2019年9月の気になった物性系論文(完全版)

9月の気になった物性系論文です。
辛さが加速してきたぞ。
10月からはさらに辛さが加速して、宇宙がやばい。

光電子分光のプランク定数測定がおもしろい発想で好きです。

19/9/25   Ver. -1 : 1-12
19/9/28   Ver. -2 : 13-16
19/10/4   Ver. -3 : 17-19



1,Observation of Edge States in Multilayer WTe2
https://arxiv.org/abs/1909.02433
Evidence of Higher Order Topology in Multilayer WTe2 from Josephson Coupling through Anisotropic Hinge States
https://arxiv.org/abs/1909.02537

コメント:WTe2の高次トポロジカル状態の証拠であるエッジ・ヒンジ状態の観測。2つの異なるグループがWTe2/Nbのジョセフソン効果を利用して端状態を検出するという同じような論文を同時期に提出。競争の激しい分野は大変ですね。

2,Model construction and a possibility of cuprate-like pairing in a new d9 nickelate superconductor (Nd,Sr)NiO2
https://arxiv.org/abs/1909.00060
Doped holes in NdNiO2 and high-Tc cuprates show little similarity
https://arxiv.org/abs/1909.02557
Formation of 2D single-component correlated electron system and band engineering in the nickelate superconductor NdNiO2
https://arxiv.org/abs/1909.03942
Electronic structures and topological properties in nickelates Lnn+1NinO2n+2
https://arxiv.org/abs/1909.04657
Induced Magnetic Two-dimensionality by Hole Doping in Superconducting Nd1−xSrxNiO2
https://arxiv.org/abs/1909.05824
Effective Hamiltonian for superconducting Ni oxides Nd1−xSrxNiO2
https://arxiv.org/abs/1909.07427
A "road-map" of Nickelate superconductivity
https://arxiv.org/abs/1909.07688
Self-doped Mott insulator for parent compounds of nickelate superconductors
https://arxiv.org/abs/1909.11845

コメント:Ni酸化物超伝導の理論たち。銅酸化物っぽいよというものから、似てないよ!というものから、今後やるべき実験の提案等いろいろ。

3,A Charge-Density-Wave Weyl Semimetal
https://arxiv.org/abs/1909.04037
Type-III Weyl Semimetals and its Materialization
https://arxiv.org/abs/1909.12178

コメント:(TaSe4)2Iが電荷密度波ワイル半金属なのをXRDとARPESで確認したよ報告と歪みによりType-1,2,3ワイル半金属の間を相転移できるよという理論。

4,Signature of the chiral anomaly in the Weyl semimetal TaAs from ultrasound velocity measurements
https://arxiv.org/abs/1909.04270

コメント:磁気抵抗に観られる負縦磁気抵抗はカイラル異常の証拠と考えられているが、電流分布の不均一性起源の疑念が呈されている。また他の測定もノントリビアルなトポロジカルな振る舞いが、トリビアルな準粒子の振る舞いに隠れてしまい解析が困難である。この論文ではTaAsの超音波速度測定を行い、伝導電子とフォノンの結合を介して、カイラル異常の検出に成功したと報告している。

5,Bulk and surface electronic structure of the dual-topology semimetal Pt2HgSe3
https://arxiv.org/abs/1909.05051
Emergent dual topology in the three-dimensional Kane-Mele Pt2HgSe3
https://arxiv.org/abs/1909.05050

コメント:Pt2HgSe3がKane-Maleトポロジカル絶縁体である実験的報告と理論。「Pt2HgSe3 was found to be a topological crystalline insulator (TCI) arising from a three-fold mirror symmetry in addition to a weak topological insulator protected by the preservation of translational symmetry in the stacking of the layers」であることをARPESで実験的に確認したことが大きいみたい。弱トポの一種なんですね。

6,Pascal conductance series in ballistic one-dimensional LaAlO3/SrTiO3 channels
https://arxiv.org/abs/1909.05698

コメント:LAO/STO一次元界面のパスカルの三角形に従う量子化伝導

7,Effect of quenched disorder on a quantum spin liquid state of triangular-lattice antiferromagnet 1T-TaS2
https://arxiv.org/abs/1909.00583

コメント:量子スピン液体1T-TaS2の熱伝導、比熱に磁場と不純物が与える影響。磁場を加えると残留熱伝導度はわずかに増加し、残留比熱は減少する。さらにSに対するSe置換により残留熱伝導度は消失する。これらの結果は、TaS2には遍歴、局在2種類の性質をもったギャップレス励起が存在し、遍歴励起は不純物に敏感であることを示唆している。他グループによる再現実験が待たれますね。

8,High Precision Determination of the Planck Constant by Modern Photoemission Spectroscopy
https://arxiv.org/abs/1909.06286

