Natureに 5本同時に 載ったから 2026年1月28日は W&T記念日
[イントロ]
いつもの呼吸として、Xを観ていたら
というつぶやきを見かけたんですね。
Natureに論文を掲載することは、ある意味ほとんどの研究者にとっての夢、大きなマイルストーンといえ、そこに2本同時掲載するなんて本当の一流研究者の証拠、すごい!という趣ですね。
いや、チョット待てよ、と。
凝縮系物理オタクとしたら、
「Natureに2本同時掲載するなんて、呼吸のようなものでは?」
「Natureの2本同時掲載やりながら、同週にScienceも掲載待ったなし」
「逆にNature/Scienceに同時に載ってない週は不安になる」
という感想にもなります。
どういうことか?
そう、凝縮系物理には、Condensed matter Physicsには、日本には、
世界のW&Tがいるじゃないか!
本記事では、日本が誇る世界的な研究者コンビ、NIMSの渡邊先生&谷口先生(W&T)がNatureやScienceといった一流論文誌にどれくらいの頻度で同時掲載しているのか?
そうした疑問を調査してみました。
[手法]
そもそも、W&T先生ってだれ?という方は、以前書いたこちらの記事を参考にしてください。
渡邊先生、今(26年10月時点)だとh-indexが249もあるんですね。どうなってんだ。
![]() |
| 渡邉先生のGoogle Scholar |
データの取得と分析は、Claude Opus5.5を利用しています。
具体的な手法は以下の通りです。
データの収集
論文データベースのOpenAlexとCrossrefを使い、2026年10月時点で渡邊賢司氏(NIMS)が著者に含まれる論文を収集しました。渡邊先生と谷口先生は基本的に常に共著となっている前提の分析となっています。
OpenAlexでは同じ研究者が複数の著者IDに分かれて登録されることがあるため、次の3つの経路で集め、重複を除いて統合しています。
- 渡邊氏の著者IDに紐づく論文
- 谷口尚氏の著者IDに紐づく論文のうち、著者リストに渡邊氏がいるもの
- 論文に記載された著者表記(Kenji Watanabe、K. Watanabeなど)とNIMS所属の組み合わせで検索した論文
同姓同名の別人を除くため、イニシャル表記(K. Watanabe)でしか一致しない論文は、谷口氏が共著にいる場合だけ採用しました。
学術誌論文の判定
各論文のDOIをCrossrefに照会し、文献種別が学術誌論文(journal-article)のものだけを対象にしました。プレプリント、学会講演要旨、機関リポジトリの登録などは除外しています。最終的な対象は3497本です。
網羅性の検証
NatureとScienceについては、Crossrefに出版社が登録した著者リストからも直接検索し、上記の結果と照合しました。Nature 173本、Science 99本が、仕組みの異なる2つのデータベースで完全に一致したため、この2誌はほぼ漏れなく網羅できていると判断しています。
出版日と「同じ週」の定義
出版日には、Crossrefに登録された印刷版(号)の発行日を使いました。号を持たないオンライン専用誌の論文は、オンライン公開日で代用しています。どちらの日付もない155本(年月までしか登録されていないもの)は、週単位の集計から除外しました。「同じ週」は月曜始まりの1週間で数えています。NatureとScienceは週刊誌のため、同じ週はおおむね同じ号に相当します。
NIMS全体との比較
NIMS全体のNature・Science論文数は、Nature Indexの機関別データを使いました。渡邊氏の論文を同じ期間で数え、比較しています。
データ集計の限界
NatureとScience以外の雑誌では、著者IDの分割などにより取りこぼしが残っている可能性があります。また、収集は渡邊氏を起点にしているため、谷口氏単独の論文は含まれていません。2026年の数字は10月中旬までのものです。Nature Indexが期間の判定に使う日付の種類は確認できていないため、NIMSとの比較は概算です。
[結果]
まずはサマリです。
取得できる範囲で、W&T先生の学術論文数は約3500本。
論文数は2010年以降急速に伸びを見せています。さらに2018年以降は、マジックアングルグラフェンの発見を契機とした、2次元物質のモアレ物性の研究の世界的流行も相まって、論文数の増加の加速が見て取れます。
特に2025年には468本の論文が確認でき、1日1本以上の論文が出版されている計算になります。
なんだこれ、チャンスか?
