2019年4月の気になった物性系論文(完全版)

4月の気になった物性系論文です。
新年度、気合を入れて頑張るぞ~~
そして、平成が終わる。。。
19/4/9   Ver. 1 : 1-6
19/4/17 Ver. 2 : 7-11
19/4/24 Ver. 3 : 12-18
19/4/30 Ver. 4 : 19-24、8追記



1,Magnus Hall Effect (マグナスホール効果)
https://arxiv.org/abs/1904.00013
図1,マグナスホール効果の模式図。絶対にキャリアを曲げる強い意志を感じるレイアウトである。
コメント:ホール効果は、古典的ホール効果にはじまり、異常ホール効果、量子ホール効果、スピンホール効果、熱ホール効果など固体物理の進歩につながってきた。この論文では、ベリー曲率が生み出す新しい線形応答ホール効果、”マグナスホール効果”を提案している。これはグラフェンやTMDのHallバーを作り、ソースとドレインのキャリア濃度をゲート電圧を使って制御することで、マグナス効果の類推としてゼロ磁場ホール効果を実現するものである。そのうち、量子化やスピン版がでてくるのかな?

2,NetKet: A Machine Learning Toolkit for Many-Body Quantum Systems
(NetKet:多体量子系計算のための機械学習ツール)
https://arxiv.org/abs/1904.00031
図2、NetKetのアルゴリズムの模式図。機械学習してる感ある(わからない)
コメント:機械学習手法の量子多体系への応用における目標の一つが、複雑な量子問題をニューラルネットワークを用いてコンパクトに表現することである。このニューラルネットワーク量子状態(NQS)と呼ばれる方法を、教師あり/なし学習、基底状態/励起状態探索、ユニタリ/散逸量子多体系に対して適用する簡単なソフトウェアが求められてきた。その要求に対して、この論文はNetKetと呼ばれるPythonベースのオープンソースソフトウェアを提案している。時代は機械学習、はっきりわかんだね(。>∀<。)ニコッ

3,Evidence for a Vestigial Nematic State in the Cuprate Pseudogap Phase
(銅酸化物の擬ギャップ相における痕跡ネマティック状態の証拠)
https://arxiv.org/abs/1904.00915
図3、銅酸化物の相図は色んな測定から決定されているなぁ(こなみ
コメント:銅酸化物の際立った特徴といえば擬ギャップ(PG)の存在だが、近年のサブ格子-位相分解走査型イメージングの発達でQ≠0の密度波(DW)状態とQ=0のネマティック(NE)状態の存在が明らかになっている。今回の論文では、本来関係ないはずのDWとNE状態がともにPGエネルギースケールでスペクトル強度が最大となること、ギャップが開くはずのDW状態ではギャップに変化がなく、ギャップが開かないはずのNE状態の出現とPGの出現温度が一致していることを明らかにしている。この予期せぬ振る舞いを”Vestigial Nematic state”という新たな電子状態で説明しているが、やはりコーネル大のSTMは文明の先をいってるなぁ(素人並。

4,Shot Noise as a probe for the pairing symmetry of Iron pnictide superconductors
(鉄系超伝導の対称性を決定する手段としてのショット雑音)
https://arxiv.org/abs/1904.00201
図4、s+-波とs++波のショット雑音のファノ因子のエネルギー依存性。実験でも区別できるかな?
コメント:鉄系超伝導体の研究に残された大問題の一つが、超伝導対称性の決定である。特に有力な候補である位相反転s波(s+ー)と同符号s波(s++)を結論付ける決定的な研究が望まれている。これまで有力な証拠としてこれまで不純物効果や中性子散乱ピーク位置、STMによる位相観測も、互いが互いを説明する理論が提案され、膠着状態にあった(棒)。この論文では、常磁性金属/超伝導または強磁性金属/超伝導ヘテロ接合のショット雑音測定が2つの対称性で決定的な違いを生み出す、位相決定のシルバーバレットとなりうることを提案している。みんなトポロジカルに忙しくて、もう興味ないのかな?対称性決定ぜひ頑張って欲しいですね。

