2019年2月の気になった物性系論文(完全版)

2月の気になった物性系論文まとめです。
今月は、量子ホール効果のARPESが個人的に衝撃でした(素人並)
19/2/12 Ver. 1:1-6
19/2/14 Ver. 2:7、8
19/2/20 Ver. 3:9-13
19/2/21 Ver. 4:14
19/2/22 Ver. 5:15-17
19/2/28 Ver. 6:18-20




1,Room temperature strain-induced quantum Hall effect in graphene on a wafer-scale platform
https://arxiv.org/abs/1902.00514
図1、離散化ランダウ準位の運動量分解測定による可視化、しゅごい

コメント:ARPESは物質の電子状態を直接観測する事ができる強力な手段だが、磁場下の光電子検出が困難という問題を抱えている。一方、量子ホール効果は磁場中でエネルギー準位が離散化する現象であり興味深いが、明らかにARPESとの相性が悪い。この論文ではSiCウエハ上グラフェンに生じる歪が生み出す擬磁場(B=41T)を利用し、室温で量子ホール状態のARPESを成功させた驚きの研究です。ほかのTMDや強相関電子系でも実現できるアプローチなのか気になるところです(;゚∀゚)=3ムッハー

2,Imaging quantum spin Hall edges in monolayer WTe2
http://advances.sciencemag.org/content/5/2/eaat8799
図2、トポロジカルな端が光ってる。オレも輝きたい。
コメント:二次元トポロジカル絶縁体の特徴の一つは量子スピンホール状態が生み出す、バルクの絶縁性とエッジに流れる電流である。この論文では単層WTe2のエッジに流れる電流をマイクロ波インピーダンス顕微鏡で直接観測することでこの不思議な現象を可視化することに成功している。トポロジカル物性は端や表面に生じるのでこうした局所測定はいろいろな応用がききそうで面白い。マイクロ波インピーダンス顕微鏡、イケメンなので弱いトポロジカル絶縁体にも適用してみて欲しい。

3,Quantized Photocurrents in the Chiral Multifold Fermion System RhSi
https://arxiv.org/abs/1902.03230
図3、特定の光エネルギー以下で光電流が一定となっているらしい。ちゃーん!
コメント:ワイル半金属で予言されているトポロジカル物性のひとつに、ヘリカルフォトンにより量子化された光電流が生じる、量子化円偏光光起電力効果がある。この論文ではワイルノードを複数もつカイラル半金属RhSiで、ポンププローブテラヘルツ分光をつかってこの現象を初めて観測したことを報告している。ほかに量子化されていない現象ってどんなのがあるんだろう?

4,Berry curvature unravelled by the Nernst effect
https://arxiv.org/abs/1902.01647
図4、結晶構造とか測定の方法とか。ゼーベック効果とよく混乱する。

コメント:異常な熱電効果を示すことでしられるMn3Geに対してネルンスト効果測定を行うことで、フェルミ準位におけるベリー曲率とワイル点までの距離を測定することに成功した研究。熱測定は大変だけど、有益な情報が取得できてかっこいい(^o^)

5,先端の光科学に役立つ第一原理計算ソフトウェアSALMONの開発
https://research-er.jp/articles/view/77048
図5、鮭
コメント:「光が物質に照射すると、まず物質中の電子が動きます。SALMONでは、この非常に短い時間で起こる電子の運動を物質科学の第一原理計算法を用いて計算します。SALMONではさらに、物質中の光の伝搬を計算することが可能」とのこと。光誘起非平衡系の研究はいろいろおもしろい研究がでてきているので、このソフトウェアで参入の敷居が下がれば、もっとおもしろ結果がでるかも><。

6,Synthesis and electronic structure characterization of diamane
https://arxiv.org/abs/1902.01570
図6,圧力に屈し、ダイアマンへと姿をかえるグラフェンちゃん
コメント:グラファイトを単層化するとグラフェンになる。ではダイヤモンドを単層化するとどうなるか?その疑問に対して、少数層グラフェンに高圧をかけることでヘキサゴナル-ダイアマンになることを電気抵抗測定、X線回折、ラマン分光で明らかにした研究。グラフェンと違う現象が見えると楽しいですね。

7,Paradigm shift in electron-based crystallography via machine learning
https://arxiv.org/abs/1902.03682
図7、ディープラーニングは最強にして至高
コメント:通常、結晶構造の解析には実験室X線構造回折、透過電子顕微鏡、放射光X線構造回折などが使われるが、時間もかかってサンプル準備も大変である。そこで電子後方散乱回折とディープラーニングを組み合わせることで、回折パターンだけから自動で結晶構造を推定する方法を提案する論文である。これでめんどくさい解析を回さなくて済むようになれば最高ですね。

8,Experimental observation of dual magnetic states in topological insulators
http://advances.sciencemag.org/content/5/2/eaav2088
図8、表面とバルクで転移温度が違う。温度測定の間隔をもう少し頑張ってほしい。
コメント:トポロジカル絶縁体は表面には電流が流れてバルクは絶縁体の性質をもつ物質である。ではそのとき磁性の振る舞いはどうなっているのでしょうか?この論文では、磁性トポロジカル絶縁体(Tl,Cr)-Bi2Se3を放射光XMCDで調べることで、表面は磁気秩序しているのにバルクは秩序していない、”Dual magnetic state”の存在を報告しています。見た目だけは良いけど、中身はダメな人って感じかな?

