Physical Review Lettersっぽいタイトルとは?

【イントロ】
 「Publish or Perish」(出版するか死ぬか)とは研究者の生き様を表した言葉として、業界に広く流布していることわざです[1]。そこまで極端なことを言わずとも、「論文を出すまでが研究よ」というのは研究者であれば肝に銘じている言葉ではないでしょうか?論文を出すのが一つの使命となっている研究者ですが、「どうせなら少しでも良い有名な雑誌に出したい!」という考えは、自分の仕事のアピールと生き残りの両面から当然湧いてくる気持ちです。商業誌としてはNatureやScienceといった超一流雑誌がありますが、専門家にこそ自分の仕事をアピールしたい人にとって、各分野最高峰の専門誌に出すことが研究の一つのマイルストーンになります。そのため、そうした最高峰の専門誌に掲載される論文がどのような内容か興味深い問題です。
 本記事では「名は体を表す」という諺にのっとり、筆者がちょっと興味をもっている物理分野最高峰の専門誌であるPhysical Review Letters(PRL)[2]が、どのような単語を含むタイトルの論文を掲載しているのかを調べました。

【方法】
 2016/1~2017/4までにPRLに掲載された論文1957本のタイトルに含まれる単語を出現数順にランキングすることで、どのような内容の論文が掲載されているか調査しました。具体的にはPythonを使用したWebスクレイピング[3]により集計区間の論文タイトルを取得し、Excelのピポットテーブル機能を使用して集計を行いました。集計後、冠詞と前置詞、接続詞は順位から除き、ランキングを作成しました。ちなみに、最頻出前置詞は「of」でした。
 また比較のため、2006/1~2007/12の掲載論文2492本についても集計し、掲載内容の移り変わりを調査しました。
 余談ですが、PRLはタイトルの頭文字が大文字ですが、ほかのPRA,B,C,D,Eはそうでもないことに調査中気づきました(まなび)。

【結果】
 図1に2016-2017のPRLタイトル頻出単語を示します。

図1 PRL論文タイトル頻出タイトル(2016/1~2017/4)

 「Quantum」(量子)が一位となりました。物理分野における量子力学の重要性を示す結果といえるのではないでしょうか。2位以下には「Spin」、「Phase」、「Magnetic」といった単語が並ぶことから、物性における磁性や相転移に関する論文が多数を占めていることが推測できます。また、「Optical」や「Laser」といった単語が上位にあることから、光学分野も重要な報告が多くなされているようです。

 次に、10年前の2006-2007のランキングを図2に示します。

図2 PRL論文タイトル頻出タイトル(2006/1~2007/12)

 上位のタイトルは、2016-2017と同様に「Quantum」「Spin」といった単語が現れています。一方で、「Surface」や「Molecular」といった単語が上位に現れていることから、表面状態や分子性物質の物理が当時注目分野であったことが伺えます。また、2016-2017に上位にいた「Topological」が2006-2007では上位に存在しないことから、「Topological」物理がこの10年で急速に発展してきたことを、ランキングの推移から見ることができます。あと、「Comment」が多い。。。

【まとめ】
 物理分野最高峰の雑誌であるPRLのタイトルに含まれる単語を調べることで、「Quantum」「Spin」「Phase」といった内容に関する論文が数多く掲載されていることがわかりました。物理一般の内容を扱うPRLといえども、各分野の研究者数の比率から、物性分野の研究が多く掲載されていることがランキング上位の単語から読み取れます(本当かな?)。また、10年前のタイトルと比較することで、「Surface」「Molecular」な流行が落ち着き、「Topological」物理が流行していることが明らかになりました。
 頻出度と流行に乗っかって、「Topological Quantum Spin State」みたいなタイトルの論文を書けばPRLに通りやすいかもしれませんね(そんなことはない)。

【参考文献】
[1]、Private Communication.
[2]、PHYSICAL REVIEW LETTERS https://journals.aps.org/prl/
[3]、独習Python入門――1日でプログラミングに強くなる! 

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