5,Pronounced drop of 17O NMR Knight shift in superconducting state of Sr2RuO4
(Sr2RuO4の超伝導状態における17OのNMRナイトシフトの顕著な減少)
https://arxiv.org/abs/1904.00047
図5,親方、ナイトシフトが落ちている( ;・`д・´)
コメント:固体物理長年の謎の一つが、Sr2RuO4の超伝導対称性がp波対称性なのかという問題である。p波超伝導に期待されるカイラルエッジ電流が検出出来ないこと、最近の比熱や熱伝導度測定からp波の予想と一致しない水平/垂直ノードの存在が指摘されていることからp波以外の可能性が指摘されている。この論文では、p波の強い証拠と考えられてきた「NMRナイトシフトがTc以下で減少しない」という振る舞いが、実は測定時の印加パルスの大きさに依存している、つまりパルス出力次第でナイトシフトが減少すること、そしてそれが結晶に歪みをかけても変わらないことを報告している。この結果からp波以外の対称性が提案されているが、Tc以下での自発磁化の発現と歪みによるTc上昇を同時に説明できる理論がいまのところ存在せず、俺たちの戦いはこれからだ!

6,Signature of the Quantized Thermoelectric Hall Effect in a Topological Weyl Semimetal
(トポロジカルワイル半金属における量子化熱電ホール効果の兆候)
https://arxiv.org/abs/1904.03179
Quantized plateau in the thermoelectric Hall conductivity for Dirac electrons in the extreme quantum limit
(超量子極限におけるディラック電子由来の熱電ホール伝導度の量子化プラトー)
https://arxiv.org/abs/1904.02157
図6、TaPとZrTe5の熱電ホール係数の磁場依存性。TaPの値のほうが1000倍くらい大きいぞい。
コメント:トポロジカル半金属の熱電効果に関して、近年の理論研究から、量子極限において不飽和縦熱電出力や飽和熱電ホール係数が実現することが予想されている。この2つの論文ではそれぞれTaPとZrTe5という代表的なディラック/ワイル半金属に対して熱電ホール測定を行い、高磁場・極低温で熱電ホール効果が一定値に収束する”量子化熱電ホール効果”を観測することに成功している。トポロジカル熱電効果研究の幕開けかな?

7,Observation of Majorana conductance plateau by scanning tunneling spectroscopy
(走査型トンネル分光でみたマヨラナ伝導度プラトー)
https://arxiv.org/abs/1904.06124
Quantized conductance of Majorana zero mode in the vortex of the topological superconductor (Li0.84Fe0.16)OHFeSe
(トポロジカル超伝導体(Li0.84Fe0.16)OHFeSeのボルテックス中のマヨラナゼロモード由来の量子化コンダクタンス)
https://arxiv.org/abs/1904.04623
図7,起源はともかく量子化しているのは見て取れるコンダクタンス。マヨラナいつも見つかってんな。
コメント:マヨラナゼロモード(MZM)は空間的に局在した分数励起で非アーベル統計に従うトポロジカル量子コンピュータ実現に不可欠な存在で、最近鉄系超伝導体のボルテックス中に存在することが報告されているが、さらなる検証が必要とされていた。今回の2つの論文では、(Li0.84Fe0.16)OHFeSeとFe(Te,Se)において、STM針とゼロバイアスモードの間にマヨラナ誘起共鳴アンドレーエフ状態が形成され、コンダクタンスが2e^2/hに量子化することを報告しており、MZMの存在をさらに支持する結果となっている。STMはやはりすごい・3・しかし、片方はCPL、もう一方はScience投稿中とはどういうことなのか。。。