9,Anomalous thermal Hall effect in the topological antiferromagnetic state
https://arxiv.org/abs/1902.06601
図9、熱ホール効果のローレンツナンバーと他の物質の比較。
コメント:ホール効果は磁場と印加電圧と直行する方向に電流が流れる現象である。異常ホール効果は外部磁場なしでホール効果が生じる現象である。一方、熱ホール効果は電流の代わりに熱流が生じる現象である。じゃあ、異常熱ホール効果もあるじゃん!ということでこの論文が注目したのがカイラル反強磁性体Mn3Snです。この物質の持つ磁性ワイルフェルミオンが観測された不思議な熱ホール効果に寄与しているようです。うんうん、それもまたベリー曲率だね(o'∀'))ゥンゥン

10,Cavity-enhanced high harmonic generation for XUV time-resolved ARPES
https://arxiv.org/abs/1902.05997
図10、おれのかんがえたさいきょうの時間分解ARPESシステム!
コメント:時間分解光電子分光は、物質の非平衡状態や非占有状態の情報を得る手段として強力だが、従来の高次高調波を利用した極端紫外線光源(XUV)が十分なエネルギー分解能を示さないことが課題であった。この論文では、光源としてフェムト秒増強キャビテイ内高次高調波発生を利用し、8-40eV/60MHzの光源を開発し、時間/エネルギー分解能190fs/22meVを実現している。最近は時間分解ARPESが流行っている()みたいなので、また新しい現象が見つかりそうですね。

11,Universal quantized thermal conductance in graphene
https://arxiv.org/abs/1902.06536
図11、コンダクタンスと熱コンダクタンスが量子化している様子
コメント:伝導度が量子化するのが量子ホール効果なら、熱伝導度は量子化するのか?この問題に答えるため、この論文ではh-BNで蓋をしたグラフェンの熱コンダクタンスを測定し、その量子化を確認している。さらにこの現象が分数量子ホール状態に伴うエッジ再構成を伴わないユニークな現象であることを提案している。熱流って面白いなぁ。

12,Nuclear spin-lattice relaxation time in TaP and the Knight shift of Weyl semimetals
https://arxiv.org/abs/1806.08163
図12、実験結果(赤点)を説明する理論式ッ!
コメント:物質の電子状態を調べる手段の一つがNMRである。特に一般的なフェルミ液体ではスピン格子緩和時間と温度の積が一定になるKorringa則と呼ばれる関係が存在する。では、ワイル半金属の場合この関係はどうなるのか?この論文ではワイル半金属TaPのNMR測定結果を説明する理論を提案し、Korringa則がエネルギー依存するという異常な振る舞いをすることを示している。ARPES/STMだけじゃなくて、いろんな測定手法でワイル半金属が調べられたら、いいっすね。

13,Nano-Resolved Current-Induced Insulator-Metal Transition in the Mott Insulator Ca2RuO4
https://journals.aps.org/prx/abstract/10.1103/PhysRevX.9.011032
図13、電流印加前後のスペクトルの違い。位置分解能すごい・3・
コメント:Ca2RuO4は電流印加による非平衡定常状態で絶縁体-金属転移することが発見され、注目を集めている。その相転移がどのように生じるのか、ナノ空間分解赤外分光により実空間観測した研究である。ナノIR、カッコいいので弱いトポロジカル絶縁体にも適用してみて欲しい。

14,Direct imaging of orbitals in quantum materials
https://arxiv.org/abs/1902.07128
図14、波動関数の形状が再構成されているが、横軸とかのスケールがよくわからない・3・
コメント:遷移金属や希土類化合物は超伝導や磁性を含め、さまざまな興味深い物性を示す。この起源であるd電子やf電子を直接観たくないですか?ということで、この論文ではs波内殻非共鳴非弾性X線散乱により教科書的物質NiOのd軌道を直接観測することに成功している。教科書でしか観たことのない波動関数の形状が直接観測できるというのはすごい時代になったものだなぁ・3・

