Cond-matの論文タイトルから固体物性の流行を探る~2019年~

【イントロ】
 巷ではコロナウイルスが流行して世界中が混乱の渦の中にいます。今年一番の話題となるはずだったオリンピックも一年後に延期となってしまい、経済も不調をきたしています。この恐るべき感染症の流行が収まるのはいつになるのでしょうか。。。
 でも、研究の流行に乗っていきたいですよね・・・?
 流行に乗って研究費を稼いでいきたいですよね・・・?
 そこで本記事では、2019年の固体物性界の流行を、プレプリントサーバーArxivの固体物性分野Cond-matの論文タイトルから探ってみることにしました。

【方法】
 先行研究と同様に、Cond-matからWebスクレイピングにより必要な論文タイトルを取得しました。集計と図表作成ははExcelを使って行いました。Excel is Goddess......

【結果】
 まずは、2019年のCond-matへの投稿論文数を確認してみました。
2019年の論文投稿数は19475本、一日あたり50本以上の論文が作成されている計算になります。また過去20年の傾向をみてみると年間論文数は直線的に増え続けていることがわかります。
 ちなみにこの傾向を逆にたどって論文数がゼロになる年を調べてみると、1989年になりました。そう、論文とは昭和の終わり、平成の始まりとともに生まれた概念なのです。
 
 さて、一年は12ヶ月からなります。では、論文が投稿されやすい月はあるのでしょうか?そこで月ごとの論文数を調べてみました。
過去三年間を比較すると特段論文数が際立って多い月は観られないようです。強いて言えば10月の投稿数が多そうだという印象です。夏休みに論文を書き始め10月に投稿したと考えれば筋は通りそうです。
 また、3月は世界最大級の国際会議であるアメリカ物理学会、通称APSが開催されるため、発表に備えた論文投稿が増えることを想定していましたが、データからは3月の投稿数が多いようには見えません。みなさん計画的に発表済みの結果をAPSではご報告されているようですね。計画的な人生は大切です。いきあたりばったりではいけない(戒め)
 
 そんな毎月1000本以上投稿される論文達、どのような研究が2019年は流行したのでしょうか?そこで、論文タイトルに含まれる単語から探ってみました。「I love you」という論文タイトルであれば、3単語というカウント方法です。まずは、論文タイトルに含まれる単語数を確認した結果です。参考に以前調べたNatureとScienceの結果も載せています。
単語数を比較すると10単語くらいにピーク(肩)が観られます。このピーク位置はNatureやScienceの最頻出単語数とも一致しているので、論文の一般的な傾向のようにみえます。興味深いのはCond-matでは12単語にもう一つピークがみられる点です。また、Cond-matではタイトル単語数が長い方向に大きなテールを持っていることも見て取れます。これは商業誌であるNature&Scienceは論文タイトルをそこまで長くできないため、10単語くらいがピークになる一方で、自由にタイトルを付けられるCond-matでは著者の思いの丈がタイトルの長さにぶつけられるのが原因と考えられます。
長さは正義。。。

 上記のような長さの分布をもつ論文タイトルのなかで、頻出の単語はどのようなものでしょうか。調べてみた結果が以下のとおりです。

 左の表からわかるように一番最頻出の単語は”Of”です。とりあえず論文に”Of”を入れておけば間違い有りません。全体のTop20をみると前置詞や接続詞が多く含まれていることがわかります。そこで、これらを除いたのが右の表です。”Quantum”、量子が最頻出な単語となりました。恒例ですね。時代は量子力学です。ほかに目立つのは”Topological”でしょうか。大人気ですよね”Topological”物性。関連して ”Graphene””Two-dimensional”といった二次元物性に関する単語も多く見られます。花盛りの分野ですね。お金もたくさんありそうです。