8,Non-Majorana Origin of the Half-Quantized Conductance Plateau in Quantum Anomalous Hall Insulator and Superconductor Hybrid Structures
(量子異常ホール絶縁体・超伝導ハイブリッド構造における非マヨラナ励起由来の半整数量子化コンダクタンスプラトー)
https://arxiv.org/abs/1904.06463
図8、二端子間の間にNbストリップを増やすとコンダクタンスが減っていく。Why...
コメント:量子異常ホール絶縁体/s波超伝導体接合にはマヨラナフェルミオンが出現すると言われており、最近観測された半整数量子化コンダクタンスがその証拠と言われている。ところが、半整数量子化の起源はマヨラナ励起以外にもあり得る。この論文では、磁性トポロジカル絶縁体/Nb接合の二端子コンダクタンスを詳細に、30以上のデバイスで調べ、その半整数量子化がカイラルマヨラナ励起によるものではなさそう、ということを報告している。マヨラナ励起の闇はDeep...
4/30追記:反論のShort noteが出てました。「いや、サンプルの品質の問題では」という内容です。難しいデバイスだ。。。

9,Converse flexoelectricity yields large piezoresponse force microscopy signals in non-piezoelectric materials
(逆flexoelectricityによる非ピエゾ物質における巨大ピエゾ応答)
https://www.nature.com/articles/s41467-019-09266-y
図9、ピエゾ応答の模式図。なんかえっちだ。。。
コメント:ピエゾ応答顕微鏡はサンプルと探針の間に電圧をかけて圧電効果をみる測定手法である。一方、”Converse flexoelectricity”(日本語でおk)は、電気分極の勾配が機械的ストレスを生み出す反応で任意の物質でおきる。この論文では、理論と実験から、ナノスケール物質のピエゾ応答を測定しようとすると、Converse flexoelectricityのせいで、非ピエゾ応答物質でもピエゾ応答が生じてしまうことを報告している。他にも偽のピエゾ応答を引き起こす原因は色々あるらしい(参考レビュー)。ピエゾ応答の奥は深いぜ。

10,Towards Prediction of Financial Crashes with a D-Wave Quantum Computer
(D-wave量子コンピュータを利用した財政破綻の予測に向けて)
https://arxiv.org/abs/1904.05808
図10、経済ネットワークの例。ニューラルネットワークを感じる(適当
コメント:複雑に絡み合った経済ネットワークにおける財政破綻の予言はNP困難問題であることが知られており、古典的コンピュータでは効率的に解決できない。そこでこの論文では、問題をスピン系に焼き直してD-wave量子コンピュータで効率的に解く手段を実験的に示している。具体的には非線形財政モデルを高次非制限バイナリ最適化問題に埋め込み、それを2キュービット相互作用をもつスピン1/2ハミルトニアンに変換することで、問題を相互作用するスピン系の基底状態を探る量子アニール問題に帰着させている。色んな問題が量子アニール問題に帰着できるのすごい・3・

11,Intrinsic Ferromagnetism in Electrenes
(エレクトレンにおける内因性強磁性)
https://arxiv.org/abs/1904.04952
図11、LaBr2の強磁性転移温度のキャリア量依存性をモンテカルロ計算で求めたもの。
コメント:この論文では、単層エレクトライド、別名エレクトレンは過剰な電子がアニオンとして振る舞い、二次元強磁性を示すことを報告している。この強磁性は従来の二次元強磁性物質におけるd軌道由来のものではなく、アニオン的電子由来という点で本質的に異なっていることを第一原理計算から示している。この論文ではLaBr2を例にとって計算を行っているが、エレクトライドの種類は豊富であり、最近では量子ホール効果やトポロジカル物性が報告されている。エレクトライドの流れ、来てるな( ;・`д・´)ゴクリ

12,Thermodynamic evidence for novel quantum criticality in a frustrated metal
(フラストレーション金属における新奇量子臨界状態の熱力学的証拠)
https://arxiv.org/abs/1904.08663
図12、エントロピー-磁場方位-温度相図。面内に磁場を向けると異常が起きる。
コメント:幾何学的フラストレーションが長距離磁気秩序を抑制したとき、そこに量子臨界状態は現れるのか、そして、それは新規性があるのか?この問題に関して、この論文ではカゴメ格子近藤物質CeRhSnを対象に、角度分解比熱測定を行うことで、ゼロ磁場では存在しない、”量子臨界線”に隔てられた幾何学的フラストレーションが生み出す新しい量子臨界相が存在することを報告している。強烈な実験手段と新しい現象の発見、かっこいい(*^^*)。