15,Thermodynamic Quantum Time Crystals
https://arxiv.org/abs/1902.07520
図15、銅酸化物の擬ギャップ相を記述するループカレントモデル=時間結晶説。
コメント:2012年にウィルチェックが提唱した時間結晶は大きな議論を呼び起こした。しかし、2015年にWatanabe-Oshikawaによる平衡状態における不可能定理が提案され、その実現の舞台は非平衡状態に移り現在も理論、実験の両面から研究が続けられている。ところが、この論文では、「不可能定理では基底状態の波動関数が時間依存しないと仮定してるけれど、時間依存しても平衡状態の一般性を失わない」という主張の元、熱力学的平衡状態としての時間結晶が実現可能であることを主張している。さらにそのモデルは、銅酸化物の擬ギャップ相を記述するループカレントモデル、つまり擬ギャップ相は時間結晶相なのだ!Ω ΩΩ< ナ、ナンダッテー!!

16,h/e Oscillations in Interlayer Transport of Delafossites
https://arxiv.org/abs/1902.07331
図16、ドハース振動周期の量子化である。h/2e成分が殆ど見えないのはなんでかな?
コメント:層状デラフォサイトPdCoO2とPtCoO2は超純良な伝導層であるPd/Pt層と絶縁層であるCoO2層からなる層状物質で、面内の平均自由行程は20umというマイクロスケールに達する。こうした物質の層間伝導では何が起きるのか?この論文では、層間抵抗のドハース振動が量子磁束単位であるh/e周期で振動する成分を持つという、新しい量子干渉現象を発見している。磁気輸送にも新しい現象がまだ隠されているのは、物質の奥深さを示していますね。

17,Quantum Anomalous Vortex and Majorana Zero Mode in Iron-Based Superconductor Fe(Te,Se)
https://journals.aps.org/prx/abstract/10.1103/PhysRevX.9.011033
図17、普通の渦糸状態と量子異常渦糸状態の模式図。(o'∀'))ゥンゥンチ
コメント:マヨラナ粒子は誤り耐性非アーベリアン量子コンピュータを実現する上で必要となる構成要素だが、その実験的な実現は容易ではない。一つの候補は超伝導体の渦糸中のマヨラナゼロモードを利用する方法だが、外部磁場の必要性や渦糸状態中の低エネルギー状態、乱れの存在により安定性を失うことが課題となっていた。この論文では、強いスピン軌道相互作用をもつs波超伝導体中の磁性不純物周辺で、ゼロ磁場で渦糸状態が生じる”量子異常渦糸状態”が実現する可能性を提案している。その実証の場としてFe(Te,Se)が候補に挙げられているが、人気者である。

18,Solving the electronic structure problem with machine learning
https://www.nature.com/articles/s41524-019-0162-7
図18、機械学習と従来DFT計算の計算時間の差の比較
コメント:Kohn-Sham(KS)方程式に基づく密度汎関数理論(DFT)は電子状態の計算によく使われるが、O(N^2)で増大する計算時間の問題で数百個の原子にしか適用できないという課題があった。この論文では、機械学習で推定したKohn-Sham方程式の解を利用することで、O(N)のオーダーでKS-DFTの結果を忠実に再現する電子状態を求める方法を提案している。やっぱ、機械学習ってすごい!

19,Imaging the Formation of Ferromagnetic Domains at the LaAlO3/SrTiO3 Interface
https://journals.jps.jp/doi/abs/10.7566/JPSJ.88.034717
図19、磁気円二色性の測定原理と磁気ドメインの可視化

コメント:LAO/SAT界面の強磁性の起源は様々な方法で研究されてきたが、その謎は解明に至っていない。この論文では、空間分解能2.6nmのレーザー励起光電子顕微鏡を利用することで、強磁性ドメインの可視化に成功している。酸素欠損と強磁性ドメインとの間に強い相関があることから、酸素欠損に局在化した電子と二次元電子の相互作用により強磁性が生じるメカニズムを提案している。実空間を可視化できる測定手法はカッコいいしインパクトありますね。

20,Cryogen-free variable temperature scanning SQUID microscope
https://arxiv.org/abs/1812.03215
図20、走査型SQUID顕微鏡のグラビア
コメント:走査型SQUID顕微鏡は局所磁気状態をしらべる強力な手段だが、サンプルの冷却に低振動の冷却機構を用意する必要があり辛い。そこでこの論文では、顕微鏡を3KのBluefors cryocoolerに乗せることで面内20nm、上下方向15nm以下に振動を抑えた、低振動無冷媒温度可変走査型SQUID顕微鏡を実現している。2.8Kから110Kまで温度を変えて測定することが可能で、今後は非従来型超伝導や粘性電子流体、時間分解ジョセフソン効果、ボルテックス挙動の観測にチャレンジするらしい。オリジナルなすごい装置作れると面白い結果出ますよね。

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