2019年8月の気になった物性系論文(完全版)

8月の気になった物性系論文です。
辛い辛いゆってるだけじゃなくて行動に移さないといけない。

今月はやはりニッケル酸化物超伝導の発見がすごいですね。
今後どう転んでいくか、興味深いです。
あとはトポロジカルカー効果の発見かな~♪

19/8/24   Ver. 1 : 1-11
19/8/31   Ver. 2 : 12-16



1,Quantum oscillations in diamond field effect transistors with an h-BN gate dielectric
https://arxiv.org/abs/1907.13500
図1、ダイヤモンド電界効果トランジスタとSdH効果。最高のh-BNが使われている。
コメント:ダイヤモンドは次世代半導体の素材として注目を集めているが、その電荷輸送は表面近傍の不純物に阻害されていた。この論文ではh-BNをゲート電極として利用したダイヤモンド電界効果トランジスタを作製し、表面近傍の二次元ホールガスに由来する量子振動を縦磁気抵抗とホール抵抗に観測することに成功している。
NIMSオールスターによるすごい結果。
すごいぞ、Dr. Watanabe & Taniguchi!

2,Observation of three-state nematicity in the triangular lattice antiferromagnet Fe1/3 NbS2
https://arxiv.org/abs/1908.00657
Nematic state in CeAuSb2
https://arxiv.org/abs/1908.07649
図2,屈折率でみたネマティシティ(左)と反強磁性相転移と関連したネマティシティ相図(右)
コメント:ネマティシティ、それは並進対称性は破れていないが回転対称性が破れた液晶のような状態。固体中の代表的な例は鉄系超伝導体におけるC4対称性格子上のC2対称性電子系の創発で、”Ising-nematic”と称される。
1つ目の論文では、三角格子反強磁性体Fe1/3NbS2はZ3 Nematicityと呼ばれる三状態Pott-nematic秩序が生じ、その方向を外部ストレスにより調整できることを空間分解光学偏光測定により明らかにしている。
2つ目の論文は、正方晶CeAuSb2の高圧下熱測定及びX線構造解析により、TN=6.3Kのストライプ反強磁性秩序と結びついた回転対称性を破る構造相転移が存在する、つまりネマティック秩序の徴候があることを報告している。振る舞いが鉄系超伝導に似ているので、もしかしたら超伝導も発現するかもね(していない)とのこと。
(o'∀'))ゥンゥン、それもまた量子液晶だね。

3,Precision Measurement of the Optical Conductivity of Atomically Thin Crystals via Photonic Spin Hall Effect
https://arxiv.org/abs/1908.02043
図3、フォトニックスピンホール効果測定の模式図。スピンを感じる。
コメント:原子層物質の光学伝導度は重要な物理量だが、その測定は非常に小さな光・物質相互作用のために難しい。
この論文では、光学伝導度に敏感なフォトニックスピンホール効果を利用することで、グラフェンの光学伝導度を測定し、「a universal constant of (0.993±0.005)σ0 is detected, and a high measuring resolution with 1.5×10−8Ω−1 is obtained」を得たことを報告している。原子層物質だと光学伝導度みたいな基本的なパラメータも測定が難しいんだなぁ。

4,Point Node Gap Structure of Spin-Triplet Superconductor UTe2
https://arxiv.org/abs/1908.01069
図4,残留熱伝導度の磁場依存性。少なくてもs波っぽくはないギャップ構造のようだ。
コメント:UTe2の超伝導ギャップ構造の特定は、超伝導対称性の決定につながるため、重要な問題である。この論文では、比熱測定(C∝T^3)、熱伝導測定(κ∝T^3、∝H)、磁場侵入長測定(λ∝T^2)を行うことにより、a軸方向にポイントノードが存在するスピン3重項超伝導である可能性を提案している。
p波超伝導はUTe2の時代やね(棒)。
これって、一回測定した装置はウランに汚染されて専用装置になるのかな?

