フラットバンド!異常金属!近藤効果!
【イントロ】
本記事は、以下レビュー論文の読書メモです。
Checkelsky, J.G., Bernevig, B.A., Coleman, P. et al.
Flat bands, strange metals and the Kondo effect.
Nat Rev Mater 9, 509–526 (2024).
特にネタもオチもありません><
フラットバンド、異常金属、近藤効果のつながりのイメージ図 |
【メモ】
- Introduction
- 近年、トポロジーと電子相関が注目を集めている
- 重い電子系、鉄系超伝導、フラストレーション格子系にまたがる統一原理が求められている
- その1つが、トポロジカルフラットバンドの概念である
- 以下のような物質がその研究対象になっている
- カゴメフラットバンド系 CoSn
- 分数チャーン絶縁体 マジックアングルグラフェン(MATBG)や捻り積層TMD
- 重いディラックフェルミオンと近藤絶縁体 SmB6
- 近藤効果誘起ワイルノード物質 Ce3Bi4Pd3
- これらの系では局在電子と非局在電子の相互作用が重要となっている
- つまり、近藤効果に基づく物理が、トポロジカル物性の新たな統一原理となる可能性がある
- Materials Platforms
- 強い電子相関を生み出す典型的相互作用は、d電子系やf電子系の局在電子を介したもの
- 最近は、以下方法で運動エネルギーをクエンチすることでフラットバンドを生み出すことでも実現されている
- フラストレーション格子系での破壊的量子干渉効果
- モアレ系におけるユニットセルの増加
- クーロン相互作用Uとバンド幅Wとバンドトポロジーが、新しいフラストレーション物理のフロンティアとなっている
- Flat band systems
- フラットバンドを実現する系はいくつかある
- 磁場中でのランダウ準位
- リーブ格子、カゴメ格子、パイロクロア格子系などのフラストレーション格子系
- モアレ系
- フォノン系、マグノン系、メタマテリアル、冷却原子系などの非電子系
- f-based compounds
- 希土類系(Ce~Ybを含む物質系)は局在した4f電子系を含む
- これらの原子系は、完全なフラットバンドを形成する
- これらの電子系は以下2つの相互作用が競合する
- 磁気秩序を作ろうとするRKKY相互作用
- スピン一重項を形成する近藤効果
- 重い電子系は、シュレディンガー方程式から求まるバンド分散の傾きから求まる電子の有効質量が大きい系として扱うのが標準的
- 最近、ディラック方程式で記述される、極度に遅い速度をもつ系も発見されている
- Transition metal compounds
- 銅酸化物では、適度なキャリアドープ量で、異常金属状態と非従来型超伝導状態が発達する
- これは電荷の局在‐非局在転移を伴っているように思える
- 同じような遷移金属系には以下のようなものがある
- 鉄系超伝導体 LaFeAsO、FeSe
- 重い電子系 LiV2O4
- 4d遷移金属酸化物 Sr3Ru2O7
- 有機導体 κ-(BEDT-TTF)Hg2.89Br8
- 1T相遷移金属カルコゲナイド
- 遷移金属磁性体
- Coulomb vs kinetic energy effects
- 重い電子系を記述する最も基本的なモデルは周期的アンダーソン模型
- 近藤系では、フェルミエネルギーとクーロン相互作用が大きく、f電子状態は局在磁気モーメントを形成する。
- このとき、アンダーソン模型は近藤格子模型にマップすることができる。
- 電子相関はf電子状態の局所モーメントと伝導電子スピンの交換相互作用に埋め込まれていることになる。
- 大きなU/Wは、小さな近藤温度TKに相当する。
- 多くの遷移金属化合物では、フェルミエネルギー近傍の電子状態は局在性の強い3d電子により形成される
- このとき、電子相関は、オンサイトクーロン相互作用(ハバード相互作用)Uと多軌道d電子に伴う追加のクーロン相互作用により決まる
- 重い電子系と異なり、U/Wが大きいとモット絶縁体になる
