2019年5月の気になった物性系論文(完全版)

5月の気になった物性系論文です。
人生やっていき精神。

19/5/12   Ver. 1 : 1-7
19/5/20   Ver. 2 : 8-11
19/5/27 Ver. 3 : 12-16
19/6/4   Ver. 4 : 17-25



1,Metals' awkward cousin is found
https://arxiv.org/abs/1904.12872
コメント:通常金属(NM)のフェルミ面(b)と違って、直交金属(OM)のそれは一粒子スペクトルに現れない
コメント:「普通の金属の従姉妹とも言える存在が存在する」…数年前、そうした噂が業界に流れた。つまり、フェルミ面を持ち電流を流す金属に対して、同じく電流を流すがフェルミ面を持たない量子状態が存在するのでは、と言う噂である。しかし、その状態を実現する物質だけではなく理論的に検証可能なモデルも提案されていなかった。この論文では、動的Z2ゲージ場と結びついた二次元ボソン物質場を符号フリー量子モンテカルロ計算で解くことで、乱れの導入とともに、フェルミ液体からの転移としてそうした状態、”直交金属”状態が実現することを明らかにしている。噂は現実のものとなったのである。
という、アブストのオシャレ感が凄い論文。

2,Quantum phase transition from axion insulator to Chern insulator in MnBi2Te4
https://arxiv.org/abs/1905.00715
A van der Waals antiferromagnetic topological insulator with weak interlayer magnetic coupling
https://arxiv.org/abs/1905.02154
Natural van der Waals Heterostructures with Tunable Magnetic and Topological States
https://arxiv.org/abs/1905.02385

図2,各種MnBi2Te4一族の振る舞い。チャーン絶縁体とアキシオン絶縁体の研究がすすみそう。
コメント:量子異常ホール効果(QAH)を示すChern絶縁体と量子化トポロジカル電気磁気効果を示すアキシオン絶縁体は、これまで磁性元素添加トポロジカル絶縁体や、ヘテロ構造で実現されてきた。第一の論文では、この2つのトポロジカル相間の磁場誘起相転移を磁性トポロジカル絶縁体MnBi2Te4で観測することに成功している。一方、第二の論文では、MnBi2Te4でのQAHの観測に比較的大きな磁場(約14T)が必要なことを問題視し、さらに低磁場(0.22T)でQAHが実現するMnBi4Te7を発見し報告している。さらに、第三の論文では、MnBi2Te4とBi2Te3を任意に重ねたヘテロ構造を実現し、QAHやアキシオン絶縁相の研究プラットフォームとして提案している。今、MnBi2Te4界隈が熱い( ;・`д・´)ゴクリ

3,Evidence of quantum vortex fluid in the mixed state of very weakly pinned a-MoGe thin films
https://arxiv.org/abs/1905.01045
図3、適切な弱磁場下では、ゼロ温度まで量子渦液体が安定化する測定結果
コメント:一般的に、Type-Ⅱ超伝導体では、量子渦は周期的な所謂Abrikosov格子を形成し安定化することが知られているが、この周期的格子は、格子欠陥や熱ゆらぎにより不安定化し量子渦液体となる。この論文では、α-MoFeの磁気輸送測定とSTSを300mKまで実施し、非常に弱い磁場下では量子渦液体が強いゼロ点量子ゆらぎのためにゼロ温度まで安定化することを報告している。量子ゆらぎ、Heを液体にするだけでは満足できなかったか。。。