これまでのこれら出版論文のうち、Natureが173本、Scienceが99本確認できました。
はい、神。
人生で1本でもNature&Scienceに掲載されれば嬉しいのに、
Preprintレベルの感覚でNature&Scienceが出版されています。
以上がサマリですが、集計して見えてきた驚きの業績をご紹介します。
Natureに複数本同時掲載は余裕。なんなら同一日に5本同時掲載もある
さらに同じ号に3本同時掲載が6回も確認できました。
2本同時掲載とか当たり前すぎてもはや空気です。
加えて号をまたぎを許したオンライン公開日基準では、
Natureに同一日に5本同時掲載のタイミングも存在しました。
『Natureに 5本同時に 載ったから 2026年1月28日は W&T記念日』
Natureに同じオンライン出版日で5本同時掲載された論文は以下の5つです。
光によるチャーン絶縁体状態の制御が3本と、モアレTMDと二層グラフェンの電子相関制御関連が2本になっています。
チャーン絶縁体の論文は、競合研究グループ同士(スイス、米ワシントン大、シンガポール)が同時にNature誌に論文を載せた形ですが、
全てはお釈迦様の手のひらの上、いや、W&T印のh-BNの上の出来事です。
| 論文名 | 引用 | 概要 |
|---|---|---|
| Optical control over topological Chern number in moiré materials | Huber et al., Nature 649, 1153–1158 (2026), doi:10.1038/s41586-025-09851-w | ツイストMoTe₂二層で、強相関モアレ物質のトポロジカルなチャーン数を光だけで反転させた初の実証 |
| Optical control of integer and fractional Chern insulators | Holtzmann et al., Nature 649, 1147–1152 (2026), doi:10.1038/s41586-025-09777-3 | ツイストMoTe₂で、円偏光の光ポンピングにより強磁性の向きを切り替え、整数・分数チャーン絶縁体を制御 |
| Optical switching of a moiré Chern ferromagnet | Cai et al., Nature 650, 580–584 (2026), doi:10.1038/s41586-025-10048-4 | ツイストMoTe₂の整数・分数チャーン強磁性体を、ゼロ磁場下でごく弱い連続光によって効率よく反転 |
| Bandwidth-tuned Mott transition and superconductivity in moiré WSe2 | Xia et al., Nature 650, 585–591 (2026), doi:10.1038/s41586-025-10049-3 | モアレWSe₂でモット転移と超伝導を調べ、超伝導の鍵が強い電子相関にあることを示した |
| Observation of a superfluid-to-insulator transition of bilayer excitons | Zeng et al., Nature (2026), doi:10.1038/s41586-025-09986-w | 二層グラフェンの励起子超流動が、密度を下げると止まって絶縁体になる転移を観測し、超固体の可能性を示唆 |
NIMSからのNature&Scienceに占める割合高すぎ問題
日本の研究界が誇る英雄W&T先生ですが、NIMSの中での存在感も圧倒的です。
2025年6月~2026年5月の1年間に出版されたNIMSからのNature&Science論文のほぼ全て、具体的にはNatureはNIMSの全17本、Scienceも11本中8本がW&T先生の論文であるという集計結果になっています。
引退したらどうすんだ?
NatureとScienceをまたいだ同時掲載もよくあること
Natureに同週の出版日では最大3本同時掲載が6回ありますが、
Scienceにも2回あります。
さらに、出版日(号の発行日)を基準に、NatureとScienceの両方に論文が同じ週に載ったのは、18回です。
その18回の内訳は、2誌合わせて2本の週が11回、3本が3回、4本が4回でした
多すぎるて。
1週間に論文何本出せる?はい、19本出せます
雑誌を問わず学術論文誌の括りで考えると、同週に最大19本の論文が出版されたことがあるようです。
並のポスドクの論文数を1週間で!?
19本同時掲載の論文の具体中身は以下の通りです。
これだけの研究グループが、W&T印の最高純度のh-BNを求めていると思うと、如何に2次元物質研究が2次元性の担保に影響を受けるかということが伺い知れますね。
| No. | 論文名 | 引用 | 概要 |
|---|---|---|---|
| 1 | Top-down integration of an hBN quantum emitter in a monolithic photonic waveguide | Applied Physics Letters (2023), doi:10.1063/5.0152721 | hBNの量子光源を、同じhBNで作った光導波路にトップダウン加工で組み込んだ |
| 2 | Observation of half-integer Shapiro steps in graphene Josephson junctions | Applied Physics Letters (2023), doi:10.1063/5.0153646 | グラフェンのジョセフソン接合で、半整数のシャピロステップを観測 |
| 3 | Low-frequency noise in hBN/MoS2/hBN transistor at cryogenic temperatures toward low-noise cryo-CMOS device applications | Applied Physics Letters (2023), doi:10.1063/5.0152475 | hBNで挟んだMoS₂トランジスタの極低温での低周波ノイズを調べ、低雑音の極低温CMOSへの応用を検討 |
| 4 | Operando electron microscopy investigation of polar domain dynamics in twisted van der Waals homobilayers | Nature Materials (2023), doi:10.1038/s41563-023-01595-0 | ツイスト二層の分極ドメインが動く様子を、動作中の電子顕微鏡観察で捉えた |
| 5 | Exciton-assisted electron tunnelling in van der Waals heterostructures | Nature Materials (2023), doi:10.1038/s41563-023-01556-7 | ファンデルワールス積層構造で、励起子が介在する電子トンネリングを示した |