- 鉄系超伝導体などの多軌道系では、モット転移は軌道選択的になり、大きなU/Wでも金属的に振る舞いうる。
- フラットバンドの研究は、量子ホール効果の研究まで遡る事ができる
- フラットバンド系は、現代ではモアレ系やフラストレーション格子系でも実現することができる
- フラストレーション格子系では、破壊的量子干渉により、電子系の動きが妨げられる
- この系では大きなUをもつd電子系と小さな運動エネルギーkの気血として、大きなU/Wが実現する
- つまり、いろいろな系があるが、f電子系と3d電子系の大きなクーロン相互作用Uとフラットバンド系の小さなバンド幅Wとの結果、大きなU/Wが実現して電子相関が強いことになる。
- Experimental measure of correlation strength
- U/Wの大きさを実験的に検出する方法が色々と開発されてきた
- 従来は、トポロジカルに自明な物質に対して研究されてきた
- 一方で、トポロジカルな物質に対する手法は確立されていいない
- 例えば、ディラック電子系ではディラック速度を使うなど
- フェルミ液体では、低温での有効質量繰り込みm/m0が電子相関の指標となる
- キャリア量nが既知であるならば、電子比熱係数γから有効質量繰り込みm/m0を求める事ができる(門脇‐ウッズ則)
- 同様に、光学伝導度のDrude成分からm/m0を求めることもできる
- ARPESで観測されるバンド分散をε=hk^2/2mでフィットすることでも有効質量を求められる
- 同様のアプローチはディラック電子系におけるディラック速度とエネルギーの関係ε=hvkにも適用することができる
- STMによる準粒子干渉実験でも観測できる
- キャリア量nが既知であるならば、量子振動からバンド別の有効質量繰り込みを計算できる
- Strange metal behavior
- 銅酸化物超伝導体の膨大な研究から、最適組成付近で異常金属状態が観測されている
- 銅酸化物では母物質のモット絶縁体に微小なドープを行うと金属絶縁体転移を生じる
- 重い電子系では幅広い調整パラメータの範囲で金属的である
- にも関わらず、近藤崩壊転移の現れとして、両者にモット転移が関わっている
- Kondo destruction and electronic localization
- 重い電子系では、近藤相互作用が近藤一重項形成を促進し、低エネルギー領域におけるf電子系の非局在化につながる。
- 一方で、競合するRKKY相互作用が近藤一重項形成を阻害し、f電子系の局在化を促進する。
- Linear-in-temperature electrical resistivity
- 異常金属状態は、線形の温度依存性を示す電気抵抗率と関連付けられることが多い
- 通常のフェルミ液体では、温度の2乗に依存した電気抵抗となる
- 銅酸化物LSCO
- 重い電子系YbRh2Si2
- マジックアングルグラフェン
- 理論的モデルも提案されている
- 近藤崩壊模型
- SYK模型
- Ersatz Fermi液体理論
- これらの理論は、不純物の役割を明確にするため、化学量論比のクリーンな物質に対して検討されている
- Fermi volume jump
- 温度に線形な電気抵抗率が軌道選択的モット転移に関連付けられる場合、そのふるまいはホール効果で検出できるはず
- 完全に近藤遮蔽されたフェルミ液体基底状態をもつ近藤格子模型では、局在モーメントはフェルミ体積に寄与し、大きなフェルミ面を形成する
- 近藤崩壊量子臨界点を超えて近藤遮蔽が消えると、フェルミ面から局在モーメントの寄与が排斥され、温度ゼロで相転移が起きフェルミ面は小さくなる
- そのような振る舞いはYbRh2Si2やCeCoIn5などで研究されている
- MATBGでのホール効果の異常も同様に考えることができる
- 実際、遮蔽層をMATBGに挟むと、絶縁体基底状態が壊れ、異常金属状態が現れることが観測されている
- Dynamical scaling
- 軌道選択的モット転移が、連続的量子相転移ならば、量子臨界揺らぎと関連する動的スケーリングが観測されるはず。