4,Higher-order Topological Mott Insulators
https://arxiv.org/abs/1905.03484
図4,カゴメ格子の模式図と、角で励起するスピンちゃん。
コメント:d次元トポロジカル絶縁体はバルクの絶縁性と(d-1)次元端状態の存在が特徴であり、さらに電子相関の影響で、そのトポロジカル分類が変化することが理論的に調べられている。さらに最近では(d-2)、(d-3)次元に状態が局在した高次トポロジカル絶縁体の存在が提唱され、Bi表面やトポロジカル絶縁体/銅酸化物超伝導界面でその存在が観測・提唱されている。この論文では、高次トポロジカル絶縁体に電子相関の影響を取り入れた”高次トポロジカルMott絶縁体”の存在を提唱している。さらにカゴメ格子上ハバードモデルでその性質を計算し、d次元バルクにはギャップレスの電荷励起は現れず、(d-2)、(d-3)次元にギャップレススピン励起が生じることを報告している。色んな概念を組み合わせるのは楽しいですね。

5,Absence of a dissipative quantum phase transition in Josephson junctions
https://arxiv.org/abs/1905.01161
図5,ジョセフソン接合と抵抗の並列回路と絶縁体/超伝導転移しそうな相図(実際はしない)
コメント:1983年にA. Schmidは「ジョセフソン接合に一定値以上の抵抗を接続すると、接合部は絶縁体になり、それ以下では超伝導状態になる」という量子相転移の存在を予言した。その後行われた実験での検証は技術的困難が伴い議論が生じていた。この研究では、この問題に再度取り組み、絶縁体への相転移の兆候は存在しないこと、さらに理論を再検証することで、もともと相転移が存在しないことを報告している。問題を提起するのもいいですけど、未解決問題を解決するのも良いですね。

6,Quantum FFLO State in Clean Layered Superconductors
https://journals.aps.org/prx/abstract/10.1103/PhysRevX.9.021025
https://arxiv.org/abs/1808.04460
図6、層間FFLO状態の模式図。鉄系、なんでもエキゾチック状態示すな・3・
コメント:超伝導秩序パラメータが空間変調する超伝導状態、所謂FFLO状態は、対破壊に対するゼーマン効果の寄与が大きいPauli-limited超伝導体で実現することが理論的、実験的に報告されている。この論文では、清浄物質の層間方向に磁場をかけたときに生じるランダウ量子化が超伝導秩序に与える影響を理論的に調べ、ゼーマン効果が比較的弱い超伝導体でも、層間FFLO状態が実現することを提案している。層間FFLO状態、FeSe等の鉄系超伝導で実現する可能性があるとのことだけど、どうやって検証するんだろう・3・?

7,TensorNetwork: A Library for Physics and Machine Learning
https://arxiv.org/abs/1905.01330
TensorNetwork on TensorFlow: A Spin Chain Application Using Tree Tensor Networks
https://arxiv.org/abs/1905.01331
図7、代表的なテンソルネットワークの模式図。パワポみを感じる。
コメント:テンソルネットワークは、高次元スパースデータを扱うためのデータ構造で、固体物性や、量子化学、場の量子論や量子重力、宇宙論の研究に利用されてきた。この論文では、このテンソルネットワークの計算を機械学習ライブラリTensorflowを使って実行できるライブラリTensorNetworkを開発し、さらにそれを使ったスピン鎖の基底状態計算を同時に別論文で報告している。Google、基礎研究にも使えるライブラリを出してくるあたり、さすがですね。昔のベル研、いまのGAFAMといった感じかな?

8,Robust zero-energy modes in an electronic higher-order topological insulator: the dimerized Kagome lattice
https://arxiv.org/abs/1905.06053
図8、人工結晶のLDOSマップの実験と理論の比較。頂点が赤く光って局在してる!
コメント:トポロジカル状態をシミュレーションする方法として、冷却原子や光デバイスによる方法があるが、電子系を使って同様のシミュレーションを実現することは一つの大きな目標である。この論文では、STMを使用し、Cu(111)表面上に一酸化炭素CO分子を二量体化カゴメ格子状にレイアウトすることで、高次トポロジカル状態を実現することに成功している。巨大なスケールで実現できる光デバイスや、nKオーダーが必要だがコントロールできるパラメータの多い冷却原子系と相補的に使えるかもとのこと。この方法を使ってトポロジカル結晶絶縁体などもシミュレーションできることを提案していて夢が広がる研究です。

