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8月, 2022の投稿を表示しています

ミスコン!~失敗した超伝導理論たち~

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  【イントロ】 人生に失敗はつきものですよね。 大切なのはそこから学びを得て、次につなげていくこと。 同じところをぐるぐる回っているだけじゃだめってことです。 逆に、成功したものの裏側には大きな失敗があったのではないかと興味が湧いてきます。 ということで、本記事では成功した理論の代名詞、BCS理論の裏側に存在した失敗した理論(Miss Superconductivity Theory, ミスコン)を紹介していきたいと思います。 【手法】  BCS理論50周年の記念論文誌、「 Bardeen Cooper and Schrieffer: 50 YEAR 」にJoerg Schmalianが投稿した論文「 Failed theories of superconductivity 」( arxiv )にもとづき、その内容を紹介する形で作成しました。 なので、本記事でご興味を持った方は詳細な内容を当該論文でご確認ください。 【内容】  超伝導現象は、1911年にオランダのHeike Kamerlingh Onnesが発見した現象で、極低温の超伝導転移温度(Tc)以下で電気抵抗の値が突然ゼロになる現象です。この現象の理論的解明にはおよそ50年の月日を要し、最終的にBardeen、Cooper、Schriefferの3名の研究者に依る理論、いわゆるBCS理論により解決に至りました。  超伝導現象を説明するBCS理論の骨子は電子格子相互作用による電子対の形成です。この理論は、物質中の格子振動、フォノンを介して2つの電子の間に引力相互作用が働きクーパー対と呼ばれる電子対を形成し、そのクーパー対がボーズ・アインシュタイン凝縮のような量子凝縮を起こすことが超伝導現象の本質であることを説明します。  研究者たちがBCS理論に行き着くまでには多くの理論家による超伝導理論に対する挑戦がありました。以下ではそれらの理論を紹介していきます。 【Einsteinの挑戦】  1922年に開催されたOnnesの教授就任40周年記念会において、A. Einsteinは超伝導理論の難しさについて講演しました。当時のEinsteinは、ある種の1次元ソリトンが生じる「Molecular conduction chain」が超伝導の起源であると考

Does Microsoft Dream of Majorana? --- The Controversy over the Observation of the Majorana Particle in Solids ---

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 [Introduction] Life is really hard . So, have you ever thought that you want the great power[1] that solves every your worry? Actually, there is. That is a quantum computer.      This article summarizes the recent controversy over the discovery of the Majorana particle in solids for the realization of a topological quantum computer by Microsoft Corporation. [Background]      Quantum computers are currently being actively researched and developed around the world [2]. Various methods have been proposed, including superconducting [3], ion trap [4], and optical [5] methods, but no practical device has yet been created. One reason for this is that quantum computers are susceptible to noise and error correction techniques have not yet been established [6]. Advances in Quantum Computing [3].      A topological quantum computer scheme that has attracted attention as an error-tolerant quantum computer scheme is the one proposed by Kitaev [7], which utilizes quasiparticles that follow non-Abel

冷たいホットな研究者~LT29(2022年、札幌)で表彰されたスゴイ低温物理研究者たち~

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 【イントロ】   第29回国際低温物理学会(the 29th International Conference on Low Temperature Physics, LT29) は2020年に開催予定でしたが、COVID-19の世界的流行に伴い開催が延期され、今年2022年に札幌の地で開催されています。  低温物理業界のお祭り学会ですね。その会期の中で、優れた業績を示した研究者の皆様が表彰されます。  そこで本記事では、表彰の対象になった優れた研究者の皆様とその業績を調べてみました。どれくらいの業績を残せば優れた研究者と認められるのか、一つの基準として頑張りましょう! 【所感】  フリッツ・ロンドン賞やサイモンズ賞はそれぞれ超伝導とメゾスコピック系の超有名な先生達が受賞者で納得感がありました。  また、若手向け賞では二次元物質の研究者が多い印象です。それだけたくさんの発見があったということですね。加えて、それらの論文には概ねNIMSの Watanabe & Taniguchi 先生が名前を連ねており、最先端研究を NIMS が支えていることが実感できました。 近い世代の人が頑張っているのは励みになりますね。俺も頑張っていくぞ~! 【受賞者と業績】 以下に、各賞の受賞者と主要な業績をまとめました。 主にGoogle scholarをベースに調査しました。 FRITZ LONDON MEMORIAL PRIZE ~FRITZ LONDON賞は、低温物理学の分野の進歩に際立った貢献をした科学者を表彰するために創設~ 受賞者: Frank Steglich 受賞理由:重い電子系金属における非従来型超伝導の発見とその開拓 出典元 、h-index:91 主要論文: ● Superconductivity in the Presence of Strong Pauli Paramagnetism: CeCu2Si2 F Steglich, J Aarts, CD Bredl, W Lieke, D Meschede, W Franz, H Schäfer Physical Review Letters 43 (25), 1892 ● Quantum criticality in heavy-fermion metals P Gegenwart

