LLMを研究アシスタントに使えるか?~銅酸化物超伝導の研究を例に~
【イントロ】 ある研究分野の歴史が長いほど、何がわかっていて何がだめな取り組みだったのか、 もはやすべてを理解しているのは長年研究に従事してきたその分野の専門家だけとなり、 新規参入者がすべてを把握するのは難しくなります。 新規参入者がいない分野は、いずれ滅んでしまう悲しい現実。 学生や若手研究者が新しい研究分野に取り組もうとしたとき、そんな研究への障害をAIにより取り除き、新しい風を研究分野に取り込むことは可能でしょうか? AIに取り組みたい研究分野の概観や未解決問題を問いかければ、専門家も納得する精度の回答を返してくれるのであれば、若い研究者が新しい分野へ挑戦することが容易になり、新発見につながる可能性が高くなると期待されます。 では、現在の最先端のLLMベースのAIシステムは、長い歴史をもつ研究分野の専門家が納得するような回答を返してくれるのでしょうか? この問を、40年近い研究の歴史を持ちつつ多くの未解決問題を抱える、銅酸化物高温超伝導体の研究をテーマに取り組んだ研究がArxivに報告されました。 本記事では、コーネル大学とGoogleを中心とする研究チームによるこの研究論文、 Haoyu Guo et al. , Expert Evaluation of LLM World Models: A High- Superconductivity Case Study , arXiv:2511.03782 [cond-mat.supr-con] ( Accepted at the ICML 2025 workshop on Assessing World Models and the Explorations in AI Today workshop at ICML'25) を読んでみました。 【方法】 銅酸化物超伝導体は、常圧で最高の超伝導体転移温度を持つ物質群であり、リニアモーターカーや核融合発電への応用だけでなく、基礎的な超伝導発現メカニズムだけでなく常伝導状態の異常物性、そして室温常圧超伝導体への実現につながる可能性から、多くの研究者の注目を集め続けています。 一方で、1986年の発見以来、40年近い時間の中で膨大な研究が行われ、その中の研究をすべて把握することは、学生や若手研究者にとって困難となっている状態です。...