9,Supermetal
https://arxiv.org/abs/1905.05188
図9,Y点とM点が高次ファンホーフ特異点とのこと。
コメント:エネルギー分散の微分がゼロとなる点、つまり状態密度が極値または鞍点となる状態をファンホーフ特異点よぶ。最近の研究からの上記条件の代わりに、エネルギー分散のヘシアン行列のdetがゼロとなる条件を満たす高次ファンホーフ特異点の存在が提案され、マジックアングルグラフェンやSr3Ru2O7でその存在が観測されている。この論文では、高次ファンホーフ特異点に対する電子間相互作用の効果を検討し、状態密度がべき乗則に従い変化する”Supermetal”の概念を提案している。なるほど、わからん。

10,Unconventional thermal metallic state of charge-neutral fermions in an insulator
https://arxiv.org/abs/1905.05357
図10、熱伝導の温度依存性と磁場依存性。サンプル依存性が大きいですね。
コメント:近藤絶縁体SmB6やYbB12の量子振動は磁場下において絶縁体にFermi面が存在することを示唆する興味深い現象である。特に最近の研究からYbB12は電気抵抗にも量子振動がみられることが報告され、そのゼロ磁場での電子状態の詳細に注目が集まっていた。この論文ではYbB12の熱測定を実施し、絶縁体にもかかわらず金属並みの残留電子比熱成分と有限の残留熱伝導度成分が存在することを報告している。さらに熱伝導成分に磁場依存性があることから、磁場と相互作用する何らかの中性フェルミオン励起が存在することを提案している。他グループによるSmB6の熱伝導測定では残留成分は観測されておらず、YbB12の新たな特異性が見つかった格好で摩訶不思議。他グループによる追試、検証が待たれますね。

11,Extreme magnetic field-boosted superconductivity
https://arxiv.org/abs/1905.04343
図11、a,c軸方向に磁場を回転させたときの相図。右上のヤバイ相がヤバイ。
コメント:エキゾチックな量子物質に磁場をかけると、量子ホール効果やスピン励起のBECなど興味深い現象が生じる。一方、超伝導は磁場をかけると壊れてしまう悲しい現象で、例外は磁場によるリエントラント超伝導現象である。この論文では、超伝導体UTe2の磁場下輸送測定と磁化測定により、40~65Tという尋常じゃないほど高い磁場でリエントラント超伝導相が出現することを報告している。強磁性ゆらぎ由来の超伝導説が有力で物性が謎すぎて面白いが、UTe2がホイホイ作れる物質ではないところが難点かな・3・

12,Anomalous Topological Active Matter
https://arxiv.org/abs/1905.08999
図12、トポロジカルなアクティブマターの図。ぐるぐる回ってNetの渦度がゼロ。
コメント:トポロジカルな性質は固体物性やフォトニック系、音響系に広く観られる現象である。一方、アクティブマターは生物物理や非平衡系を中心にその性質を探る手段として注目を集めている。この論文では、トポロジカル物性の代表格、量子異常ホール効果とのアナロジーから、トポロジカルに非自明な渦度の消失と端状態を示すアクティブマター模型を提案している。非エルミートトポロジカル現象との関連も指摘しており、実験で検証されるのが楽しみです。

13,Coexistence of Diamagnetism and Vanishingly Small Electrical Resistance at Ambient Temperature and Pressure in Nanostructures
https://arxiv.org/abs/1807.08572
図13、ノイズの再現度に定評のある超伝導転移。夢が広がる結果。
コメント:キタ──ヽ('∀')ノ──!! おれたちの金銀ナノ粒子超伝導が実験データを追加して帰ってきました。サンプル合成の厳しい時間指定、分散剤との相互作用で再現するSQUIDノイズ、数日間寝かせておくとなぜか14K上昇するTc、二次元系でもないのになぜかBKT転移ぽく振る舞う超伝導、繰り返した128回もの実験の全記録…75ページに渡る大作が著者陣を増やして再登場です。今年最高の論文の一つとなるのは間違いないのでぜひ一読ください!

