論文を捏造しよう!~Googleの画像生成AI「Nano-Banana」を利用したグラフ編集の可能性と人間力向上~

 【イントロ】

論文、捏造したいですよね。

実験結果が思った結果にならなかったとき。
出てきた結果のインパクトが小さいとき。
実験をやり直すには締切に間に合わないとき。

そんなときこそ、実験結果の捏造のチャンスです。
でも、思った通りの実験結果を作るのは意外と大変です。
元データの数値を変えて、グラフをプロットし直して・・・
めんどくさい!

なんとかもっと簡単に実験結果を捏造できないでしょうか?

できます。

そう、GoogleのNano-Bananaならね

Nano-Bananaが描いてくれたトップ画像です

【方法】

いくつかのユースケースにおいて、Googleの最新画像生成AI「Nano-Banana」を利用して、論文中のグラフの捏造を行いました。
Nano-BananaはGoogle GeminiのPro機能を契約し利用しました。
今なら1ヶ月無料です。
元となるグラフは、Web上から検索して利用しています。それぞれ引用元の論文は以下記事中に記載しています。

【結果】

ユースケース1:超伝導転移温度を高くしたい!

新物質の電気抵抗を測定したら、超伝導転移を示したけど、転移温度が低くてインパクトが低いな~

30Kくらいの転移温度じゃ話題にならないよなぁ~
せめて窒素の液化温度、77K以上くらいにならないかな~

そうだ!捏造しよう!

そんなときも簡単。Nano-Bananaに以下のようにお願いしましょう
「論文の図を修正したいです。図は超伝導体の電気抵抗の温度依存性で、30K付近から抵抗が減少し始め、10K付近で抵抗がゼロになっています。この図を70K付近から抵抗が減少し始め、50K付近でゼロ抵抗になるようなグラフに横軸を修正してください」


できました!電気抵抗の低下は80K付近から落ち始め、50Kくらいでゼロ抵抗になっています。これならインパクト大!
Nature Communicationsくらいには掲載されそうです。

参考文献
Bednorz, J.G., Müller, K.A. Possible highT c superconductivity in the Ba−La−Cu−O system. Z. Physik B - Condensed Matter 64, 189–193 (1986). https://doi.org/10.1007/BF01303701

ユースケース2:トポロジカルホール効果を見つけたい!

うーん、先生に創発磁場に由来する現象をみつけろとだけテーマと物質を与えられたけど、どうすればいいんだ?
本によると、創発磁場によりトポロジカルホール効果が生じるって書かれてるな。
よし、ひとまずこの物質のホール抵抗を測定してみよう。
測定はできたけど、ほとんど線形に磁場依存性するホール抵抗になってしまった。。。
これではトポロジカルホール効果が生じてるなんていえないぞ、こまったなぁ

そうだ!捏造しよう!

そんなときも簡単。Nano-Bananaに以下のようにお願いしましょう
「添付した画像は、横軸が磁場、縦軸がホール抵抗で各温度で測定された結果がプロットされています。以下2つの修正してください。
・測定磁場間隔を倍細かくする
・150K以上の測定結果について5から12kOeの範囲に凸型のコブが生じるような磁場依存性とする」
できました!150K以上の温度の測定結果について、5kOeから12kOeの磁場範囲でホール抵抗にコブが生じています。
これぞまさしく、よくあるトポロジカルホール効果の兆候ですね。
これならインパクト大!
Nature Communicationsくらいには掲載されそうです。

参考文献

ユースケース3:熱を流す量子スピン液体を見つけたい!

電気を流さない絶縁体だけど、熱だけ流す物質が見つかれば、電子機器の熱マネジメントに革命を起こすことができる!
・・・そんなテーマで研究費を取ったが実験結果がでない。。。


物質候補として、金属並みの熱伝導度を示すと言われている量子スピン液体を選んでみたが、どう測ってもゼロ熱伝導度になってしまう。
このままでは次の研究費がとれない、どうすれば。。。

そうだ!捏造しよう!

そんなときも簡単。Nano-Bananaに以下のようにお願いしましょう
「画像は横軸が温度、縦軸が熱伝導度を温度で割った値のグラフです。現状のグラフでは温度依存性をゼロ温度に外挿すると熱伝導度がゼロになります。ゼロ温度に外挿したときの縦軸の値が、0.1程度になるようにグラフをスライドさせた結果をください」
できました。簡単ですね。金属スピン液体です。
これなら産業革命まったなし。
Nature Communicationsくらいには掲載されそうです。

参考文献
P. Bourgeois-Hope et al., arXiv:1904.10402 [cond-mat.str-el]

ユースケース4:超伝導のギャップ対称性を変えたい!

話題の超伝導体の超伝導メカニズムを調べるために、超伝導ギャップの構造を決定しようと思う。いろんな手法があるが、走査型トンネル分光法で超伝導ギャップの構造を測定してみよう。単純には状態密度に比例するdI/dVのバイアス電圧依存性を測定してU字型のスペクトルが得られればフルギャップのs波超伝導、V字型であればノーダルギャップのd波超伝導の可能性が高いということになる。

よし、V字型のスペクトルが得られた。つまり非従来型超伝導の可能性が高い!
あとは理論の裏付けをつけて、Natureに投稿だ!
え!?理論的にはs波超伝導になるからフルギャップのはず!?
こまった。このままでは理論の裏付けのない実験結果になってしまう。。。

そうだ!捏造しよう!

