若手奨励賞を受賞したんだから若手です~2024年度物理学会若手奨励賞~

【イントロ】

毎年年齢を重ね、心は若くても体は衰えを隠せない日々の中、
今年もこの時期がやってきました。
そうです。
物理学会若手奨励賞の時期ですね。

第18回(2024年)日本物理学会若手奨励賞 (Young Scientist Award of the Physical Society of Japan) 受賞者一覧

これからの物理学会を背負っていかれる輝かしい業績を積み上げられてきた皆さん、おめでとうございます!!!

今回のブログでは、筆者が特に好きな領域8、いわゆる強相関電子系分野の受賞者の皆さまと、その受賞理由論文について調べてみました。
やはりビジネスマンの基礎教養として、各分野のエースは把握しておかないと!

【方法】

頑張って一つ一つの論文チェックしました。
論文引用数はGoogle scolarによる検索結果を採用しています(2023年11月12日時点)

【受賞者紹介】

池田暁彦 (電気通信大学 大学院情報理工学研究科 基盤理工学専攻)
「1000テスラひずみ計測法の開発によるLaCoO3の新規電子相の発見」

画像はChatGPTのお名前からの想像です

"Signature of spin-triplet exciton condensations in LaCoO3 at ultrahigh magnetic fields up to 600 T", Nat. Commun. 14, 1744 (2023)
引用数:8件
概要:電子正孔対、いわゆるエキシトンのBECは60年以上前から予言されていた。スピン一重項エキシトンの凝縮は、その電荷中性・非磁性な点から実験的な検証は困難であったが、近年スピン三重項エキシトンの凝縮がコバルト酸化物で生じうることが理論的に予言され検証が望まれていた。この研究では、ISSPで開発された1200T級磁場を用いて、LaCoO3の磁歪測定から、スピン三重項エキシトン凝縮の兆候の観測に成功している。
図1、磁歪測定から求めた600テスラまでのLaCoO3の相図


"Two spin-state crystallizations in LaCoO3", Phys. Rev. Lett. 125.177202 (2020).
引用数:17件
概要:LaCoO3の磁場中で生じる2つの磁性相に関して、これらの相がスピンクロスオーバーの間に生じるエキシトンBECなのかスピン状態結晶化なのかという論争が生じていた。この研究では、新開発されたひずみゲージを使用して、100T磁場中での磁歪測定を行い、これら2つの磁気相が、異なるタイプのスピン状態結晶化でありBECではないことを明らかにしている。
図2、磁歪測定から求めた200テスラ付近までのLaCoO3の相図


"Spin state ordering of strongly correlating LaCoO3 induced at ultrahigh magnetic fields", Phys. Rev. B 93, 220401(R) (2016) Editors' Suggestion
引用数:59件
概要:この研究では、LaCoO3の磁化測定が、破壊型マグネットを用いて、133T、2Kから120Kの範囲で行われている。実験から、100T以上に新しい磁気相が発見され、以前から観測されていた65Tでの相転移も再確認された。これら2つの高磁場磁気相はスピン自由度とおそらく軌道自由度に由来する異なる空間的秩序に関連するものであることが提案されている。
図3、磁化測定から求めた130テスラ付近までのLaCoO3の相図

金澤直也 (東京大学 生産技術研究所)
「キラル結晶におけるトポロジカルスピン構造形成と創発電磁物性の研究」
画像はChatGPTのお名前からの想像です

"Critical phenomena of emergent magnetic monopoles in a chiral magnet", Nat. Commun. 7, 11622 (2016).
引用数:117件
概要:電子のトポロジカル秩序は運動量空間のトポロジカル指数に特徴づけられ、対称性の破れを伴わない量子相転移として分類される。一方で、その実空間対応物の観測は限定されていた。この研究では、カイラル磁性体MnGeの実空間トポロジカル相転移を観測することに成功している。相転移近傍での磁気抵抗測定と弾性定数測定の結果が、創発磁場による臨界現象の理論的予測と一致していることが確認されている。
図4、MnGeのスピンヘッジホッグ構造とアンチヘッジホッグ構造のイメージ