14,Boundary-limited and glassy-like phonon thermal conduction in EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2
https://arxiv.org/abs/1905.08420
図14,同じ物質でも熱伝導度が大きなグループと小さなグループがある。なぜなんだぜ。。。
コメント:先月Arxivに投稿された、有機物質における量子スピン液体に由来する熱伝導の非再現性指摘論文に対する、著者陣の一人からの反論論文です。曰く、有機物質の熱伝導を測定すると非常に熱伝導の大きなサンプルと小さなサンプルの2種類が存在し、前者はフォノンの散乱長がサンプルサイズ程度に達する非常にクリーンなサンプルで、後者は不純物等によりフォノン熱伝導度が抑制されていることをまず指摘しています。さらに、量子スピン液体からの励起による有限残留熱伝導度は前者のクリーンなサンプルでしか見えておらず、非再現性を訴えた米中2グループのサンプルは高濃度の不純物を含んでいたのであろうと結論づけています。比熱測定では区別できなかった不純物の原因としては、サンプルセッティング時のマイクロクラック等の可能性も指摘しており、「同じサンプル提供者からサンプルをもらっても、米中は取扱が雑なのでは?」といった疑問が生じる形です。今後、不純物濃度を能動的に変化させて量子スピン液体の性質を調べる研究が待たれますね。

15,Cyclotron resonance inside the Mott gap: a fingerprint of emergent neutral fermions
https://arxiv.org/abs/1905.08271
図15、スピン電荷分離の概念図と見えて欲しい光学伝導度のサイクロトロン共鳴ぽいなにか。
コメント:特定の周波数以下で光学伝導度がゼロになるバンド絶縁体と異なり、スピン電荷分離が生じたモット絶縁体ではべき乗則で伝導度が減少していく。この分離したスピン成分と電荷成分はスピノン、チャーゴンと呼ばれギャップレス液体状態を形成する。こうした電子状態は有機物質やハーバートスミス鉱石、TaS2やSmB6、YbB12で実現している可能性が指摘されている。しかし、これらの物質の光学スペクトルは、不純物の影響でスペクトルが鈍ったバンド絶縁体と区別が難しく、またギャップレス液体状態の証拠と言われる比熱の線形温度成分とゼロ熱伝導度が不純物により生じることが指摘されていることも含め、その特異な電子状態を確認する方法には困難が伴っていた。この論文では上記物質の磁場中光学伝導度を測定することで、絶縁体にもかかわらず、金属のサイクロトロン共鳴に似たピーク構造がスペクトルに現れることを予言し、それがギャップレス創発中性スピノンの決定的証拠になるであろうと指摘している。やっぱ光学伝導度やねん!

16,Detecting superconductivity out-of-equilibrium
https://arxiv.org/abs/1905.08638
図16,光学伝導度のディレイ時間・周波数依存性。光学伝導度ちゃん。。。
コメント:1911年の発見以来、超伝導は多くの研究者を魅了し、その基本的な性質は概ね理解されてきた(非従来型とかはまあ置いといて)。しかし、最近の銅酸化物やK3C60等における光誘起過渡的超伝導状態の実現の可能は、平衡状態におけるTcをさらに上昇させる手段として注目を集めている。その検証方法として、ポンププローブ分光による時間分解光学伝導度測定により、ポンプ光によるω→0における伝導度増加(超伝導なので)をプローブ光により捉える方法が一般的に採用されてきた。この論文では、一次元拡張ハバードモデルを時間依存変分原理に基づくDMRG法により計算し、ポンププローブ光それ自体が物質に電流を生じさせることで低エネルギー伝導度を変化させてしまうため、従来方法は非平衡超伝導状態の直接的な証拠と言えないと主張している。代わりに提案されているのが、時間分解ARPESによる一粒子/対形成スペクトル関数の測定である。やっぱ、ARPESやねん!

