bremstrahlung
Lloyd G. Mann, John A. Miskel, and Stewart D. Bloom
概要:A37の内部制動放射の円偏光性の研究…A37ってなんだ?

23,Protonic Σ-Decay with an Associated Electron Pair
概要:スウェーデンの物理研究所による、フォトニックΣ崩壊の理論的研究ぽい。

24,Precise Measurements of Muon Magnetic Moments by "Stroboscopic Coincidences"
R. A. Lundy, J. C. Sens, R. A. Swanson, V. L. Telegdi, and D. D. Yovanovitch
概要:シカゴ大によるStroboscopic Coincidences法を使ったミューオン磁気モーメントの精密測定。当時からミューオン磁気モーメントは話題になってたんですね。

概要:コーネル大による、ニュートリノ質量はゼロとしていいか問題についてβ崩壊の観点から考察した論文。我らがJJサクライ先生だ!!

【集計結果】
 25本の論文を見てみると、原子核分野の研究が多く見られます。原爆開発の名残で、研究の中心がアメリカに移り、また当時の先端の話題ということもあり盛んに取り組まれていたという印象です。
 また、固体物性系としては教科書で有名なC. キッテルの論文が掲載されています。同分野では、ベル研やGE研といった企業の論文もあり、中央研究所時代の全盛を感じます。産業応用を考える上で基礎的な特性まで調べ尽くして新たなアイデアにつなげる意欲を感じます。しかし、ナトリウムの比熱を測るだけでPRLに載るとは、アイデアの大切さを感じさせてくれます。
 日本人としては、S. ワインバーグと共著で、東大出身、ロチェスター大で博士号を取得された大久保先生が登場しています。また、教科書でも有名なJJサクライも単著で論文を掲載されています。
 国別(図1)に見るとアメリカの著者が圧倒的で、英国、スウェーデン、カナダが続きます。アメリカ物理学会の雑誌なのでさもありなんといったところですが、現代のようなグローバル化は起きていないようです。
 大学別(図2)に見るとUCバークレーが圧倒的です。原子核実験施設が近くにあることが効いているようです。当時のロスアラモス研はUCバークレー所属ぽいのでさらにUCバークレーの一強感が強まります。

【まとめ】
 PRL創刊号の掲載論文がどのようなものか調査しました。分野としては原子核系、国としてはアメリカ、所属機関としてはUCバークレーの論文が多い結果となりました。
 現代では凝縮物理、天文系、高分子、素粒子、プラズマ、非線形物理など幅広く掲載されていますが、最初は小さなところから始まって大きく花開いた印象です。
おれも人生のPRLにアクセプトされたいね。

図1、国別の著者数


図2、所属機関別の著者数

表1~4. 各論文の著者と所属と国






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