13,Higher-Order Topological Insulators in Quasicrystals
(準結晶における高次トポロジカル絶縁体)
https://arxiv.org/abs/1904.09932
図13、準結晶タイルと端に局在した状態密度
コメント:d次元物質で(d-1)次元状態をもつトポロジカル絶縁体を越えて、(d-2)次元以下に局在した状態をもつ高次トポロジカル絶縁体に注目が集まっている。この論文では、この高次トポロジカル状態(量子化四重極トポロジカル絶縁体)が準結晶でも実現しうることを報告している。さらに準結晶の一種であるAmmann-Beenkerタイリングを古典電気回路で実現し、コーナーに局在状態が現れることを示している。準結晶でも、やはり低次元トポロジカル絶縁体の重ね合わせとして理解(Physical Review B 98, 205129 (2018).)できるのかな?(無知)

14,Tunable Berry Curvature Through Magnetic Phase Competition in a Topological Kagome Magnet
(トポロジカルカゴメ磁性体における磁気競合を利用した可変ベリー曲率)
https://arxiv.org/abs/1904.09353
図14、Co3Sn2S2の磁気状態の温度依存性。突然あらわれるAFM成分。。。
コメント:磁性トポロジカル物質候補であるカゴメ格子Co3Sn2S2の磁気状態は謎が多い。この論文では、μSRを用い、この物質が強磁性転移温度Tc以上で面内FM・面間AFMの競合状態にあり、その磁性が異常量子ホール効果と関連していること静水圧と磁場でこの競合状態を制御できることを報告している。相変わらずμSRの結果は点と線なので、魅せ方が大変そう(こなみ)。外場によるベリー曲率制御のできる貴重なトポロジカル物質らしいので、ほかにも面白い現象みえるかな?

15,The Physics of Pair Density Waves
(ペア密度波の物理)
https://arxiv.org/abs/1904.09687
図15、超伝導秩序変数が空間変調する図。間のオレンジはCDWちゃん。
コメント:Pair density wave(PDW)は超伝導秩序変数が周期的に変調する超伝導状態であり、空間平均がゼロとなるFFLO状態や単純なSC-CDW共存相とは熱力学的に異なる状態である。最近の研究から、銅酸化物においてこのPDWの存在を示唆する報告が多数なされている。このレビューでは、PDWの現象論や銅酸化物の実験結果の批判的考察、他の物質での実現(有機物、鉄系、重い電子系、冷却原子ガス)について総括的に報告している。PDWの起源、気になりますね><

16,Chiral sound waves in strained Weyl semimetals
(歪んだワイル半金属におけるカイラル音波)
https://arxiv.org/abs/1904.09113
図16、カイラル音波のイメージ図。軸性-軸性-軸性異常の一種らしい(わからん
コメント:ディラック・ワイル半金属の低エネルギー励起はワイルフェルミオンとして記述され、高エネルギー物理で予言されるカイラル異常、重力異常、Conformal異常、Torsional異常等に関連した物理現象が実験的に報告されている。この論文では、クオーク・グルーオンプラズマ中で存在が予言されているカイラル磁気波の音波版である、カイラル音波が歪んだワイル半金属中で観測されうることを提案している。こういう新しい現象を予言する研究は好きですね。

17,A New Magnetic Topological Quantum Material Candidate by Design
(デザインされた新しい磁性トポロジカル量子物質候補)
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acscentsci.9b00202
https://arxiv.org/abs/1903.03888
図17、EuSn2P2のバンド分散。PをみるとAsだとどうなるか気になる病。
コメント:磁性と非従来型バンド構造が結びつくと、量子ホール効果やアキシオン電磁気学など興味深い現象が生じる。この論文では新しい磁性トポロジカル物質として強磁性Eu層とSnP層が積層したEuSn2P2の輸送特性、中性子散乱、ARPESの結果を報告している。バンド計算からこの物質が強いトポロジカル絶縁体で有ることが示唆され、実際にARPESにより表面状態が観測されている。今後のスピン偏極測定でその正体が明らかになるかな+ (0゚・∀・) + ワクワクテカテカ +