マイクロソフトはマヨラナの夢を見るか~固体中におけるマヨラナ粒子観測論争について~

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【イントロ】 人生ほんと辛い。 助けてほしい。 なので、すべてを解決する万能の力[1]が欲しいって思ったことありませんか? 実はあります。 そう、それが量子コンピュータです。  本記事では、近年話題になっているMicrosoft社によるトポロジカル量子コンピュータ実現に向けた固体中のマヨラナ粒子発見論争についてまとめてみました。 各種論文や記事をまとめた内容になっていますので、自分の備忘録でもあります。 【背景】  現在世界中で量子コンピュータの研究が盛んに行われています[2]。超伝導方式[3]やイオントラップ方式[4]、光方式[5]など様々な方法が提案されていますが、まだ実用的なデバイスは誕生していません。その理由の一つが、量子コンピュータがノイズに弱く誤り訂正の技術が確立されていないためです[6]。 量子コンピュータの進展[3]  誤り耐性を持つ量子コンピュータの方式として注目されているのが、Kitaevが提案したボソンでもフェルミオンでもないエニオンと呼ばれる非アーベル統計に従う準粒子を利用したトポロジカル量子コンピュータです[7]。この方式において、局所的な擾乱によるエラーはそのトポロジカルな性質によって抑制されるため、誤り耐性をもった量子コンピュータが構築できることが期待されています[8]。  エニオンの代表的な例が、粒子と反粒子が同一の粒子であるマヨラナ粒子であり、その発見と制御がトポロジカル量子コンピュータ実現への第一歩となります[9]。マヨラナ粒子は、素粒子分野ではニュートリノが該当する可能性があり研究が進められています[10]。一方で、固体中の素励起、マヨラナ励起として実現する可能性があり注目されています[11]。実際、2000年前後の20年間で、「Majorana」(マヨラナ)を含む凝縮物性(Condensed Matter)分野の論文が10倍以上に増加しているという調査もあり、現在もホットなトピックとなっています[12]。具体的には鉄系超伝導体[13]や量子スピン液体[14]などでその創発が報告されていますが、デバイスへの応用が近いと考えられているのが超伝導体-半導体ナノワイヤヘテロ構造です[15]。  超伝導体-半導体ナノワイヤヘテロ構造は、超伝導体に半導体ナノワイヤが接合された構造でありマヨラナ粒子(励起)が

THC(サーマルホールコレクション)2022夏

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【イントロ】  Tokyo Girls Collection(東京ガールズコレクション、TGC)といえば、「日本のガールズカルチャーを世界へ」をテーマに、2005年8月から開催されている日本のファッションイベントです。若年女性向けの既製服を対象とした服飾製品の販売会と、それに付随するファッションショー、およびライブを主なコンテンツとしており、日本最大級のファッションの祭典と名高いイベントとなっています[ 引用元1 、 2 ]。日本の「カワイイ」を世界に発信する場ということですね。  一方、物質の示す電気・熱的性質、いわゆる物性はその物質特有の「カワイイ」を表すとみることが出来ます。その中でも熱ホール効果とは、「熱流が磁場によって曲げられる現象」であり、いわゆる電流のホール効果の熱流版として考えることができます[ 引用元 ]。一般に熱ホール効果は、通常のホール効果と同じように、電子(ホール)がそのキャリアを担うため金属で観測されることが期待されます。ところが近年、電子が存在しない絶縁体においても熱ホール効果が観測され注目を集めています。これは物質中の電子以外の準粒子、例えばマグノンやスピノン、そしてフォノンなどがそのキャリアを担っていることを示唆しています。逆に熱ホール効果を使えば、絶縁体中に生じる電荷中性なキャリアを捉えることができ、新しい物性を開拓する事ができます。つまり熱ホール効果は物性の新しい「カワイイ」を見つける舞台、実質的に東京ガールズコレクションとも言えます。  そこで本記事では、Thermal Hall Collection(THC)と題して物性の「カワイイ」を代表する現象、熱ホール効果を示す物質を紹介します。 熱ホール効果の概念図[引用元: 日刊工業新聞社 ] 【手法】 グーグル検索とArxivで「Thermal Hall effect」と検索して出てきた物質を抽出しました。 人力です。 【出演モデル】 1,Lu2V2O7 代表作:Observation of the Magnon Hall Effect 所属: SCIENCE 16 Jul 2010 Vol 329, Issue 5989 pp. 297-299 紹介:左右対称な磁場依存性が素敵な娘。マグノンがキャリアと考えられている。ベリーカワイイ。 2,Tb3Ga5O