5,Nanoscale imaging of equilibrium quantum Hall edge currents and of the magnetic monopole response in graphene
https://arxiv.org/abs/1908.02466
図5、非圧縮QH状態においてトポロジカル電磁効果が生み出す磁気モノポール
コメント:時間反転対称性の破れた系におけるトポロジカル磁気電気効果としての磁気モノポールの創発が理論的に予言されている。
この論文では、グラフェン量子ホール状態における走査型SQUID測定により、ミクロな電流によるモノポール創発を直接観測することに成功している。さらにチップ先端に発生する振動を利用することで、平衡量子ホール系のエッジ状態に生じるエッジ電流の可視化にも成功している。平衡状態ではエッジ電流は一方向に流れるカイラル電流であるとの予想に反し、トポロジカルなエッジ電流と非トポロジカルな対向流が常にセットで存在しているという結果は、量子ホール系における電荷・エネルギー輸送に新しい知見をあたえるかもね、とのこと。

6,Novel highest-Tc superconductivity in two-dimensional Nb2C MXene
https://arxiv.org/abs/1908.03987
図6、Nb2CがMXene最強であることを示すグラフ
コメント:二次元超伝導がいま熱い。
この論文では、二次元物質の一種MXeneであるNb2Cが、MXene最高のTc=12.5Kを示すことを発見したことを報告している。SEMで結晶構造と磁化測定でTcと臨界磁場を測定しているが、転移の振る舞いは・・・まあ・・・
とはいえ、MXeneシリーズの超伝導がさらに調べられるきっかけになるかもですね。

7,On the Planckian bound for heat diffusion in insulators
https://arxiv.org/abs/1908.04792
図7、多くの絶縁体でτ/τPl≈vM/vsが成り立つことを示すグラフ。例外がいるのは測定エラーかな?
コメント:一般に、高温における絶縁体の熱輸送は、フォノンの振る舞いは古典的にもかかわらず、プランク定数と温度で決まるプランク限界τplと呼ばれる輸送時間τに制限されると考えられている。この論文では、格子間隔とプランク定数から決まる”融点速度vM”と呼ぶ概念を導入することで、 τ/τPl≈vM/vs、すなわち結晶中での音速vsの上限がプランク限界に比例することを、理論と実験結果から示している。限界がわからないとそれを超えるアイデアも出てこないので、こういう研究面白いなぁと思う。

8,End-to-End Machine Learning for Experimental Physics: Using Simulated Data to Train a Neural Network for Object Detection in Video Microscopy
https://arxiv.org/abs/1908.05271
図8,機械学習、分光測定には最高の友ですね。ほかの点と線の実験にはどう使えるかな?
コメント:機械学習万能説。しかし、CNNの学習には大量のデータが必要で小規模実験に応用するには手間がかかっていた。この論文では、学習データとアノテーションの生成をコンピューターシミュレーション上で行うことで学習を高速化し、小規模実験における物体検出にも応用できる方法を提案している。やっぱアノテーションとかの前処理が大変なんだなぁ。

9,Diameter-independent skyrmion Hall angle in the plastic flow regime observed in chiral magnetic multilayers
https://arxiv.org/abs/1908.04239
Ordering phenomena of spin trimers accompanied by large geometrical Hall effect
https://arxiv.org/abs/1908.07728
Controllable thickness inhomogeneity and Berry-curvature-engineering of anomalous Hall effect in SrRuO3 ultrathin films
https://arxiv.org/abs/1908.08211
図9、ベリー曲率関連の報告。実空間と運動量空間のベリー曲率という概念理解したい。
コメント:今月のスキルミオン(ベリー曲率関連)祭り。
1,電流を印加してスキルミオンを動かすとき、外場の方向とスキルミオンの運動方向はスキルミオンHall角とよばれる角度だけずれ、その角度はスキルミオンの半径に依存すると理論的に信じられてきた。この論文では、磁性薄膜中のスキルミオンの運動をブリルアン光散乱と走査型透過軟X線顕微分光で捉えることで、塑性流領域では、スキルミオンHall角はスキルミオン半径に依存しないことを明らかにしている。
2,ノンコプレーナ-スピン構造が生み出すベリー曲率のもとで、伝導電子は大きな仮想磁場の影響を受ける。この論文では、ブリージングカゴメ格子Dy3Ru4Al12がスピン三量体のスピンカイラリティに伴うベリー曲率に由来する幾何学的ホール効果を示すことを発見し、さらに磁場によりフェロ秩序を制御することでホール効果の大きさを制御できることを報告している。
3,強相関電子系では基底状態の競合により空間的不均一性が生じることが知られている。この一例が、SrRuO3のホール効果に現れる異常で、スキルミオン由来のトポロジカルホール効果なのか不均一性由来の異常ホール効果なのか議論が生じていた。この論文では、厚みの不均一性を制御したSrRuO3薄膜を作製し磁気輸送特性を調べることで、空間的に不均一な運動量空間ベリー曲率がトポロジカルホール効果によく似た2チャンネル異常ホール効果を観測することに成功している。厚さを狙って不均一にする成膜技術が他にも応用できそうとのこと。トポホの闇は深い。。。