- 動的スケーリングは光学伝導度で観測されるはず
- 量子臨界にともなうスピン感受率の動的スケーリングは、非弾性中性子散乱で観測される。
- Ce(Cu,Au)6やCeRu4Sn6で観測されている
- 光学伝導度での動的スケーリングも実際観測されている
- 銅酸化物LSCOや、YbRh2Si2
- ARPESでも同様のスケーリングが観測されている
- 銅酸化物やフラットバンド系Fe3Sn2
- Loss of quasiparticles
- 以下はフェルミ液体理論に基づくと異常な振る舞いである
- 電気抵抗率の線形な温度依存性
- フェルミ体積のジャンプ
- 動的スケーリング
- これらは、Well-definedな準粒子が存在しないことを意味している
- ショット雑音測定は、そのような準粒子検出の有効な手段
- 準粒子が存在しなければ、電子間散乱に由来するファノ因子が小さくなる
- そのような振る舞いは、実際YbRh2Si2で観測されている
- 他の異常金属物質での系統的な測定が求められる
- Different route to correlated topology
- 分数量子ホール絶縁体は、電子相関にともなうトポロジカル状態の存在を、少なくともギャップのある状況において、示す証拠となっている
- Gapless phases
- ギャップレストポロジカル状態として、フラットバンド系、f電子系、遷移金属系におけるワイル・ディラック半金属の形成が議論されてきた
- 実験的には、カゴメ金属Ni3Inにおいてホッピングに由来する狭いd電子バンドが重い電子状態を示し、スピン軌道相互作用を伴うトポロジカル状態にあることが報告されている
- この結果は、重い電子系遷移金属酸化物である、LiV2O4にも示唆を与える。V原子が作るパイロクロア構造がフラットバンドを形成していると捉えることができる
- 遷移金属系におけるトポロジカル半金属状態は、パイロクロア構造イリジウム酸化物において予言されていた
- Irの大きなスピン軌道相互性と、モット絶縁体状態近傍にある電子状態の寄与
- Ce3Bi4Pd3の研究から、強相関ワイル半金属状態の証拠が示された
- Gapped phases
- ほとんどのギャップレストポロジカルフラットバンド系は、スピン軌道相互を考慮すると、ギャップが開く
- バンド反転により開くトポロジカル絶縁体ギャップは以下の物質で議論されてきた
- 鉄系超伝導体Fe(Se,Te)
- 遷移金属酸化物Sr2FeMoO6
- 近藤絶縁体SmB6
- ゼロ磁場における分数量子ホール状態のアナロジーとして、分数化チャーン絶縁がギャップのあるトポロジカル相として提案されている
- 捻りグラフェンや捻りMoTe2、5層グラフェンで報告されている
- 似たような現象がf電子系や遷移金属化合物でも観測されることが期待されるが、候補物質の提案はまだである
- Topological superconducting phases
- トポロジカル超伝導体は様々な物質系で研究されている
- フラットバンド系はトポロジカル超伝導研究の重要な舞台の1つ
- 大きな状態密度は強結合超伝導ギャップを示唆し、トポロジカルな電子状態が超流動ウェイトを運ぶことが期待される
- 実験的なトポロジカル超伝導候補としては4Hb-TaS2が存在する
- 絶縁体の1T-TaS2と超伝導体の1H-TaS2が交互積層した物質
- 超伝導がトポロジカルに自明であろうと非自明であろうと、非自明な量子幾何(Fubini-Study計量)の影響を受けている
- Signitures of correlated topology
- 電子相関のあるトポロジカルバンドでは、相互作用のない系のバンドよりも数桁程度狭くなる
- 一方で、狭いバンド幅と増大した電子密度は新しいトポロジカル応答に繋がる可能性がある
- 近藤絶縁体SmB6の表面状態にはトポロジカル表面状態の存在が観測されている
- このトポロジカルフラットバンド系の謎は、バルクの線形温度依存性をもつ比熱と、磁化の量子振動の観測である。
- 起源については色々提案されている