| 6 | Nanoscale electrostatic control in ultraclean van der Waals heterostructures by local anodic oxidation of graphite gates | Nature Physics (2023), doi:10.1038/s41567-023-02114-3 | グラファイトのゲートを局所陽極酸化で加工し、超清浄な積層構造の電位をナノスケールで制御 |
| 7 | Organic Molecules as Origin of Visible-Range Single Photon Emission from Hexagonal Boron Nitride and Mica | ACS Nano (2023), doi:10.1021/acsnano.3c02348 | hBNと雲母で見られる可視光の単一光子発光の起源が、有機分子であることを示した |
| 8 | Nanoscale Cathodoluminescence and Conductive Mode Scanning Electron Microscopy of van der Waals Heterostructures | ACS Nano (2023), doi:10.1021/acsnano.3c03261 | カソードルミネッセンスと導電モードSEMで、積層構造をナノスケールで評価 |
| 9 | Interspecies exciton interactions lead to enhanced nonlinearity of dipolar excitons and polaritons in MoS2 homobilayers | Nature Communications (2023), doi:10.1038/s41467-023-39358-9 | MoS₂二層で、種類の異なる励起子どうしの相互作用により双極子励起子とポラリトンの非線形性が増強 |
| 10 | Anomalous Interfacial Electron-Transfer Kinetics in Twisted Trilayer Graphene Caused by Layer-Specific Localization | ACS Central Science (2023), doi:10.1021/acscentsci.3c00326 | ツイスト三層グラフェンで、特定の層への電子の局在が界面の電子移動を異常に変えることを示した |
| 11 | Excitation-Dependent High-Lying Excitonic Exchange via Interlayer Energy Transfer from Lower-to-Higher Bandgap 2D Material | Nano Letters (2023), doi:10.1021/acs.nanolett.3c01127 | 小さいバンドギャップから大きいバンドギャップの2次元物質への層間エネルギー移動を、励起条件ごとに調べた |
| 12 | Specular Electron Focusing between Gate-Defined Quantum Point Contacts in Bilayer Graphene | Nano Letters (2023), doi:10.1021/acs.nanolett.3c00499 | 二層グラフェンのゲートで作った量子ポイントコンタクト間で、鏡面反射を伴う電子集束を観測 |
| 13 | From h‐BN to Graphene: Characterizations of Hybrid Carbon‐Doped h‐BN for Applications in Electronic and Optoelectronic Devices | Advanced Electronic Materials (2023), doi:10.1002/aelm.202300083 | 炭素を添加したhBNの特性を評価し、電子・光デバイスへの応用を検討 |
| 14 | Observation of Rydberg moiré excitons | Science (2023), doi:10.1126/science.adh1506 | モアレ超格子の影響を受けたリュードベリ励起子を観測 |
| 15 | Ultrafast dynamics of bright and dark excitons in monolayer WSe2 and heterobilayer WSe2/MoS2 | 2D Materials (2023), doi:10.1088/2053-1583/ace067 | 単層WSe₂とWSe₂/MoS₂二層で、明るい励起子と暗い励起子の超高速ダイナミクスを測定 |
| 16 | Evidence of defect formation in monolayer MoS 2 at ultralow accelerating voltage electron irradiation | 2D Materials (2023), doi:10.1088/2053-1583/acc7b6 | 極低加速電圧の電子線照射でも、単層MoS₂に欠陥ができることを示した |
| 17 | Graphene nanoribbons with hBN passivated edges grown by high-temperature molecular beam epitaxy | 2D Materials (2023), doi:10.1088/2053-1583/acdefc | 高温の分子線エピタキシーで、端をhBNで保護したグラフェンナノリボンを成長 |
| 18 | Twist-angle dependent dehybridization of momentum-indirect excitons in MoSe2/MoS2 heterostructures | 2D Materials (2023), doi:10.1088/2053-1583/acdbdb | MoSe₂/MoS₂積層で、運動量間接型の励起子の混成がねじれ角によってほどける様子を調べた |
| 19 | Confined-state physics and signs of fermionization of moiré excitons in WSe2/MoSe2 heterobilayers | 2D Materials (2023), doi:10.1088/2053-1583/acd265 | WSe₂/MoSe₂二層のモアレ励起子で、閉じ込め状態の物理とフェルミオン化の兆候を観測 |
[まとめ]
これだけ圧倒的な論文数を見ると、如何にW&T先生の作るh-BNが2次元物質研究のインフラとなっているか、よくわかります。
逆に、W&Tのh-BNを使っていない2次元物質研究は、平坦性の担保が取れているのか不安になるレベルです。
広く世界から求められる物質を丁寧に作製し提供し続けるその姿勢、頭が下がる思いです。
W&T先生のh-BNを超える同物質の合成は世界中でチャレンジされているようですが、いまのところその性質を明らかに超える試料は合成できていないようです。
モアレ物性の発見以降、世界中で加速する2次元物質研究。それを土台から支えるW&T先生たちの活躍。
2次元物質の論文を見かけたら、W&T先生のお名前が著者にいないか、チェックしてみるとおもしろいですよ。


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