17,Orbitally resolved superconductivity in real space: FeSe
https://arxiv.org/abs/1905.10528
図17、FeSeのSTM像。軌道分解を感じる(感じない)
コメント:マルチバンドの非従来型超伝導体に関して、軌道ごとの超伝導ギャップへの寄与を見出すことはその起源を探る上で重要である。この論文では、STMの探針とサンプル間距離を変えることでLDOSの軌道成分分解が実現できることを提案している。さらに、T=30mK、サブユニットセルレベルの分解能を誇るSTMを使って、代表的なマルチバンド超伝導体であるFeSeで実際に測定可能であることを報告している。結晶欠陥や不純物によるQPIを利用しない新しい電子状態観察方法として他の超伝導体にも利用できるとのことなので、銅酸化物とか重い電子系でやってみてほしいですね。

18,Visualizing Poiseuille flow of hydrodynamic electrons
https://arxiv.org/abs/1905.11662
Imaging Viscous Flow of the Dirac Fluid in Graphene Using a Quantum Spin Magnetometer
https://arxiv.org/abs/1905.10791
図18、単一電子トランジスタ(左)と量子スピン磁力計(右)の模式図
コメント:グラフェン中の電子は強い相互作用のために、フェルミ液体というよりも粘性をもった流体のように振る舞うことが様々な実験から指摘されている。しかし、”Smoking Gun”とも言える粘性電子流体(粘性ディラック液体、ポアズイユ流)の決定的な観察が報告されていなかった。これら2つの論文では、それぞれ「走査型ナノチューブ単一電子トランジスタ」と「ダイヤモンドNVセンター量子スピン磁力計」を利用し、粘性電子流体の実空間観測を実現したことを報告している。電子粘性流体、光学伝導度とかほかの物性にはどんなふうに現れるんだろう?

19,Nonlocal optical responses of ultrapure metals in the hydrodynamic regime
https://arxiv.org/abs/1905.11698
図19、Drude領域と電子流体領域における入射光と反射光、高次高調波の模式図。パワポ感ある。
コメント:一般的な金属の光学応答は自由電子に対する、いわゆるDrudeモデルにより記述される。一方で電子間相互作用が非常に強く、電子の振る舞いが粘性流体のように振る舞う極限ではDrudeモデルは破綻する。この論文では、ナビエ・ストークス方程式に基づき、粘性電子流体の光学応答を調べることで、自由電子には存在しない粘性による”流体的伝搬モード”が出現し、特にそれが透過スペクトルに大きな影響を与えることを明らかにしている。やっぱ赤外分光なんだよなぁ彡(^)(^)

20,p-Wave Superconductivity in Iron-based Superconductors
https://arxiv.org/abs/1905.00183
図20、NdFeAs(O,F)薄膜の臨界電流密度、超流動密度のp波的温度依存性
コメント:p波超伝導の存在は50年前から指摘されてきたが、熱力学的にs波やd波超伝導と区別するのが難しく、決定的な証拠は見出されていなかった。この論文では、NdFeAs(O,F)薄膜の臨界電流密度を測定したところそのふるまいがp波超伝導が予測する温度依存性と一致することを報告している。さらに、コレまで報告されている鉄系超伝導体の超流動密度の温度依存性を再検証することで、すべての結果がp波超伝導的振る舞いと一致することを明らかにしている。すべてはpになる。。。

