結局、お金がある研究室ほど論文が出ているんじゃないの?

【イントロ】
 「5000兆円ほしい」が人類共通の願望であるように、この世はお金がないと生きていけません。そしてお金はお金があるところにあつまり更にお金を生むという、ステキな循環が存在しているようです[1]。まさに、この世は資本主義。一方で、「金が金を生むような現象が研究の世界でも生じているのか?」というのは自明ではないように思えます。なぜなら、研究はアイデアが大切ですから、お金がなくてもアイデア次第で研究成果の生産性を上げることができると考えられるからです。一方でかの有名な理論物理学者フィリップ・W・アンダーソンは「カネの大切さを決して軽く見るな」[2]と述べており、科学研究でもお金が重要であることを示唆しています。
 そこで本記事では、研究費と出版論文数の関係を調べることで、この疑問の解消を試みようと思います。

【方法】
 今回の調査対象は、東京大学(実験系、理論系)と大阪大学(実験系)に所属する物性物理系研究室としました。実験系と理論系、東大と地方旧帝国大学の比較を行うために上記を対象としました。あと著者の趣味です。調査期間は2014/1~2016/7です。昔調べたからです。
 各研究室のホームページを確認し、該当期間の出版済み論文数を確認しました(プロシーディングは除きました)。また、同期間を実施期間に含む所属スタッフの科研費を科研費データベース[3]を使用して調査しました。本人が代表研究者の科研費だけでなく、連携担当者となっている科研費の金額も含めました。
 何人かのスタッフの方は「さきがけ」[4]といったJSTの別予算も取得されていましたが、こちらの予算は含めていません。もともとの科研費の額が大きい研究室に所属している方が多いため、「研究費の多い研究室は出版された論文も多いのか?」という仮説を検証するための傾向の確認には利用できると考えたからです。

【結果】
 図1に関連科研費と出版論文数の関係を示しています。

図1 関連科研費と出版論文数関係


 なんとなく、関連科研費が多い研究室ほど出版論文数も多いように見えます。ただし、ばらつきも大きく相関係数R^2=0.3程度なので弱い正の相関があるのかなぁと言う程度です。同じ東大で比較すると、理論系のほうが研究費に縛られず論文がかけるので、論文数も多いかと思っていましたが、実際は実験系の方がたくさん論文が出ているようです。
 むしろ、驚くべきは同じ実験系の東大と阪大の科研費の差・・・同じ基準でデータベースを探索したので大きな見落としはないと思いますが・・・やはり”TODAI IS GOD”。

 「いやいや、研究は論文数じゃない、どれくらいのImpact Factor(IF)の雑誌に出しているかでしょ。」ということで、図2には関連科研費と出版論文の平均IFを示しています。

図2 関連科研費と平均IFの関係

 こちらもばらつきが大きいものの相関係数R^2=0.4程度の正の相関があるようです。やはり金がある方が論文数も多く、インパクトのある論文を出す傾向が少なからずありそうです。やはりこの世は金か。。。抜群の研究費・出版論文数・平均IFを誇る東大TOP3の研究室はすごいなぁ、という感想です(どこのラボとは言わない)。

 ここで発想をかえて「少ない研究費でたくさん成果を出しているのはどこだろう?」という視点で研究費と論文数の関係を見直してみました。つまり「コストパフォーマンス(コスパ)の良い研究室はどこだろう?」という疑問です。その結果を図3に示します。

図3 研究室別コスパ(大文字は実験系、小文字は理論系研究室)

 コスパという概念を用いると、理論系の研究室のほうがよいパフォーマンスを示していることがわかります。理論系のほうが研究費が少なくてもインパクトの大きい成果を出しやすいということでしょうか。一方、先ほどまでとは変わって、阪大の幾つかの研究室が上位に名を連ねています。研究費が少なくても共同研究などを通して多くの成果を生み出している様子が見て取れます。コンスタントに成果を出していないと次の研究につながりませんしね。。。

【まとめ】
 今回、東大と阪大の物性系研究室について関連科研費と出版論文数、平均IF、コストパフォマンスについて調査を行いました。出版論文数と平均IFに関しては、ばらつきは大きいものの研究費の額と弱い正の相関があることがわかりました。研究成果はお金だけで決まるわけではありませんが、ある程度の影響は与えているように思えます。実際、キムワイプも買えないようでは実験になりませんしね。。。
 一方で、コスパの観点からは理論系のほうが研究室の方が実験系よりも良い結果を示していることがわかりました。紙と鉛筆とパソコンだけで研究、というわけにいきませんが、研究成果の生産に実験系ほどは研究費を必要としていないようです。
 また、研究費の少ない研究室の中にはその額以上の成果を生み出すコスパの良い研究室が存在することがわかりました。国の研究予算が伸び悩む中、如何に少ない研究費で大きな成果を生み出すかは今後の課題だと思いました[5]。

【参考文献】
[1]、富はスーパースターに 労働分配率、世界で低下(日本経済新聞、2017/10/31)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO22937520R31C17A0EE8000/
[2]、ジョン・ガートナー 「世界の技術を支配する ベル研究所の興亡」 
[3]、科研費データベース https://kaken.nii.ac.jp/ja/
[4]、 戦略的創造研究推進事業(さきがけ) http://www.jst.go.jp/kisoken/presto/
[5]、英科学誌ネイチャーが日本の科学研究予算削減の記事 「科学力の失速は当然」と指摘 https://news.nifty.com/article/economy/business/12117-6902/

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