"Large magneto-thermopower in MnGe with topological spin texture", Nat. Commun. 9, 408 (2018).
引用数:39件
概要:量子状態を特徴づける非自明なトポロジカル物性の起源として、スカラースピンカイラリティをもつトポロジカルスピン構造と伝導電子の相互作用によって生じる創発電磁場が挙げられる。一方で、創発電磁場が熱電変換に与える影響は明らかになっていなかった。この研究では、トポロジカル磁気構造をもつカイラル磁性体MnGeの磁場中での熱電効果を測定し、創発電磁場によって生じるキャリア寿命の強いエネルギー依存性により熱電効果が大きく増強されることを明らかにした。
図5、MnGeのヘッジホッグ格子のイメージと熱電効果の温度磁場依存性



"Direct Observation of the Statics and Dynamics of Emergent Magnetic Monopoles in a Chiral Magnet", Phys. Rev. Lett. 125, 137202 (2020).
引用数:37件
概要:3次元ハイゼンベルグ模型では、トポロジカル点欠陥はスピンヘッジホッグ、すなわちある種の創発磁気モノポールとして振る舞い、伝導電子と強く相互作用すると考えられている。この研究では、カイラル磁性体MnGeの磁気抵抗測定と小角中性子散乱実験により、スピンヘッジホッグ相における磁気モノポールの存在が伝導電子のホール効果に強い影響を与えることを明らかにした。
図6、MnGeのスピンヘッジホッグ構造と磁気モノポールのイメージ



北川俊作 (京都大学 大学院理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻)
「副格子自由度による多重超伝導相の研究」

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"Observation of Antiferromagnetic Order as Odd-Parity Multipoles inside the Superconducting Phase in CeRh2As2", Phys. Rev. Lett. 128, 057002 (2022).
引用数:33件
概要:近年、理論的な観点から、局所空間反転対称性の破れが物性に与える様々な現象が予言されているが、その実験的検証が欠けていた。この研究では、CeRh2As2(Tc=0.37K)の核四重極共鳴測定から、Ceサイトの反強磁性秩序が局所反転対称性を破り、さらに、この反強磁性転移が超伝導転移温度より低温で生じるという異常な電子状態が実現していることを明らかにしている。
図7、CeRh2As2の結晶構造と相図


"Parity transition of spin-singlet superconductivity using sub-lattice degrees of freedom", Phys. Rev. Lett. 130, 166001 (2023).
引用数:6件
概要:近年、CeRh2As2は、高磁場超伝導相と低磁場超伝導相の2つの超伝導相を持つことが明らかになった。理論的には、ユニットセル内の2つのCeサイトの存在に伴う、副格子自由度に由来する局所反転対称性の破れが、複数のスピン一重項超伝導相を生み出すことが予言されていたが、超伝導状態のミクロスコピックな実験的な情報は明らかになっていなかった。この研究では、CeRh2As2の核磁気共鳴測定から、2つの超伝導相がともにスピン一重項状態であることを報告している。さらに、以前から報告されていた超伝導相内で生じる反強磁性秩序が、低磁場超伝導相でのみ生じることを明らかにしている。
図8、CeRh2As2の異なる超伝導相内での核磁気共鳴の振る舞い

"Two-Dimensional XY-Type Magnetic Properties of Locally Noncentrosymmetric Superconductor CeRh2As2", J. Phys. Soc. Jpn. 91, 043702 (2022). arXiv:2203.03184 [cond-mat.supr-con]
引用数:14件
概要:この研究では、最近発見された重い電子系超伝導体CeRh2As2の常伝導状態の磁気状態を、75As‐核磁気共鳴測定により調査している。測定の結果、常伝導状態のスピン格子緩和率の温度依存性は重い電子系に特徴的な振る舞いを示した。さらに重い電子系では珍しいことに、スピン格子緩和率は低温で一定に近づき、空間的な2次元反強磁性ゆらぎの存在を示唆するものであった。