そんなときも簡単。Nano-Bananaに以下のようにお願いしましょう
「今、実験値がバイアス電圧0付近で0になるようなV字型のスペクトルになっていますが、これを幅広い範囲で実験値がゼロになるようなU字型のスペクトルに変更して、それに合わせてBCS理論のフィット結果も編集してください」

はい、きれいなU字型のスペクトルになりました。
完全にフルギャップ超伝導ですね。
これなら理論の裏付けもあり。
Nature Communicationsくらいには掲載されそうです。

参考文献
Gu, Q., Li, Y., Wan, S. et al. Single particle tunneling spectrum of superconducting Nd1-xSrxNiO2 thin films. Nat Commun 11, 6027 (2020). https://doi.org/10.1038/s41467-020-19908-1

ユースケース5:バンド分散を変えたい!

物質の物性を決めるのは、電子構造、つまり電子の運動量とエネルギーだ。一般に自由電子はエネルギーが運動量の2乗に比例するが、グラフェン中のディラック電子は線形に比例するらしい。
実際に実験で検証してみよう!
お、おかしい。エネルギーが運動量の2乗に比例するような、放物線形状のバンド分散が得られてしまった。
これでは既存理論が間違っていることになる。
再実験しようにも、ビームタイムはもうもらえない。
一体どうすれば。。。

そうだ!捏造しよう!

そんなときも簡単。Nano-Bananaに以下のようにお願いしましょう
「グラフは、バンド分散を横軸が波数と縦軸がフェルミエネルギーから測ったエネルギーの関係で示した、自由電子に由来するエネルギーが波数の2乗に由来する分散を表しています。このグラフをディラック電子に由来する線形分散関係に修正したいです」
よし、きれいな線形分散がみえた!
これぞグラフェン!
自由電子的な分散が見えるなんてグラファイトじゃないんだから。
Nature Communicationsくらいには掲載されそうです。

参考文献

【感想】

Nano-Banana、すごいですね。 ここまでくると「もう全部AIでいいんじゃないか」とさえ思ってしまいます。
これまでAIの能力はコーディングや文章生成が中心でしたが、画像生成・編集能力がここまで向上すると、新たな懸念が生まれます。

「論文中のグラフが真正なものか、どう証明すればよいのか?」という不安です。

研究は「巨人の肩に乗る」と言われる通り、先行研究という土台の上に成り立っています。 本来、その信用を担保するのは「再現性(論文に再現に必要な情報が揃っていること)」
ですが、すべての実験を追試するのは現実的ではありません。 
結局のところ、私たちは「著者の信用」を担保に、その結果を受け入れているのが実情です。

では、AIによる捏造も容易になった今、研究者はどうやって「信用」を高めればよいのでしょうか? 潔く、AI自身に聞いてみました。


Q. 研究者として信用を高めるには?(AIの回答)

1. 研究者としての信用(プロフェッショナルとしての誠実さ) 研究者の通貨は「真実」であり、信用は**「データへの誠実さ」**に宿ります。

  • 生データ(Raw Data)を神聖視する

    • 予想と異なる結果を「失敗」として隠蔽したり、無理に仮説に合わせたりしない。

  • 「再現性」にこだわる

    • 他者が同じ実験をした時、同じ結果が出るか。これが科学における信頼の担保となる。

  • 「分からないこと」を認める勇気

    • 知ったかぶりをせず、「ここまでは分かったが、ここから先は不明」「自信がない」という境界線を明確にする。

  • ネガティブデータの価値を認める

    • 「うまくいかなかった実験」も、後進が同じ失敗を避けるための貴重な資産とする。

2. 人間としての信用(他者との関係性) 研究も結局はチームプレーであり、人間関係の延長線上にあります。

  • 言行一致

    • 小さな約束を守る。「明日メールする」と言えば必ず送る。遅れるなら事前に連絡する。

  • バッドニュース・ファースト

    • ミスや機器の破損、進捗遅れこそ隠さず最速で報告・謝罪し、対策を相談する。

  • 「ギバー(与える人)」であること

    • 自分の手柄だけでなく、他者のサポートや有益情報の共有を惜しまない。

  • 批判を攻撃と捉えない

    • 痛い指摘に対して感情的にならず、「不備を指摘してくれてありがとう」と受け止める素直さを持つ。


うーん、ごもっとも! 
AI新時代において一番大切なのは、結局のところ
「研究者としての誠実さ」と「人間力」
なのかもしれませんね。

追伸 

実は、先ほどの「ユースケース5」には嘘があります。 
本当の論文の図は線形分散の方で、Nano-Bananaで捏造したのが自由電子的放物線分散の方です。 
……もちろん、気づきましたよね?


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