Cond-matの論文タイトルから固体物性の流行を探る(2018)

【イントロ】
2019年が始まりました!
平成最後の4ヶ月!
新たな年号への期待!!
一年後に迫ったオリンピックへの盛り上がり!!!
夢と希望に満ち溢れた明るい未来がやってきました!!!!
乗るしかねぇぜ、このビッグウェーブに!!!!!
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!

 ということで、来る波を予測することができれば、それをうまく乗りこなしてより高みを目指すことができます。
そうした未来を予測する手段として、主に2つ方法があります。
 一つは霊感です。
占いとかおみくじとかですね。確率の神に祈って未来を教えていただく方法です。
ちなみに、今年のおみくじは大吉でした。
 もう一つは、過去のデータから未来を予測する方法です。
未来は過去の延長線上にあると考えれば、これまでの傾向から未来を予測することが出来るはずです。

 そこで今回は、過去の研究の流行から、今年の固体物性の流行を予測してみたいと思います。

【方法】
 まず論文タイトルをプレプリントサーバarXivの固体物性パートであるCond-matから取得します。取得したのは2018,2017,2013,2008,2003,1998の6年分です。次に、各年の論文タイトルを単語に分解し、それぞれの数を計算しました。
 計算に使用したPythonコードはこちらのGitHubにあげているのでご参考ください(公開しているコードを使えば、本記事で使ったデータを生成出来ると思います。。。)

【結果】
 まずは、各年の論文の数をみてみます。
図1、各年の論文数

 2018年の論文数は約18000本で、大体一日70本の論文が投稿されている計算になります。また、1年間の投稿論文数が、10年前と比較しておよそ4倍近くに増えていることがわかります。成長の続いている分野と言えそうです。

 次に、各年の頻出単語上位20個を抜き出してみました。冠詞や前置詞、接続詞といった単語は除いています。
ちなみにすべての年で最頻出は”of”です(全論文の約半分に含まれます)。
図2、各年の頻出単語上位20個
圧倒的”Quantum”。固体物性と量子力学が密接に関連していることがわかりますね。
 2008年以降は”Graphene”が、2013年以降は”Topological”が勢力を伸ばしていることが見て取れます。
 逆に1998年に上位に顔を出していた”Hall”がそれ以降姿を見せていない事がわかります。おそらく”Quantum Hall effect”の研究が盛んだったと推測できます。

 頻出単語ランキングだけを見ていると、どの分野が勢いがあるのか分かりづらいです。そこで、単語数の増減を比較してみました。
図3、各年間の単語数の増加
増加数でみても、”Topological”が流行っていることがわかります。
かつての”Graphene”ブームと同等の勢いが見て取れます。
 また、2018-2017をみると”Neural”、”Network”といった単語が増加していることがわかります。巷で流行りの機械学習と物性を組み合わせた研究がここでも猛威を奮っています。
 さらに、”Twisted”、”Bilayer”の単語からマジックアングルグラフェンを筆頭とするファンデルワールスヘテロ接合の研究がブームになりつつあることがわかります。
 みんな二次元物質好きですね。

 では逆に、人気がなくなっている分野はなにか比較したのが下の図です。
かつての流行りがわかります。

図4、各年間の単語数の減少
Cuprates”、”MgB2”、”Manganites”といった単語から、銅酸化物やMgB2、マンガン酸化物研究の一大ブーム過ぎたことが見て取れます。高温超伝導や巨大磁気抵抗といった研究分野の栄枯盛衰といった趣です。とはいえ、基礎から応用に軸足が移動し、Cond-matに上がらなくなった可能性ももちろんあります。良いことです。
 ちょっとおもしろいのは、”Superconductors”といった単語が2017-2013の間で減少に転じているにもかかわらず、2018年の増加単語に”Superconductivity”が顔を出していることです。鉄系や銅酸化物の一大ブームが過ぎた後、トポロジカル超伝導やマジックアングルグラフェン超伝導の影響でまた人気が出てきたということでしょうか。
 また、2013-1998の変化も面白いですね、スピンパイエルス転移や、ポッツモデル、可積分系の研究が当時は流行っていたようです。

ここで、気になった単語について、各年の単語数の変化をプロットしてみたのが次の図です。
図5、各単語数の経年変化

 やっぱり”Topological”の勢いすごいですね。このブームはしばらく続きそうです。また、”Graphene”や”Superconductivity”は一旦流行の陰りがみえましたが、マジックアングルグラフェンの効果か、再び論文数が上向きになりそうです。
 一方、NatureやScienceの紙面を飾ることが多い”Skyrmion”ですが、増加傾向にあるものの、絶対数は少ないです。やはり観測する手段が限られているのが原因でしょうか。キレイな絵が書けても、万人が取り組めない研究は大変そうです。(個人の感想です

 番外編として、流行りの人名を比較してみました。固体物性によく出てくる偉大な研究者はどなたでしょうか?
図6、各人名単語数の経年変化
”Dirac”と”Weyl”の勢いがスゴイ・・・トポロジカル物質の影響がここにも現れています。また、量子コンピュータへの応用が期待されるマヨラナ粒子の”Majorana”や量子スピン液体の模型で有名な”Kitaev”も順調な伸びを見せています。
 一方確率過程で有名な”Markov”やスピン模型で有名な”Heisenberg”は落ち気味です。”Hubbard”や”Ising”は減少を見せていないのに不思議だなぁと思いました(感想。

【まとめ】
プレプリントサーバCond-matに掲載されている論文タイトルから、今年流行りそうな研究を調べてみました。やはり”Topological"物性の勢いは凄まじく、しばらくブームが続きそうです。また、機械学習を用いた研究や、ファンデルワールスヘテロ接合の研究でも新しい提案や発見が続きそうです。あと、目立ってはいませんが、非エルミート系の物理も伸びを見せそうです。。。
とはいえ、予測される結果が起きてもたいして面白くないですよね。
未来が過去の単純な延長なら、可能性の芽を信じて無駄な苦しみを負わなくても良いのでしょうし。
全く予想外の新しい現象が見つかることを祈っています。
強相関電子系の室温超伝導こい!!!!


コメント

このブログの人気の投稿

有機物量子スピン液体の熱伝導論争の流れを振り返る

【改題】室温超伝導ふたたび!~大丈夫じゃなかった、Natureの論文だもん!~

2023年7月の気になった論文(完全版)