2019年1月の気になった物性系論文(完全版)

1月の気になった物性系論文まとめです。
19/1/27 Ver. 1:1~9
19/1/30 Ver. 2: 10~19
19/1/31 Ver. 3: 20



1,Failure of Conductance Quantization in Two-Dimensional Topological Insulators due to Nonmagnetic Impurities
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.122.016601
図1,非磁性不純物が磁性をもつイメージ図。磁性バージンの喪失である。

コメント:トポロジカル絶縁体の端状態を流れる電流は非磁性不純物による後方散乱を受けず、伝導の量子化が生じる。ところが、電子間相互作用を考慮すると、非磁性不純物が磁性を持つことで後方散乱を引き起こし、伝導の量子化を破壊しちゃうよ論文。
ナンテコッタ/(^o^)\

2,A strongly inhomogeneous superfluid in an iron-based superconductor
https://arxiv.org/abs/1901.00149
図2、準粒子強度と超流動密度の相関。相関がすごい(語彙
コメント:Fe(Te,Se)のSTM測定から、超流動密度の空間不均一性が結晶構造や超伝導ギャップサイズの不均一性ではなく、準粒子強度と相関していることを明らかにした論文。銅酸化物とも似ているらしい。図から、圧倒的な相関が見て取れます(・_・)

3,Discovery of colossal Seebeck effect in metallic Cu2Se
https://www.nature.com/articles/s41467-018-07877-5
図3,ZTの温度依存性。5℃程度の範囲でZTが大変なことになっている。
コメント:Cu2Seの構造相転移温度付近で、ZT=450を超える熱電効果を観測した論文。ZT=4を超えると嬉しいなという業界で、ヤバみのある結果です。ピアレビューファイルを見ると、レフェリー1からの鋭いツッコミに答えての掲載決定の模様です。

4,Superconductivity of Liquids
https://arxiv.org/abs/1901.02114
図4、金属水素液体の対形成相互作用の波数依存性。なるほどわからん。

コメント:「金属水素液体は超伝導になるか?」という疑問に対して、40年前のアシュクロフトらによる経験的な電子格子相互作用理論を越えて、最新の第一原理経路積分分子動力学法を用いて答えようとした論文。液体超伝導とは一体( ;・`д・´)ゴクリ

5,Strange metal in magic-angle graphene with near Planckian dissipation
https://arxiv.org/abs/1901.03710
図5、MAGの電気抵抗温度依存性。スゴイまっすぐ。
コメント:マジックアングルグラフェンが銅酸化物とよく似た超伝導相図を示すことが昨年話題になりましたが、さらによく似た兆候、つまり温度Tに対して線形な電気抵抗を観測した論文。もはや名誉銅酸化物である。あとは擬ギャップとかみたり、CDWとか観測すればいいの?Overdope側の強磁性は存在するの?

6,New collective mode in superconducting cuprates uncovered by Higgs spectroscopy
https://arxiv.org/abs/1901.06675
図6,超伝導転移温度以下のテラヘルツ波強度に新たな異常がみえる
コメント:銅酸化物の位相分解非線形テラヘルツ分光により、銅酸化物の超伝導状態に新たな励起モードを発見した論文。三次高調波の測定とはたまげたなぁ。あと著者陣がオールスター感があり豪華です(こなみ。

7,New classes of chiral topological nodes with non-contractible surface Fermi arcs in CoSi
https://arxiv.org/abs/1901.03358
図7,CoSiのEFからの距離に依存した強度マップ。すごいヒモ感。
コメント:トポロジカル半金属ではWeyl nodeとよばれるカイラルトポロジカル表面状態が観測されていたが、それ以外にもトポロジカル表面状態は存在する。そのうち2つ、spin-1 nodes と charge-2 Dirac nodesをARPESで観測した研究。ARPESはキレイな絵が作れていいですね(こなみ。

8,Generation and Detection of Pure Spin Current in an H-Shaped Structure of a Single Metal
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.122.016804
図8、H型構造をつかった測定方法の模式図。えっちだ。。。
コメント:これまでの二層構造デバイスを使ったスピンホール角の決定方法と違って、新型のH型構造を使って、単一金属の純スピン流の生成と検出に成功した研究。測定方法の開発ってかっこいいですね。

