2016-17年度フィジカルレビュー誌流行語調査...みたいな?



【イントロ】
 世の中にはタイミングを逃すと手に入らないものってありますよね。
 流行とかもその一つだと思いますが、「なんだか盛り上がってるな~」というのを斜に構えて傍観している間にお祭りが終わってしまって楽しめないといったことがあったりします。最近だとビットコイン[1]の価格変動がそれにあたるかなと個人的には思いますが、いかんせん変動が大きすぎて手を出すのに躊躇してしまいます。仕事より楽しそうですけど。。。
 研究でもやはり流行り廃りがあったりします。個人的な趣味の固体物性分野だと一昔前なら高温超伝導[2]、最近ならトポロジカル物質[3]や量子コンピュータ[4]関連が流行に当てはまるでしょうか。研究者としてはそうした流行に乗るよりも、自分が流行を作り出す側に回るべきですが、ホットな分野で意義のある結果を出すのも一つの才能だと思うので一概に流行分野に手を出すべきではないと言えないなぁ、と思っています。それに、流行分野のほうが研究費も取りやすいですしね。
 本記事では、2016-2017年にかけてどういった研究が物理分野で流行したのかを調査しました。具体的にはアメリカ物理学会誌の発行する物理専門誌Physical Review誌[5]に掲載された論文タイトルに頻出する単語を調べることで、当該年度に流行した研究対象を明らかにすることを目的としました。

【方法】
 具体的には図1に示したPhysical Review L, A, B, C, D, Eに2016/11~2017/5に掲載された論文1250本の論文タイトルをWeb scrapingにより取得し、エクセルのピポットテーブル機能を使用して頻出単語の出現数を比較しました。Excel is God...
調べた時期が上記期間なのはその時暇だったからです。

図1、Physical Review誌の説明[5]

【結果】
 図2に各雑誌の頻出単語上位20個を抜き出した結果を示します。論文タイトルの色は各雑誌HPのトップ画像の色をイメージしています。
図2、各雑誌の頻出単語上位20個

 文字が小さくてわかりにくい。。。そんな(自分の)声にお答えして、図3に上位5個を抜き出した結果を示します。行列が入れ替わってますが、許していただきたい。

図3、各雑誌の頻出単語上位5個

 とりあえず、””Quantum””ってタイトルに入れておけば良いんじゃないですかね。。。という結果になりました。もう少し具体的に見ていきましょう。
 PRLでは、”Quantum”、”Phase”、”Spin”といった単語が上位に来ています。総合誌ということもあり、さまざまな現象の基礎にある量子性や相転移、スピンといった概念が上位に来ています。
 PRAでは、”Quantum”、”Atom”、”Bose-Einstein”といった単語が上位に来ています。原子物理を扱うこともあり量子性を反映する原子の振る舞いやBose-Einstein凝縮[6]を扱う内容が流行しているようです。
 PRBでは、”Spin”、”Topological”、”Magnetic”といった単語が上位です。流行のトポロジカル物性だけでなく。固体の磁性という基本的な性質も根強い人気を保っているようです。
 PRCでは、”Nuclear”、”Collision”といった単語が上位です。原子核物理を扱うこともあり、原子核同士の衝突からみえる現象の報告が流行しているようです。重原子核の衝突によるクオークグルーオンプラズマ[7]とかが流行ってるイメージですがどうなんでしょう?
 PRDでは、”Dark”、”Black”、”Gravity”といった単語が上位に来ています。これは暗黒物質[8]や重力波[9]関係の研究が流行っていることを示唆しているでしょう。どちらも物理的にも面白く、基礎原理に与える影響も大きい内容なので、みなさんが流行に乗っかるのも当然かなという個人的な印象です。唯一上位に”Quantum”が来てないのは、相対論の影響のほうが強いからでしょうか?
 PREでは、”Dynamics”、”Networks”等が上位です。統計分野ということもあり、多粒子のダイナミクスやネットワーク構造、相転移の研究が流行しているようです。具体的に何が流行ってるかよくわからんぞい。

【まとめ】
 本記事では、2016-17年度にPhys. Rev.誌に掲載された論文のタイトルを調べることで物理の各分野の流行を調べました。とりあえず、”Quantum”な現象がほとんどの物理の分野でホットなことがわかりました。むしろ、量子性は現代物理と切り離せない関係なので流行というより、普遍的な概念といったほうが正しそうです。
 今後としては、各雑誌10年前の論文タイトルを同様に調べることでこの10年での流行の変遷を調べるのもおもしろそうです。
また、物理専門誌であるPhys. Rev.誌ではなく一般誌であるNatureやScienceの調査を行うことで、科学一般にどのような内容が流行しているか明らかにしてみるのも意義深いように思えます。
 何が流行で何が普遍的な概念なのか、それを見極めるのも研究者に必要な能力かもしれません。

【参考文献】(Wikipediaです。。。)
1,ビットコイン
2,高温超伝導
3,トポロジカル物質
4,量子コンピュータ
5,Physical Review誌
6,Bose-Einstein凝縮
7,クオークグルーオンプラズマ
8,暗黒物質
9,重力波



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