この論文がすごい2022年上半期~ 電子もホールもドープできる銅酸化物超伝導!!!~
【イントロ】
最近は本当に暑いですね…
まだ7月が始まったばかりなのに40℃に達している地域もあります。
こう暑いとクーラー全開で部屋を冷やすしかありません。
そして、部屋を冷やすと何が起こるか?
そう、超伝導です。
この記事では、2022年上半期で一番おもしろかった論文、
”Continuously Doping Bi2Sr2CaCu2O8+δ into Electron-Doped Superconductor
by CaH2 Annealing Method”、Chin. Phys. Lett. 39 077403 (2022)
について紹介します。
※2022年1月-6月でブログで紹介した論文は1187本でした。
【背景】
低温で起きる現象として有名な超伝導ですが、液体窒素温度以上でその現象を生じる物質は「高温超伝導体」と呼ばれています。高温超伝導体の中でも有名なのが、1986年にベドノルツらによって発見された銅酸化物超伝導体です。この高温超伝導のメカニズムが解明できれば、様々な省エネ技術や量子技術への応用が期待されるため、世界中で研究が続いています。
様々に提案されている銅酸化物超伝導体のメカニズムのなかで有力と考えられているのは、モット絶縁体と呼ばれる電気が流れない状態にキャリアがドープされ電気が流れる金属になる過程で高温超伝導が生じるというものです。満員電車の車内から脱出する瞬間の開放感が高温超伝導ということですね(恍惚)
しかし、このメカニズムについてよくわかっていない部分が存在しました。理論的にはキャリアが電子の場合とホールの場合どちらでも超伝導が創発しますが、その現れ方が実験的には非対称になっているのです。この非対称性の起源が、
- 電子とホールの専有する軌道の違いによる電子相関の強さの違い
- 電子ドープとホールドープが実現できる物質の結晶構造の違い
電子ドープとホールドープの銅酸化物の相図の非対称性よく見ると反強磁性転移温度の始まりが電子・ホールドープ側で違ってる芸が細かい(参照元) |
この謎を解決するため、同じ物質で電子ドープもホールドープも実現できる物質の発見、もしくはドープ手法の開発が待望されていました。
【本論】
今回の論文では、代表的な銅酸化物超伝導体の1つ、Bi2Sr2CaCu2O8+δ (Bi2212)にCaH2還元を適用することで、従来のホールドープだけでなく、電子ドープまで実現することに成功したと報告されています。これまでは、オゾン還元法などでホールドープ量を極限まで減らすことが試みられていました。今回の新手法では、ニッケル酸化物超伝導の発見でも活用されたCaH2アニール法を応用することで、さらなるホールドープ量の減少、母体のモット絶縁体の実現、そしてついに!!!、電子ドープ側の超伝導相の発現までを実現しています。
CaH2による還元、気持ち良すぎんだろ!
還元アニールに依る電子ドープ側超伝導の実現!!! |
実現された電子ドープ側の超伝導にはまだ課題もあります。実現された電子ドープ側の転移は非常にシャープですが超伝導転移温度Tc=1K程度とホールドープ側のTcと比較すると非常に低い転移温度となっています。これは還元中にBi2212の酸素とCaH2の水素が反応して水が生じてしまい、サンプルを劣化させてしまうためと考えられています。今後CaH2の量を最適化したり、薄膜に対する研究を行うことで、真の相図が解明されることが期待されます。
同一物質で電子ドープとホールドープの両方が実現できたことで様々な未解決問題に新たな知見が得られることが期待できます。超伝導メカニズムだけでなく、それと付随する有名な擬ギャップ相や電荷秩序、ネマティック秩序、PDW秩序といった多くの謎現象がどのような電子・ホールドープ対称性/非対称性をもっているのか、明らかになるのが楽しみですね。
※ぶひんさんは電子・ホールドープ対称性の比較が大好物です。
また、今回の還元法は他の強相関電子系酸化物にも使えそうなので、マンガン酸化物やニッケル酸化物といった他の物質系にも適用することで今までにない物性をみることができるかもと、夢が広がりングです。
同じ物質で比較して解明されてほしい現象たち(他にもたくさん) |
【まとめ】
今回の記事では、2022年上半期で一番衝撃を受けた論文、銅酸化物超伝導体Bi2212に対する電子ドープの実現を紹介しました。
下半期もどんな論文が現れるか、今から楽しみです!!!
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