Arxiv論文投稿数とAPS/JPS発表数でみるコロナの影響
【イントロ】
コロナウイルスの流行、終わる気配が見えなくて辛いですね。
驚異的な速さでワクチンが開発され接種がはじまっていますが、変異株の発生も有り予断を許さない状況です。
世界中の生活、経済活動に影響を与えたコロナ流行ですが、研究活動にはどのような影響を与えているでしょうか?
本記事では、プレプリントサーバーArxiv、アメリカ物理学会・日本物理学会の発表数から、コロナの影響が読み取れるか調査してみました。
【方法】
Arxivは物性物理プレプリントサーバーであるCond-matのスクレイピングにより過去4年間の各月の論文投稿数を取得しました。アメリカ物理学会(APS)、日本物理学会(JPS)の発表数は学会HPから取得しました。APS(March meeting)の発表数はアブストラクトに「.(ピリオド)」が含まれるもの、JPS(春季大会)の発表数は発表者の所属に「大」が含まれるものを集計しました。
【結果】
まずはArxivの投稿数です。
1年間の論文投稿数全体をみると過去20年のトレンドに乗っていることがわかります。すなわち、全体の傾向としては明確な論文数の低下はみられていません。次に、各月の投稿数を見てみます。
図を見てみると、2020年には2019年以前と比較して若干の傾向の違いがみられます。19年以前は10月に掲載論文数のピークがある一方で、20年にはピークが見られません。想定される理由としては、8月からの夏休みに論文を作成開始し、2ヶ月ほどかけて10月に投稿するという習慣が、コロナによるリモートワークにより変化したことが挙げられます。実際、20年は7月くらいに投稿数にピークがきており、ロックダウンが本格的に行われた3~4月に論文作成が開始されたのではないかと考えられます。
次に、APSとJPSの発表数を観てみたいと思います。APS2020はコロナの影響で中止、APS2021はリモートでの開催となっています。一方でJPSは2020年大会(春)は中止、それ以降はオンライン開催が続いています。
図は2013年から2021年までの発表数を集計しています。APSはこの8年間で発表数が伸びており、約1.1万件の発表がなされています。一方JPSは発表数は減少傾向に有り3千件程度となっています。(所属に「大」が含まれる発表なので、大学以外の所属の発表が増えている可能性はあります)
APS、JPSともに2021年の発表数は2020年よりも減少しておりコロナの影響が見られるということもできます。しかし、APSは2019年以降頭打ち、JPSは8年間減少傾向にあることをみると明確なコロナの影響はみえないというのが正確なところでしょうか。
【まとめ】
今回の記事では、研究に与えるコロナウイルス流行の影響をCond-matの掲載論文数とAPS、JPSの発表数から読み取れるか調べてみました。
Cond-matの掲載数からは、論文数全体は減少していないものの、掲載数のピーク月が例年と異なっていることがわかりました。また、APS、JPSの発表数からはこれまでのトレンドからの大きな乖離はみられませんでした。以上の結果から、2020年までの研究活動には明確なコロナの影響がみられるとはっきりいえる証拠は得られませんでした。
しかし、リモートワークが続いたことで研究が停滞し2021年の研究により大きな影響が出るのではないか?ということが予想されます。今年も注視していきたいと思います。
【おまけ】
せっかくAPSの発表数を調べたので、有名研究者がどれくらい論文を共著で発表しているのか調べてみました。
有名な強相関電子系の研究者の共著発表数を集計したのが上の図です。いやあ、NIMSのWatanabe & Taniguchi(W&T)先生が圧倒的ですね。他の有名な先生が多くて20件前後の共著発表の一方、W&T先生は160件にも達する発表数となっています。世界中でお二人の作成されたh-BNを使った二次元物質研究が進んでいることが見て取れます。他にはトポロジカル物質研究で有名なFelser先生も(少し)目立っていますね。
さて、約5年で1%シェアが増えているので、このままいけば500年後には世界の100%の研究がW&T由来になります!Japan as ナンバーワン!目指せ、ボロンナイトライド立国!
コメント
コメントを投稿