とはいえ流行り廃りは激しいですよね。そこで2019-2018年で流行がどのように変化したか単語数の増減を比較してみました。

 左の増えた単語表をみてみると、”Quantum”や”Topological”といった常連単語に加えて”Learning”といった単語の増加が見て取れます。そう、”Machine learning””Deep learning”といった機械学習の流行ですね。学術界、産業界を巻き込んだ機械学習ブームの昨今ですが、その状況が論文タイトルからも見て取れる結果となりました。
機械学習、いいですよね、お金と仕事がありそうです。サイコー!!!
 また、”Twisted”という単語が13位にみられますが、これはいわゆる”Magic angle graphene”関係の研究に由来するものでしょう。最近ではグラフェンだけではなく、遷移金属ダイカルコゲナイドのマジックアングルも実現され、相変わらずブームが続いているようです。最近では一次元捻りカーボンナノチューブなども提案され、その概念の拡張が進んでいます。とりあえずひねればいいんだよ、ひねれば!
 一方、右の減少した単語表をみてみると、堂々の一位は”Superconductivity”です。そう、超伝導ですね。関連して”Tunneling”や”Gap”、”Nodal”といった単語も減少しています。この結果からは一時期の鉄系超伝導体等の超伝導ギャップ構造の研究がブームを終え、トポロジカル物性の研究に興味の中心が移っていることが感じ取れます。
実際、”Superconductivity”と”Topological”に関して、過去20年の単語出現数をプロットしてみると超伝導に対してトポロジカルな研究が急速に進んでいることが下の図からみてとれます。特にトポロジカル物性は2008年辺りからの伸びが急速です。これは量子井戸系における量子スピンホール絶縁状態の発見と同時期であり、ここからトポロジカル物性ブームが加速したと考えられます。
さて、こうして流行分野がトポロジカル物性と機械学習であり、熱が冷めてきているのが超伝導ということが見て取れましたが、研究者名に流行はあるのでしょうか?そこで、有名研究者の名前が論文タイトルに現れる回数について、過去20年の傾向を調べてみました。
 

 第一位はDirac先生です!おめでとうございます!!グラフェンやトポロジカル絶縁体表面に見られる線形分散いわゆるDirac電子の研究がトポロジカル物性の研究から注目を集めた結果といえます。また同様に対称性の破れによりDirac電子の縮退がとけて現れるWeyl電子の研究も盛んであり、2010年以降急速に出現頻度が増加しています。
 一方、物理の代名詞ともいえるEinstein先生ですが、論文タイトルに出現する頻度は過去20年間控えめです。まあ、大先生の名前をタイトルに含めるのは気恥ずかしいところもあるのでしょうがないですね(?)。
 他に最近増加を示している人名としてはKitaev先生の名前が上げられます。量子スピン液体や量子コンピュータの研究で注目度はますます増している印象です。

【まとめ】
 2019年にCond-matに投稿された論文のタイトルに含まれる単語から、固体物性分野で流行しているテーマを探りました。
 結果として、トポロジカル物性と機械学習分野の研究が相変わらず隆盛を極めていること、その増加ペースはいまのところ衰えを見せていないことを確認しました。
 一方で超伝導分野の研究は論文タイトルからは少し落ち着きをみせていることが見て取れました。とはいえトポロジカル超伝導超伝導量子コンピュータといった新しいテーマもあるので、研究が終わることは無いと思われます。当然室温超伝導もまだですし、銅系SCや鉄系SCもその物性はまだまだ謎は抱えています(なにか解決した問題あるんか?)。また鉄系SCは最近ではマヨラナ束縛状態の実現の舞台として新たな注目を集めており、これからも楽しい現象を示してくれることでしょう。
 流行に乗っかるのではなく流行を作り出すことができれば、研究者冥利に付きます。とはいえ、研究はお金が無いとすすめられないので、自分の興味と流行をすり合わせてお金を引っ張ってくるのが大切のように思います。
 理想と現実のすり合わせの中で、創造性の果実たる研究成果を生み出していきたいものですね。

コメント

このブログの人気の投稿

学振採用者はどこへ消えた?

物理系研究関係者、ツイッターやりすぎランキング(ぶひん調べ)

オレ達はあと何本論文を書けば東大教授になれるんだ?