10,Divergent nematic susceptibility near the pseudogap critical point in a cuprate superconductor
https://arxiv.org/abs/1908.07167
図10,新しい測定手段で銅酸化物相図の擬ギャップ温度上に点を増やす人生
コメント:この論文では、Bi2212の弾性抵抗測定によるネマティック転移が擬ギャップ温度で生じていることを報告している。さらに擬ギャップ温度が消失する組成近傍でネマティック感受率が発散していることから、ネマティック量子臨界点が超伝導ドーム内部に存在することを示唆している。銅酸化物の輸送特性におけるネマティシティといえばAndo先生Taillefer先生の仕事もあるけど、Cu-Oチェイン構造がなくてもネマティシティが見えるかはっきりする利点があるんですね。銅酸化物の超伝導状態はネマティック電子状態から生じること前提で考えないとだめってことですかぁ。ハバードモデルに基づくモット絶縁体は擬ギャップを示すという理論があるけど、ネマティシティも示すんでしょうか?(無知)
(o'∀'))ゥンゥン、それもまた量子液晶だね。

11,Mottness versus unit-cell doubling as the driver of the insulating state in 1T-TaS2
https://arxiv.org/abs/1908.08221
図11、ダビデの星型の電子結晶と劈開面によるスペクトルの違い。ギャップは開くが大きさは違う・3・
コメント:バンド理論によればユニットセル内の電子数が偶数ならば絶縁体で、奇数ならば動くことができるため金属になることが予言される。そうだね、一人のほうが自由に動けるよね。でも、偶数になって孤独を埋めたいときもあるよね。一方で、ユニットセル内の電子数が奇数でも、電子相関のために絶縁体になることがある、そう、モット絶縁体である。人間関係みたいですね、お互いの気持で動けなくなる、人生って感じ。
 では、奇数電子を含むユニットセルが重なることでセル内の電子数が偶数になって絶縁体状態を示すとき、それはバンド理論的なのか、モット絶縁体的なのか気になるところです。
 この論文では、代表的なモット絶縁体とは異なり、ダビデの星型電子結晶上に電子が局在したクラスターモット絶縁体1T-TaS2について、ユニットセル内にダビデの星が2つ含まれる劈開面に現れる電子状態がモット絶縁体的なのかSTM測定で調べることで、モット的電子相関が絶縁性を説明するのに十分であることを報告している。
 1T-TaS2、量子スピン液体的振る舞いも含めて、面白い物性が隠れてて楽しいですね。

12,A Cantilever Torque Magnetometry Method for the Measurement of Hall Conductivity of Highly Resistive Samples
https://arxiv.org/abs/1908.10857
図12、コルビノ円盤+磁気トルクによるホール伝導度測定
コメント:ホール抵抗ρxyの測定は、現代の固体物理においてますます重要になっているが、通常のHallバー的なレイアウトによる測定では、縦抵抗ρxx>>ρxyの場合、乱れた絶縁体におけるVariable range hopping領域の輸送現象や、超伝導・絶縁体転移における絶縁体側の振る舞いには適用できない問題があった。さらに、横伝導度σxyを考えると、ρxxが発散する場合は計算の過程で異常に大きなエラーが発生する、量子ホール状態におけるバルクのホール伝導度の有無を調べられない等の課題もある。
 この論文ではコルビノ円盤に電流を印加し垂直に磁場をかけたとき、発生する磁気モーメントがσxyに比例することを利用し、この磁気モーメントをトルク磁気力計で測定することで、非接触でホール伝導度を測定する方法を提案している。これまで測定できなかった絶縁体のホール伝導度を調べられそうで、新しい発見がありそう(*^^*)