18,Absence of magnetic thermal conductivity in the quantum spin liquid candidate EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2 -- revisited
(量子スピン液体候補EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2における磁気熱伝導度の非存在)
https://arxiv.org/abs/1904.10395
Thermal conductivity of the quantum spin liquid candidate EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2: No evidence of mobile gapless excitations
(量子スピン液体候補EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2の熱伝導度:高移動度ギャップレス励起を示唆する証拠はない)
https://arxiv.org/abs/1904.10402
図18、京都の熱伝導の結果を再現できない米中グループ。比熱は再現できている(なんでだ。。。)
コメント:幾何学的フラストレーションの生み出す量子スピン液体(QSL)の実験的検証は、現代固体物理の中心課題の一つである。その強い証拠となるのがQSL状態からのギャップレス励起であるスピノンを熱的手段で検出することである。これまで多くの比熱測定が行われ、いくつかのQSL候補で理論的に予言されている温度に線形比例する比熱成分が観測されてきた。しかし、極低温比熱成分は核磁気比熱成分を含むため、そうした局在成分に非敏感な熱伝導測定による検出が望まれていた。その金字塔的測定が、Scienceに報告されたM. Yamashita等によるEtMe3Sb[Pd(dmit)2]2(dmit-131)におけるギャップレスQSLに起因する巨大な残留熱伝導成分の観測である。ところが、その後の他のQSL候補物質の熱伝導測定では同様の残留熱伝導度が観測されることはなく、QSLの性質に疑問が深まっていた。今回の2つの論文では、dmit-131の熱伝導測定を独立した米中2つのグループが再検証し、どちらも有限の残留熱伝導度の存在を”再現できない”という報告をしている。両グループともサンプル提供は同一の理研グループであり、複数の端子固定方法を検証し、複数のサンプルで再現性良く、動けるギャップレス励起の非存在を結論づけている。不思議なのは、Li等の比熱測定では先行研究を再現できており、熱伝導測定の難しさを物語っている。全員、同じ理研グループのサンプルを測定している以上、M. Yamashita等が再現実験をしないと藪の中になってしまいそうな状況である。とはいえこれで、現在存在するQSL候補物質の中で有限の残留熱伝導度を確実に示す物質がなくなったとのことですが、QSLの検証は大変ですね。。。

19, Chiral Gravitons in Fractional Quantum Hall Liquids
(分数量子ホール状態におけるカイラルグラビトン)
https://arxiv.org/abs/1904.12231
図19、グラビトンの発現を示すスペクトル分布。なるほどこれはほんとにわからん。
コメント:分数量子ホール(FQH)状態の中性励起として有限波数の”ロトン”がこれまで盛んに研究され、実験的にも電磁波励起により観察されてきた。一方で長距離極限の中性励起はその存在も含めて議論が続いていた。この論文では、FQH状態における長距離極限の中性励起が、内部幾何学的自由度を反映した、角運動量を伝搬するカイラルグラビトンとして振る舞うこと提案している。実験的にはFQH状態中の音波伝搬での観測や、最新の非弾性光散乱実験で既に観測できている可能性を提案している。固体中での重力波のアナロジー、スケールが大きくて面白いですね。

20, Dirac and Weyl Fermions in 3D Hopf-linked Honeycomb Lattices: Hopfene
(3Dホップリンクハニカム格子におけるディラック・ワイルフェルミオン:ホップフェン)
https://arxiv.org/abs/1904.12784
図20、Hopfpheneの結晶構造。グラフェンが縦横に並んでいるが、どうやって作るんだ。。。
コメント:炭素同素体はカーボンナノチューブ、フラーレン、グラフェンと様々な特徴的な結晶構造を持っているが、いずれもトポロジカルに自明なものである。この論文では、グラフェンを垂直・水平方向に積層した新しいトポロジカルに非自明な同素体、Hopf-linked graphene, Hopfeneを提案している。Tight-binding modelにより電子構造を計算し、グラフェンの2Dディラック電子はトポロジカルに保護され、さらに1D, 2D, 3Dワイルフェルミオンが低エネルギー励起として存在していることを明らかにしている。どうやって作るんだこの物質。。。