9,Search for the Magnetic Monopole at a Magnetoelectric Surface
https://journals.aps.org/prx/abstract/10.1103/PhysRevX.9.011011
図9、Cr2O3の磁気モノポールのイメージ図。モノポール感がある。
コメント:MuSRを使ってCr2O3表面に生じるモノポールを観測した研究。さらに磁気力顕微鏡を使ってモノポールを観測しようとしたが、表面Chargingのために観測できなかったとのこと。(;∀;)カナシイナー

10,Unusual behavior of cuprates explained by heterogeneous charge localization
http://advances.sciencemag.org/content/5/1/eaau4538
図10、輸送特性を再現するパラメータで超流動密度の組成依存性も再現できてヤバイ。
コメント:面内Cu-Oユニットセル内にホールが一つしか無い状態を想定し、ドーピングと温度上昇とともに非局在化する銅酸化物のパーコレーション的現象論モデル。輸送特性や擬ギャップ、超流動密度の組成依存性などが同一パラメータですっごくよく再現できる。他の電荷移動型モット絶縁体(Ti酸化物、Ir酸化物)にも適用できそうで夢が広がりング。

11、Sparse Phase Retrieval Algorithm for Observing Isolated Magnetic Skyrmions by Coherent Soft X-ray Diffraction Imaging
https://journals.jps.jp/doi/10.7566/JPSJ.88.024009
図11,非対称ピンホールを用いることで、アルゴリズムの収束性が増すとのこと。ハハッ!
コメント:実空間の単一スキルミオンをコヒーレント軟X線を使って直接観測したいが、普通にやるとそのシグナルは磁気スキルミオン格子の信号やノイズに埋もれてしまう。そこで、スパース位相回復アルゴリズムを使用することで、回折データから位相情報を回復し、実空間の単一スキルミオン像を再現する方法を提案する研究。くまさん型ピンホールカワ(・∀・)イイ!!

12,Observation of superconductivity in bilayer graphene/hexagonal boron nitride superlattices
https://arxiv.org/abs/1901.09356
図12,キャリア数に対する温度と電気抵抗のカラープロット。Tc高すぎぃ!
コメント:ほぼひねりのないhBN/二層グラフェン/hBNモアレ超格子にゲート電圧をかけることで、Tc=14Kを実現した研究。マジックアングルグラフェンのTc=1.7Kや、アルカリ金属インターカレーショングラフェンのTc~数Kと比べてずっと高いTcでヤバみがスゴイ。高品質hBNの提供者であるWatanabe & Taniguchiグループの本領発揮である。

13,Colloquium: Anomalous metals: Failed superconductors
https://journals.aps.org/rmp/abstract/10.1103/RevModPhys.91.011002
https://physics.aps.org/articles/v12/6
図13、絶縁相と超伝導相の間の異常金属相を表す模式図。パワポ!
コメント:二次元電子の絶縁体-超伝導転移の間に見られる異常金属相が凝縮していない短寿命クーパー対によるものであることを、これまでの多数の実験の総括から提案するレビュー論文。今後、熱特性や分光測定でこの異常金属相を研究したり、ヘテロ構造における超低密度二次元電子金属相との関係を調べることを提案している。時代はパーコレーション。。。

14、Engineering Topological Superlattices and Phase Diagrams
https://pubs.acs.org.ccindex.cn/doi/10.1021/acs.nanolett.8b03751
図14、トポロジカル絶縁体とバンド絶縁体のサンドイッチ構造のオシャレ模式図。
コメント:新しいトポロジカル物性探索の方針としてトポロジカル物質と機能性物質の超格子が提案されていたが、今回はじめて、トポロジカル絶縁体Bi2Se3/バンド絶縁体In2Se3超格子の作成に成功した研究。層の厚みを変えながら磁気輸送特性を測定することで、厚みと電子状態の関係を表す相図を作っている。ほかにもモット絶縁体とかマルチフェロ物質、近藤物質とかで超格子つくると夢が広がりそうな研究。

