科研費コスパ王決定戦~研究のコスパってなんだ?~

 [イントロ]

人の命は有限です。

限られた人生の中でやりたいことをやり切るには、目的達成に向けた投資対効果を最大化することが大切です。いわゆるコストパフォーマンス、コスパですね。

コスパ……コスパといえば、研究のコスパも気になるところです。

そこで本記事では、研究のコスパを実際に調べてみました。

[方法]
調査対象は、科研費の研究課題としました。
対象範囲は、東京大学工学部物理工学科および理学部物理学科に所属する物性物理系の教員43名(講師から卓越教授まで)です。科研費データベースから該当教員の課題情報を取得し、取得できたすべての研究課題を分析対象としています。データの取得時点は2026年7月、データ取得と分析にはClaude Codeを利用しました。

集計条件は表1のとおりです。分析対象は441課題、論文7,556件、研究費総額にして108億円分に相当します。取得できる最古のものから、最新の研究課題までを含んでいます。英語文献・日本語文献の双方を含みます。

研究課題は、該当教員が代表者を務める課題のみを対象としました。実際には分担者として参画している課題もあるため本来のコストパフォーマンスはその影響を受けますが、今回はこの条件で統一しています。
(分担ばかりしかない教員はそれはそれでどうやねん、という理屈です)

コストパフォーマンスは次式で定義しました。

コスパ = 研究課題で報告された出版論文のIF合計 ÷ 当該課題の直接経費の合計

IFには、DOIを基準に取得したOpenAlexの2年平均被引用数を用いており、正確には「IF相当値」という位置づけになります。分析対象論文の上位10誌について、この指標と各誌が公表しているImpact Factorを比較したところ、相関係数は0.99程度と非常に高く、コスパを比較するという目的においては問題ないと判断しました。

雑誌名の名寄せはClaude Codeで行い、IFを取得できなかった文献は一律にIF=1として扱っています。

表1、分析条件の概要

[分析結果]


研究種目別のコスパ

研究種目別に集計した結果が以下のとおりです。

若手研究、基盤研究(B)、挑戦的萌芽研究など、直接経費が比較的小さい種目のほうがコスパが良いという結果になりました。選択と集中により研究費を集中させた基盤研究(S)や特別推進研究のほうが、良い論文がたくさん出ているだろうと予想していたので、意外な結果です。

まさか、選択と集中をせずに多くの研究者へ分散させたほうが、コスパは良いのか……?

もっとも、この結果の解釈には注意も必要です。大型種目は分母となる研究費が桁違いに大きく、論文の産出が費用に比例して増えるわけではない以上、比で見れば不利になりやすい構造があります。大型課題の成果には装置開発や人材育成など論文以外のアウトプットも含まれるため、IFだけで測れば過小評価になる面は否めません。

表2、研究課題種類別のコスパ


掲載誌の内訳

各研究課題で報告された論文の掲載誌を集計した結果が以下です。上位10誌で全体の約50%を占めています。

上位にはPRBやAPLが並び、物性系の雑誌が多くなっています。これは予想どおりの結果ですね。JPSJも日本物理学会が主催する論文誌、上位は納得です。
物理学最高峰のPRLが2位に来ているあたり、流石東大という趣です。

表3、研究課題に報告されている投稿論文誌


参考:論文あたりの平均IF

参考として、論文あたりの平均IFという観点でも見てみました。分析対象課題の報告論文のIF合計を論文数で割った指標で、上位20名を掲載します。

上位陣は平均IFが7〜8程度。「平均PRL」といった趣です。さすが東大、人財の宝庫ですね。

20位までを見ると実験系が14/20名を占めており、実験有利という結果でした。実験のほうがインパクトの大きい結果として受理されやすい、ということかもしれません
(ただし、本分析からその要因まで特定できるわけではありません)。

表4、IF合計÷論文数によるランキング



研究費あたりのIF(コスパ)

さて、本来の調査目的である、獲得研究費あたりのIFとして計算した、コストパフォーマンス上位20名が以下のとおりです。

トップの教員は2位に2倍の差をつけています。圧倒的ですね。もうこの先生に全集中、選択の型で集中投資しましょう。

関連論文500本以上の理論の先生も、実験の先生も上位に顔を出しており、卓越を感じます。

上位3名は理論系ですが、20位までを見ると実験系と理論系がほぼ半々で拮抗しています。理論研究者のほうが必ずしもコスパが高いわけではない、というのは面白い結果です。

表5、研究費コスパによるランキング


[まとめ]

本記事では、東大で物性物理研究を行う教員43名について、科研費の投入額あたりのIF産出量を「研究コスパ」として算出しました。結果は次の2点に整理できます。
  • 研究種目別では、基盤研究(S)などの大型種目より、規模の小さい課題のほうがコスパが良い
  • 教員別では、論文あたりの平均IFで見ると実験系が優勢である一方、研究費あたりのIF(コスパ)で見ると実験系と理論系が拮抗する

なぜ小型種目のほうがコスパが良く出るのか

2つの要因が考えられます。

第一に、分母の性質です。研究費の増分は、必ずしも論文の増分に直結しません。大型種目では相当部分が装置や大型設備に配分され、論文の産出量は最終的にそこに関わる人の数で頭打ちになります。研究費と論文数の関係が線形ではなく逓減的である以上、比を取れば大型課題が不利になるのは、半ば構造的な帰結です。

第二に、アウトプットの種類です。大型課題の成果には、装置開発、共用設備の整備、大学院生やポスドクの育成、データやコードの公開といった、論文のIFには現れないものが多く含まれます。分子を論文のIFに限る以上、これらはまるごと勘定から抜け落ちます。

つまり今回の結果は、「大型研究は非効率だ」という話ではなく、「IF/研究費という物差しは大型研究に不利にできている」という話として読むのが妥当そうです。

「コスパの良い先生に集中投資」は成り立つか

さて、ここで先ほどのノリに戻ります。コスパ1位の先生に全集中、集中投資すべきでしょうか。

おそらく、うまくいきません。この分析が同時に示しているのは「研究費が小さいほうがコスパは良い」ということなので、コスパの高い研究者に大型予算を渡した瞬間、その人のコスパは下がることになります。コスパを基準に選択と集中を進めると、選択と集中を否定する結果が返ってくる——なかなか座りの悪い構造です。

裏返せば、この分析が支持しているのは「特定の誰かに寄せる」ことではなく「小さな研究費を広く配る」ことのほうだ、とも読めます。ただし、大型設備がなければ成立しない研究領域が現に存在することを踏まえると、これも単純には主張できません。コスパは投資判断の材料の一つにはなっても、それ単独で配分方針を決められるほど強い指標ではない、というあたりが落としどころでしょう。

本分析の限界

解釈にあたっての注意点を挙げておきます。
  • 代表者課題のみを対象としており、分担者として関与した課題は含んでいない
  • 科研費データベースの成果論文は自己申告のため、同一論文が複数課題に重複計上されている可能性がある
  • IFを取得できなかった文献を一律IF=1として扱っており、日本語文献や紀要の多い教員の評価が歪む
  • IFは本来雑誌の指標であって、個々の論文の質を測るものではない
おわりに

指標としての限界はあるものの、著者にとっては、分析の構想をAIとの対話で具体化し、その実行までAIに担わせられると確認できたことが大きな収穫となりました。「なんとなく気になっていた問い」を、データの収集から分析コードの作成・実行、データの分析までAIに任せることで、容易に具体化できるようになりました。

AIの進化が研究の加速につながる今の世の中、加熱する研究開発競争を生き抜くためにも、最新のテクノロジーを駆使して、コスパ良く成果を出していきたいものです。

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