21, Observation of a gel of quantum vortices in a superconductor at very low magnetic fields
(超低磁場における超伝導量子ボルテックスのゲル状態の観測)
https://arxiv.org/abs/1904.10999
図21、磁気力顕微鏡でみたボルテックス分布の磁場依存性。
コメント:Type-Ⅱ超伝導体の量子化ボルテックスは低磁場でアモルファス状態になることが知られている。この論文では一次元構造欠陥を持つβ-Bi2Pdの低磁場ボルテックス状態を高分解能磁気力顕微鏡により観察することで、ボルテックス分布がマルチフラクタルを示すこと、ボルテックス間距離の分散が磁場を小さくするにつれて発散することを明らかにしている。すなわち、ボルテックスがアモルファス状態ではなく、”ゲル”状態になっていることを意味し、新しいボルテックス物質状態の発見である。歪んだ拡張構造欠陥を持つType-Ⅱ超伝導体ではユニバーサルに見えるはずとのことなので、他の物質で検証できると良いですね。

22, Skyrmion solids in monolayer graphene
(単層グラフェンにおけるスキルミオン固体)
https://arxiv.org/abs/1904.11485
図22、QH強磁性状態(上)ではマグノン伝搬するがスキルミオン固体中(下)では散乱されてしまう。かなしい。
コメント:部分的に満たされたランダウ状態は様々な競合する秩序を内在しており、整数フィリングに近いときは電子固体状態が優勢で、そのご分数量子ホール状態に変化していく。この研究では、グラフェンの強磁性量子ホール状態にあるν=1ランダウ状態にキャリアを少し注入することで、スキルミオン結晶が生じることをマグノン輸送実験から明らかにしている。グラフェンはいろんな面白いことが起きるんだなぁ。

23, Second critical temperature in conventional superconductors
(従来型超伝導体の第二転移温度)
https://arxiv.org/abs/1904.10942
図23、表面(図中端)でギャップサイズがバルクよりも大きくなっている。ほんとにぃ?
コメント:BCS超伝導体において表面とバルクの転移温度が同じ、または秩序パラメータが同じ温度で消失するかは基本的な問題である。CdGMらによる線形化方程式を用いた古典的な研究により、バルクと表面の秩序パラメータは同じであるという境界条件が導かれている。しかし、この標準的な見解は、CdGMらも認めているように境界近傍では成り立たず、また、計算の仮定としてバルクの超伝導が仮定されており、表面との一致はアプリオリには保証されていない。この論文では、CdGM理論を見直すことで、表面の転移温度が、不均一にバルクよりも高くなりうることを解析的・数値的に示している。これまで観測されてきた比熱ジャンプの広がりや、表面でのTc増大も説明できるとしているが、ホントかは別にして、BCS理論も奥が深い。

24, Ideal type-II Weyl phonons in wurtzite CuI
(ウルツ鉱CuIにおける理想的Type-Ⅱワイルフォノン)
https://arxiv.org/abs/1904.12466
図24、温度差と円偏光で誘起されるワイルフォノンバレーホール効果
コメント:トポロジカルに非自明なバンドタッチングを示すワイル物質は新しいデバイス開発の基礎となると期待されている。この論文では第一原理計算を用いて、理想的Type-Ⅱワイルフォノンがヨウ化銅CuIで実現することを示している。バレーホール効果のアナロジーとして円偏光誘起ワイルフォノンホール効果の創発を予言しており、実験的検出が望まれる。ワイルフォノニクスの時代きたな(゚∀゚)キタコレ!!

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