学振採用者はどこへ消えた?

【イントロ】
気づけばもう12月。
一年経つのは早いですね。
この一年いろいろあったなぁ、、、
と、思い返してみますが、何も残っていない気もします。
残らないほうがいいこともある、と思えば少しは前向きになれるかな?
いっそ、全部忘れて来年に期待を託していきたいところです。

 そんな終わりを迎えた一年ですが、新たに始まるものもあります。
 そう、就活です。
 2020年の新卒採用に向けて、はやくも各所で企業説明会が始まっています。
人間、「働きたくない、働きたくない」と口にはしても、体は正直なので、
その足はセミナー会場に向かい、ホイホイESを書き、面接を受けて、内定通知に心踊らせる・・・そうした一連のハートフルストーリーが始まる12月です。

 一方で、わかりやすい新卒採用スキームに対して、よくわからない立場に置かれているのが博士課程の学生です。未だ卒業していないため新卒とも言えるし、年齢的には27歳を越え中途採用扱いもありえます。
 また、ポテンシャル採用が中心の学卒、院卒と比べて、専門分野がはっきりしているために採用してくれる企業、職種が限定される傾向にあります。専門分野と募集職種がぴったり合えば、即戦力として簡単に採用される一方で、専門分野の不一致が大きいと、「超電導?いらないなぁ笑スピントロニクスならよかったけどね笑」と門前払いを受けることも多くなります。ウケル。

そんな博士たちは、卒業後どこへ向かうのでしょう?
特に、国から選ばれた学術振興会特別研究員として、同世代が4~600万円以上の年収を稼ぐ中、年240万円もの大金を在学中から支援されていた学術エリートとも言える人々はどこへ消えていったのでしょう?
今回は、彼らの足取りを追ってみました。。。

【方法】
 Loveのこもった手作業です。調査対象は「数物系科学」のうち、物性物理関係の採用者としました。趣味です。
 自分と同世代の学振採用者名簿に記載されているDC1、DC2採用者一人ひとりの所属研究室HPやSNSをチェックしその後の進路を確認しました。ネトストじゃないよ。
 また、アカデミック/非アカデミックの就職に業績が関係あるか確認するため、卒業後1年経過した2017年までの業績をチェックしました。Proceedingsは含んでいません。

【結果】
 図1は、大学別採用者数です。全部で45人います。ほとんどが東大所属でした。やっぱ最高学府は違うなぁ。続いて東北大、東工大が続きます。

図1,大学別採用者数


図2は論文数、平均IF、合計IFです。個人名はプライバシー保護のため、ラベルに置き換えています。
 一番多い人はおよそ修士~博士の5年間で20本前後の論文を出版しています。
 こわい。
 一方で、論文数がゼロの方もいます。Proceedingsのみ、出版準備中、査読中ということもあるので、ありえるありえる。
平均IFを観ると、平均してNature Communication以上の雑誌に出している方もいて、同じ博士でも差は大きいなぁと言う印象です。とはいえ、IFは雑誌の実力であってその論文の実力ではありませんが。「研究室を出ても活躍できる!」ことを示すためには、その後の活躍に注目です。
平均JK指数は、論文数を1st著者3点、2nd著者2点、3rd以降1点で重み付けしたあと論文数で割った値です。3に近いほど自分で論文を書いていることになります。論文数が多い方は共著がメインだからか、JK指数は低い傾向にありますが、10本以上書いてJK=3に近い方もいて、生産性の高さに驚かされます。



さて、それではこのような業績を残したみなさんがどちらに就職されたの確認した結果が下の図3です。消息が不明であった7人を除き38名の足取りを追いかけました。過半数がアカデミック関係の進路を選びほとんどの方がポスドクとなっていることがわかりました。特に、東大のPDが多いです。金のあるところに人は集まる。。。海外へPDとして向かう方も少なからずいました。調べた範囲だとヨーロッパが多かったです。海外武者修行ですね。あとは帰ってくるポストさえ有れば。。。
 一方で非アカデミック関係の進路は大手メーカーが多い印象です。やはり、マッチする仕事、採用人数が多い結果でしょうか?官公庁もありますね。

図3、学振採用者の進路

では、アカデミック/非アカデミックを選んだ方で業績に差はあるのか調べてみた結果が下の図4です。特に大きな差は無いですが、論文数の差に対して、合計IFの差がおおきいので、アカデミックに進んだ方のほうがIFの高い論文誌に名を載せた、ということでしょうか?

図4,アカデミック/非アカデミック進路選択者の業績比較

【まとめ】
 学振採用者の進路を調査しました。
どちらかというと最初のキャリアとしてアカデミックを選んだ方々のほうが多かったです。とはいえ非アカデミックの方々も多く、学振採用されたからといって、必ずしもアカデミックに残るわけではないことがわかりました。
 過去の選択にとらわれず、未来の進路を選択するのが大切なのかもしれません。
 明るい未来が希望だゎ…




コメント

  1. あげあしをとるようで申し訳ないのですが、最高学府は大学を指すので、東大だけに対しても使うのは不適切かもしれません
    https://kotobank.jp/word/%E6%9C%80%E9%AB%98%E5%AD%A6%E5%BA%9C-507521

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