- ギャップが開いたd電子バンドの残滓
- d電子的中性粒子励起
- 磁性不純物周りの金属状態
- ギャップの開いた捻り積層系では、分数量子異常ホール効果の実現が期待されている。
- 分数チャーン絶縁体の証拠
- 電子相関の強いトポロジカル半金属では、バンド幅が狭まり、ディラック/ワイル準粒子速度が小さくなることが期待される。
- ワイル近藤半金属Ce3Pd4Pd3では、フォノンの寄与を超えるワイルバンド由来のC~T^3の比熱が観測されている
- 他にも鉄系超伝導体Fe(Se,Te)や45°捻り積層銅酸化物Bi2212、UTe2でも観測されている
- Towards a unified understanding
- トポロジカル電子状態の有無にかかわらず、強い電子相関を生み出す他の方法もある
- Kondo lattices
- 近藤格子的振る舞いは、4f・5f電子系を含む希土類化合物で観測される
- 高温では、局在電子と遍歴電子は独立して振る舞う。
- 低温にすると、混成が強まり新しい準粒子としての重い電子系を形成する
- 形成されるバンドは非常に狭いフラットバンド、フェルミ準位にピンされている
- ゼロ温度でもこの2重性は保持されおり、近藤崩壊により分裂する
- この近藤崩壊は、異常金属状態の核心である
- 近年の局在電子と遍歴電子のトポロジカルな相互作用の研究から、結晶構造の対称性がどのように近藤効果由来の低エネルギー励起に制約を与えるか、そして強い電子相関のあるトポロジカル状態を生み出すかが明らかになりつつある
- Orbital‐selective Mott systems
- 鉄系超伝導体では、軌道選択的モット転移が生じていると考えられている
- 軌道選択的モット転移に置いては軌道間の混成が生じる
- つまり軌道選択モット絶縁体転移は、近藤格子における近藤崩壊転移のアナロジーとして捉えることができる
- Moire to Kondo mapping
- MATBGも重い電子系として捉えることができる
- MATBGのフラットバンドの92%は、MATBGのAA積層領域の局在的な軌道由来である(p軌道だが、性質的にf軌道と呼ばれる)
- 一方で、非局在的軌道成分がAB積層領域の軌道から由来する(同様にc軌道と呼ばれる)
- 結果としてのハミルトニアンは、アンダーソン格子模型のように、f-c相互作用を含む形となる
- Frustrated lattice to Kondo mapping
- カゴメ格子のようなフラストレーション格子をもつ物質系が、近年盛んに研究されている
- 非従来的CDWや他の電子秩序
- 束縛された拡張分子軌道基底を用いることで、有効的アンダーソン/近藤格子模型として、フラストレーション格子系を記述できる
- Perspective
- 近藤効果の物理が、幅位広い物質系における統一原理となる
- 近藤効果の物理は、異常金属状態の理解の土台ともなりうる
- フラットバンド系と、強相関電子系のそれぞれの研究コミュニティがつながることで、新しい物理が生み出されることが期待できる
- 様々な物質系に共通に現れるトポロジカル相はなにか?
- ある物質で得られた洞察が他の物質系にも適用できるか?
- 分数チャーン絶縁体のアナロジーは近藤絶縁体で実現できるか?
- トポロジカル超伝導体の存在を確立できるか?
- トポロジカルフラットバンド系における超伝導の性質を明らかにできるか?
- 量子揺らぎは新しいトポロジカル相の安定に寄与しうるか?
- 理論的な期待
- 局在電子系としてのフラットバンドとトポロジカル半金属バンドとの相互作用は新しいアンダーソン/近藤模型を生み出し、未知の物理現象を予言できるか?
- 電子相関とトポロジカル状態を非摂動的に扱える新手法を開発できるか?
- 実験的な期待
- 近藤不純物と伝導電子間に生じる最大/長距離エンタングルメントを検出できる実験手法を開発できるか?
- 量子フィッシャー情報量やそれを超えた指標
様々な物質の電子相関の強さの指標 |
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