コメント:プランク定数を光電子分光法で直接高精度に決める方法の提案と実験。キッブル天秤により最も精度の良い測定が行われているが量子ホール効果、ジョセフソン効果、キログロム原器の結果を利用している。この論文では光電効果を直接利用したこれまでの測定よりも5桁ほど精度を改善したプランク定数の測定結果を報告している。

9,Cryogenic Cooling and Power Generation Using Quantum Hall Systems
https://arxiv.org/abs/1909.09506

コメント:量子ホール効果を冷却に使う方法の提案。部分充填ランダウ準位の縮重度と金属性のために、極低温において類を見ない効率で熱電的冷却と電力生成ができるらしい。

10,Anomalous normal fluid response in a chiral superconductor
https://arxiv.org/abs/1909.09032

コメント:1次元に現れるマヨラナ端状態、二次元に現れるマヨラナ表面状態はこれまで観測されていた。この論文ではカイラルスピン3重項超伝導(ぽい)UTe2のマイクロ波伝導度測定を行うことで、3次元カイラル超伝導体表面に現れる常伝導マヨラナ流体の観測を報告している。たしかに、図を見るとCeCoIn5やTiといった超伝導物質は光学伝導度がTc以下で減少する(周波数ゼロに凝縮する)一方で、UTe2は減少を示していない。時代はUTe2ですね。

11,Superconductivity up to 243 K in yttrium hydrides under high pressure
https://arxiv.org/abs/1909.10482

コメント:YH6は270K付近での超伝導が理論的に予測されていたが、実験的には237GPaかけても243K程度となったという報告、残念。あと30Kはどこに消えたのか?

12,Quantum Hall Effect of Massive Weyl Fermions in n-type Tellurene Films
https://arxiv.org/abs/1908.11495

コメント:SU(8)アイソスピン対称性をもつn型ワイル半導体であるn-テルレンが質量をもつワイルフェルミオン由来の量子ホール効果を示すことを初めて発見した実験的報告

13,Computational Framework for Angle-Resolved Photoemission Spectroscopy
https://arxiv.org/abs/1909.12081

コメント:光電子分光行列要素の数値計算シミュレーションソフト”Chinook”の開発。任意のセットアップ(フォトンエネルギー、偏極、スピン分極、バルク、表面含む)に対するARPESのスペクトルを予言することができることを謳っている。


14,Unconventional Hund Metal in MnSi
https://arxiv.org/abs/1909.11195
コメント:局在絶縁体状態から大きく電子状態が離れた遍歴磁性体MnSiでもフント結合に由来する局所電子相関の影響が存在することを非弾性中性子散乱とDFT-DMFT計算により示した論文。つまりMnSiはフント金属の一種である。


15,Direct observation of Dirac states in Bi2Te3 nanoplatelets by 125Te NMR
https://arxiv.org/abs/1909.11439
コメント:トポロジカル絶縁体の表面ディラック状態を観測する方法はARPESやSTMなど限られた実験手段に限定されている。この論文ではDFTとNMRを組み合わせることで、Bi2Te3ナノプレートの表面ディラック電子による磁気遮蔽されたNMR信号を捉えることに成功している。

16,Hidden magnetism at the pseudogap critical point of a high temperature superconductor
https://arxiv.org/abs/1909.10258
コメント:銅酸化物において擬ギャップ的振る舞いが消失するホール濃度p*の正体は明らかになっていない。この論文では、強磁場下の超音波測定とNMR測定により、超伝導状態を破壊したあとには反強磁性グラス的振る舞いが存在し、それがp*まで存在していることを明らかにしている。すなわち、p*は、母物質のモット絶縁体相から続く磁性相が消える量子臨界点であると解釈できる、らしい。

17,Non-Hermitian Linear Response Theory
https://arxiv.org/abs/1909.12516
コメント:量子多体系理論の要、線形応答理論をエネルギー散逸のある非エルミート系に拡張した非エルミート線形応答理論の提案。Bose-Hubbardモデルに対する実験と理論が良い一致を示す。さらなる検証のため、一次元ラッティンジャー液体における実験が必要らしい。

18,Naked-eye visualization of geometric frustration effects in macroscopic spin ices
https://arxiv.org/abs/1909.05296
コメント:磁石で作った幾何学フラストレーション系、マクロスピンアイスが理論予想とよく一致する振る舞いを見せる。フラストレーションの可視化に有力な方法として提案されている。

19,Three-Dimensional Topological Twistronics
https://arxiv.org/abs/1909.01350
コメント:捻りバイレイヤーグラフェンを更に拡張し、隣接する層が一定角度θMごとずれた3Dトポロジカルツイストロニクスを記述する一般化ブロッホ理論を提唱する論文。グラフェンを基本構造にとり、捻りを加えて積層した捻りグラファイトは、捻り角度に依存してType-I,II ワイルフェルミオンとなることを予想している。ほかのTMDに拡張したり、難しいけど、実験で検証してみたい構造ですね。


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