21,Time and momentum-resolved tunneling spectroscopy of pump-driven non-thermal excitations in Mott insulators
https://arxiv.org/abs/1905.08166
図21,時間・運動量分解STMのセットアップの模式図。どうやって並べるんだろう?
コメント:超高速分光、とくに時間分解ARPESによる非平衡電子状態の観測は、平衡状態に隠された状態を明らかにできる強力な手段である。しかし、その理論的計算は少数系でのみ実行可能で、グリーン関数による計算にも困難がつきまとう。この論文では、ARPESの代わりにSTMを使うことでこの困難を打開できることを提案している。論文では、平行につながった2つの一次元系を用意し、片方を励起し、もう片方で測定を実施することで非平衡電子状態のスペクトルが得られることを時間依存密度行列くりこみ法(tDMRG)により示している。こんなセットアップ実現できるのか( ;・`д・´)ゴクリ

22,Orbital-angular-momentum-resolved electron magnetic chiral dichroism
https://arxiv.org/abs/1905.08058
図22、新型EMCD測定方法のセットアップの模式図。カイラル二色性に対するARPESみたいな感じ?(無知)
コメント:電子磁気カイラル二色分光(EMCD)は、原子分解能STEMによる測定と組み合わせることで磁気情報を得られることから、物理や物質科学の分野で重要な測定手段となっている。この論文では、最近開発された角運動量分解分光器を用いて、STEMにより非弾性散乱された電子の運動量とエネルギーを同時に測定することで、コレまで必要とされていたサンプル準備を省略した形で超効率的にEMCDスペクトルを得られることを提案している。

23,Time-Resolved Observation of Spin-Charge Deconfinement in Fermionic Hubbard Chains
https://arxiv.org/abs/1905.13638
図23、二人に分かれていくスピノンちゃんとホロンちゃんの模式図。
コメント:強相関電子系は単一電子の振る舞いからは予測できない現象が生じる。その顕著な例が一次元系におけるスピン電荷分離と呼ばれる現象である。この現象は一次元ラッティンジャー液体的振る舞いを示す固体物資を用いて、ARPESやSTMにより観測されてきたが、冷却原子系における実空間ダイナミック観測は実現されていなかった。この論文では、スピン・密度分解量子ガス顕微分光を用いて、一次元Li原子ガスの動的ダイナミクスを調べることで、スピン電荷分離の時間発展を明らかにしている。量子ガス顕微分光はやっぱり強力ですね(。・ω・))フムフム

24,Colossal infrared and terahertz magneto-optical activity in a two-dimensional Dirac material
https://arxiv.org/abs/1905.07159
図24、円二色性と磁気光学九州の模式図。最高のサンプルで測定するの大事とのこと。
コメント:磁場中二次元電子系はランダウ準位間の遷移に伴う共鳴電磁波吸収が生じることが知られている。とくにグラフェン等のディラック分散をともなう二次元系では、巨大赤外磁気光学吸収が生じることが予言されてきたが、コレまで使用されたサンプルの質が💩…低かったため、実際にはずっと弱い吸収しか観測されてこなかった。この論文では、高品質グラフェンを準備し、赤外からテラヘルツ領域にかけて、50%の磁気光学吸収と記録的な100%磁気円二色性を観測することに成功している。やっぱ最高のサンプルで測定しないとダメですね(。・ω・))フムフム

25,AI Feynman: a Physics-Inspired Method for Symbolic Regression
https://arxiv.org/abs/1905.11481
図25,物理公式”発見”アルゴリズム。次元解析や物理量当てはめを駆使して公式を探る。
コメント:現実のデータから記号で記述された未知の物理公式を導出することは、一般にはNP困難な問題であり、物理とAIにとって核心的困難を伴うものである。とはいえ、現実的な現象は、対称性や分離可能性、構成性やその他の単純性を兼ね備えている。この論文では、再帰的多次元シンボリック回帰アルゴリズムを利用することで、ファインマン講義に記載された100の公式のうち90%を、AIにより”発見”することに成功している。現実を説明する公式があると実務的には良いけど、人間の仕事はその意味を考えることになるのかな(小学生並みの感想)。

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