13,Generalized Anderson's theorem for superconductors derived from topological insulators
https://arxiv.org/abs/1908.08766
Robustness of unconventional s-wave superconducting states against disorder
https://arxiv.org/abs/1908.09476
図13、CPSBSにおけるあり得るギャップ構造および、不純物に対する転移温度の変化
コメント:従来型s波超伝導体は不純物効果の影響を受けないということが、アンダーソンの定理として知られている。一方でギャップにノードをもつ異方的超伝導体は不純物に対して敏感に反応する。
 この論文では、Cux(PbSe)5(Bi2Se3)6がギャップにノードをもつ異方的超伝導体であること、そして不純物に対してロバストな性質を持つことを発見し、スピン以外の内部自由度を保つ場合にアンダーソンの定理を拡張する方法を提案している。 
一方、2つ目の論文は直後に提出されたもので、同様の結論を得ているものの、前者が散乱時間を不純物ハミルトニアンに対して定義することで、不純物に対して完全なロバスト性をもつという誤った結論に達していると指摘、より現実的な不純物耐性の計算結果を報告している。
昔から知られている定理や理論の拡張って面白くて好きですね。

14,Topological Kerr Effect
https://arxiv.org/abs/1908.08974
図14、トポロジカルカー効果の振る舞いと温度、磁場依存性
コメント:スキルミオンはフラストレーションやジャロシンスキー・守谷相互作用によって安定化する磁気構造の一種で、ベリー曲率による仮想磁場を生み出し、トポロジカルホール効果やネルンスト、熱ホール効果として検出されてきた。
 この論文では、SrRuO3薄膜に対する磁気カー効果測定を行うことで、直流のトポロジカルホール効果によく似た振る舞いを観測し、スキルミオン結晶に由来する有限周波数におけるトポロジカルカー効果として報告している。
スキルミオン、まだまだ未知の現象を生み出すなぁ。

15,Nonequilibrium Orbital Transitions via Applied Electrical Current in Calcium Ruthenate
https://arxiv.org/abs/1908.08571
図15、横軸が電流の磁気転移、軌道秩序転移の相図。めずらしいけどおもしろい。
コメント:Ca2RuO4は最近の研究から電流誘起巨大反磁性や非平衡金属状態など様々なエキゾチック状態が報告されており、磁場、圧力、電場、光といった外場に加えて電流という刺激が量子状態を制御する手段として注目を集めている。
 この論文では、3%Mnを置換したCa2RuO4の電流印加中性子散乱実験、輸送測定、磁気測定を行うことで、電流印加により反強磁性転移が抑制されて、新たに電流印加軌道秩序が生じることを報告している。
電流印加非平衡定常状態で未知の相が見つかるのすごい・3・

16,Superconductivity in an infinite-layer nickelate
https://www.nature.com/articles/s41586-019-1496-5
First report of superconductivity in a nickel oxide material
https://phys.org/news/2019-08-superconductivity-nickel-oxide-material.html
図16、すごい!ちゃんとゼロ抵抗になってる!
コメント:銅酸化物の発見以来、類似の構造をもつ高温超伝導の発見は、柳の下のどじょうを狙う者たちにとって格好の目標であった。その中でSr2RuO4における超伝導の発見や、Sr2IrO4の表面ドープした際に生じる超伝導ギャップっぽさの徴候などが報告されてきた。特に LaAlO3/LaNiO3 界面に生じるNi酸化物の超伝導が理論的に予言されてきたが、dx2-y2軌道の占有数が理論予測からずれるため超伝導の発言には至っていなかった。この論文では、無限層Ni酸化物NdNiO2薄膜にSr置換を施すことで9-15Kの超伝導が生じることを発見している。
 Phys.orgの記事によれば深夜2時にゼロ抵抗を発見して興奮し朝まで起きていて、その後セミナーで報告、ラボ総出で追試を行って投稿後一月でアクセプト、流れがすごいですね。そりゃ興奮するやろなぁ。あとは光電子分光やSTMで電子状態調べて、NMR、中性子散乱で磁気ゆらぎをしらべて、MuSRとかでギャップ構造調べて、理論家さんが百家争鳴の理屈をつけて、To be Continued...(バルクで見つかればTrue end)



コメント

  1. "こんにちは。英文校正・翻訳サービスUni-edit と申します。私たちは1000名を超える日本の大学や学会のお客様にサービスをご提供してきました。
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  2. "アカデミックライティングに関するヒントをご参照ください。

    How to master verb tense in the Introduction Section?
    http://fixacademicwriting.com/category/how-to-master-verb-tense-in-the-introduction-section/

    英文校正サービスUni-edit
    http://www.uni-edit.net/japan/"

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