図9、CeRh2As2のスピン格子緩和率の温度依存性


マクシミリアン ヒルシュベルガー (東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻)
「量子物質の電子構造に由来する熱電効果の研究」
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"Topological Nernst Effect of the Two-Dimensional Skyrmion Lattice", Phys. Rev. Lett. 125, 076602 (2020)
引用数:66件
概要:トポロジカルホール効果の熱電効果における対応物であるトポロジカルネルンスト効果は、スキルミオン格子相の特徴の1つである。この研究では、このトポロジカルネルンスト効果をスキルミオン格子相をもつ中心対称性結晶Gd2PdSi3で観測し、その大きさが磁性体の巨大異常ネルンスト効果に匹敵することを明らかにしている。さらに、電子・ホールドープ効果を検証し、両方のドープ領域で、トポロジカルネルンスト効果とトポロジカルホール効果の間にモットの関係が成り立つことを確認している。
図10、Gd2PdSi3の磁気相図とホール効果、及びネルンスト効果

"Skyrmion phase and competing magnetic orders on a breathing kagomé lattice", Nat. Commun. 10, 5831 (2019)
引用数:242件
概要:磁気スキルミオンは多くの非中心対称性磁性体で観測されている。一方で、中心対称性磁性体での観測は挑戦的で、ヘリシティや渦度、高密度スキルミオンが新たな創発現象を生み出すことが期待されていた。この研究では、金属磁性体Gd3Ru4Al12がピッチ間隔2.8nmのスキルミオン格子を有し巨大なトポロジカルホール効果を示すことを、磁気輸送測定、共鳴X線散乱、小角中性子散乱、ローレンツTEMにより明らかにしている。
図11、Gd3Ru4Al12の磁気相図とホール効果

"The chiral anomaly and thermopower of Weyl fermions in the half-Heusler GdPtBi", Nat. Mater. 15, 1161 (2016) arXiv:1602.07219 [cond-mat.str-el]
引用数:534件
概要:ディラック・ワイル半金属は、バンド分散のノードが結晶構造の対称性により守られている物質である。この系では、カイラル異常と呼ばれる現象が、負の磁気抵抗を通して観測されることがTaAsやNa3Biにて報告されていたが、より多くの物質でこの現象が生じるのか検証が望まれていた。この研究では、二次バンドを持つゼロギャップ半導体の一種であるGdPtBiの磁気輸送測定を行い、磁場によってワイルノードが形成され、カイラル異常に由来する負の縦磁気抵抗が生じることを明らかにしている。更に、熱電効果測定から、カイラル異常により熱起電力が強く抑制されることを見出し、ワイルフェルミオン系における熱電応答関数の振る舞いを詳細に報告している。
図12、GdPdBiのバンド構造と磁気抵抗の振る舞い

【以下、おまけ】

2024年の物理学会若手奨励賞の受賞状況を集計してみました。

1,領域別受賞人数。
これはたしか、各領域の発表者の数で割り振られてるんですよね。
領域8が最大人数の4人。
やはり一大勢力。
2,博士号取得後年数
受賞者の皆さんの博士論文の提出年から逆算して、博士取得後年数を調べてみました。
博士とって5年が最大。
受賞理由に当たる論文3本くらいの仕事するにはそれくらいの時間かかりますかね。

3,博士取得大学別人数
じゃあ、どこの機関で博士取ったら若手奨励賞取れるんだ?となります。
そうです、東大と京大ですね。
4,現在の職位別人数
皆さん、今どれくらいの職位でいらっしゃるのかな?と調べてみました。
ポスドクと助教がメインです。
若手といったらたしかにそれくらいのイメージかも知れません。

5,領域別の受賞者の博士取得経過年数の平均
ここで気になるのは、各領域の何歳まで若手なの?という疑問です。
調べてみると、領域によっては博士取ってから10年くらいは若手、というところも多いですね。
自分が若手と思えば、いつまでも若手!
永遠の若手でいきましょう。

6,領域別の受賞者の平均職位
ついでに、受賞者の皆さんの職位も領域別に調べてみました。
職位ポイントは、学生1、ポスドク2、助教・研究員3、主任研究員・准教授・助教授4で計算してます。
ほとんど准教授が受賞してる領域もありますね。若手の出世が早い!

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