15、Higher superconducting transition temperature by breaking the universal pressure relation
https://arxiv.org/abs/1901.10404
図15、過剰ドープのサンプルに圧力をかけ続けるとTcが再び上昇し始めた図。どこまで上がるのか?
 コメント:不足ドープ、過剰ドープ銅酸化物に圧力をかけると、一般的な相図に従って、前者は一旦Tcが上昇その後低下、後者はそのまま低下するドーム形状のTc変化をなぞる。ところがどっこい、さらに圧力をかけるとふたたびTcが飽和すること無く上昇する異常な結果を報告する論文。微小結晶の磁気測定を可能にしたP. W. Chuグループの驚異の実験技術。Hg系でやるとどうなるのかな?

16、An ideal Weyl semimetal induced by magnetic exchange
https://arxiv.org/abs/1901.10022
図16、光電子分光とバンド計算、量子振動の結果。バンド形状がえっちじゃん。
コメント:EuCd2As2が微小な磁場下でワイルノードを生じる、磁性ワイル半金属として理想的な性質を持つことを、第一原理計算、光電子分光、量子振動、異常ホール効果測定から明らかにした研究。異常ネルンスト効果や、熱ホール効果、非相反光伝搬、反発カシミール効果や光吸収のカイラル異常、そして非局所伝導といったワイル半金属で予想される様々な新規現象が観測できると嬉しいな。Kaminski & Canfieldグループも近い論文を出していたので急いでarXivに出したのかな?

17、Experimental signatures of a three-dimensional quantum spin liquid in effective spin-1/2 Ce2Zr2O7 pyrochlore
https://arxiv.org/abs/1901.10092
図17、いろんな測定手法で観たスピン液体の兆候。決定的な実験方法はないのかな?
コメント:パイロクロア化合物Ce2Zr2O7がT=35mKまで磁気秩序を示さない、3次元スピン液体である兆候を、中性子散乱、磁化、比熱、μSRから確認した研究。いろいろスピン液体候補見つかるけど、何を測定したらはっきりするんだろう?他には熱伝導度、熱ホール効果、NMR、ラマン分光、赤外分光あたりですかねぇ・3・

18、Hear the Sound of Weyl Fermions
https://arxiv.org/abs/1901.09926
図18、カイラル音波とカイラルプラズモンモードの模式図。
コメント:He-3の特徴の一つは零温度でも存在できるゼロ音波である。一方普通の金属ではクーロン遮蔽効果のため、電子流体の音波伝搬の実現は難しい。この論文では、磁場下のワイル半金属ではカイラルゼロ音波と呼ばれる新種の音波が存在することを予言している。同時に、磁場に比例する音速は量子振動し、それは熱伝導測定で観測できるだろうと検証方法まで提案している有能論文である。論文タイトルのドヤ顔感もよい( ・´ー・`)

19、Correlations in Moire Flat Bands
http://online.kitp.ucsb.edu/online/bands_m19/
図19、うし(Prof. Liang Fuのスライドより)
コメント:最近話題のマジックアングルグラフェンに関する緊急ワークショップ。発見者のPablo Jarillo-Herrero (MIT)グループを含め、最新の実験・理論研究の結果を動画で鑑賞できる。一部スライドもアップされていて勉強になるかも。

20、Unconventional Antiferromagnetic Quantum Critical Point in Ba(Fe0.97Cr0.03)2(As1−xPx)2
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.122.037001
図20、電子相図。とりまカラープロットにするとオシャレ臨界点感がある。
コメント:強相関電子系では最近ネマティシティ(電子液晶)とよばれる異方的な電子状態が共通して観測され、その起源や超伝導との関連が注目を集めています。この論文では、BaFe2(As,P)2にCrを3%だけ置換して超伝導相を抑制し、隠れていた反強磁性量子臨界点を観測した一方、ネマティック臨界点が存在しないことを輸送と比熱、中性子散乱から明らかにしています。特にネマティックゆらぎと非フェルミ液体的振る舞いの関連が理論的に提案されていましたが、ネマティックゆらぎの寄与は思ったよりも小さいかも。。。やっぱCr置換なんだよなぁ(こなみ

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