2019年6月の気になった物性系論文(完全版)

6月の気になった物性系論文です。
うまくいくことってなかなかないですね。
わかっていても、難しい。

19/6/16   Ver. 1 : 1-9
19/6/24   Ver. 2 : 3(追記)、10-14
19/6/30   Ver. 3 : 3(追記)、15-20



1,Dirac fermions and flat bands in the ideal kagome metal FeSn
https://arxiv.org/abs/1906.02167
Dirac Fermions in Antiferromagnetic FeSn Kagome Lattices with Combined Space Inversion and Time Reversal Symmetry
https://arxiv.org/abs/1906.05755

図1、FeSnの結晶構造と対称性の破れに伴い現れるディラック・ワイル粒子
コメント:3d遷移金属からなるカゴメ格子は新奇なトポロジカル物性を示すことから注目を集めている。しかし、現実の物質では複雑な結晶構造のために理想的な二次元カゴメ格子の実現とそれに伴うフラットバンド、ディラック分散の観測は困難であった。これらの論文では、米中のグループがそれぞれ、面内強磁性のFeカゴメ格子が反強磁性的に積層したFeSnに着目し、ARPES及びdHvAによりMasslessディラック分散や完全スピン分極表面2Dディラック電子の存在を観測することに成功している。強相関トポロジカル磁性の流れ来てるな(わからない。

2,Observation of a first order phase transition to metal hydrogen near 425 GPa
https://arxiv.org/abs/1906.05634
図2、圧力による水素分子の色の変化。何か起きてる!
コメント:ウィグナーとハンティントンの予言以来、高圧下の水素がどれくらいの圧力で金属化するかどうかは、電子とプロトンが高密度に相関した量子多体系最大の難問の一つである。この高圧物理の聖杯ともいえる高圧下水素の金属化について過去30年間様々な実験がなされてきたが、決定的な報告は存在なされていない。この論文では、最近開発されたトロイダルダイアモンドアンビルセルと呼ばれる高圧セルを用いて425GPaの高圧を実現し、光学透過率測定によりついに絶縁体金属転移を観測したことを報告している。高圧物理にまたひとつ金字塔が打ち立てられたのかな?とはいえ、同様の報告をなしていたドイツのグループもArxivの原稿をReplaceして存在感をアピールしているので、先取権争いも大変そうですね。

3,a. Observations of zero electrical resistance of Au-Ag thin films near room temperature
https://arxiv.org/abs/1906.00708
b. Current-voltage characteristics in Ag/Au nanostructures at resistive transitions
https://arxiv.org/abs/1906.02291
c. Superconductivity in Ag implanted Au thin film
https://arxiv.org/abs/1906.02091
d. Unconventional Optical Response in Engineered Au-Ag Nanostructures
https://arxiv.org/abs/1906.05342
e. Singlet Reservoir Theory of Ambient Tc Granular Superconductivity in Monovalent Metal Nanostructures
https://arxiv.org/abs/1906.02143
f. Comment on arXiv:1807.08572, "Coexistence of Diamagnetism and Vanishingly Small Electrical Resistance at Ambient Temperature and Pressure in Nanostructures"
https://arxiv.org/abs/1906.05742
g. Comment on arXiv:1807.08572: a plausible explanation of the giant diamagnetism found in Au-Ag nanostructures
https://arxiv.org/abs/1906.08128
h. Study of electrical conductivity of the coverings of bimetallic Au-Ag nanoparticles
https://arxiv.org/abs/1906.11590
図3、金銀ナノ粒子SCの他グループによる再現や、IV特性、光学特性、理論、反論等色々。
コメント:今月も、いろいろな金銀ナノ粒子超伝導に関する論文がでました。超伝導でないにしても、いままでみんなあまり考えてなかった振る舞いの重ね合わせかもですね。
a, 別グループによる金銀ナノ粒子超伝導の再現報告(!)
b, 金銀ナノ粒子超伝導のIV特性が極薄超伝導ワイヤのそれに似ているとの報告
c, Au薄膜にAgを埋め込むとTc~2Kの超伝導が出現する基礎的な発見(普通にすごい)
d, 金銀ナノ粒子薄膜がバルクとは異なる吸収係数を持つことの報告
e, 貴金属クラスタ、粒界におけるクーロン力が超伝導対形成の起源説の提案
f, パーコレーションが熱機械応力でくっついたり離れたりがゼロ抵抗の原因説
g, 上記に加えて、ナノ粒子の量子閉じ込めによる巨大ランジュバン反磁性の可能性
h, ナノ粒子膜への端子の付け方次第でゼロ抵抗が見えたり見えなかったりする説


4,Evidence for an axionic charge density wave in the Weyl semimetal (TaSe4)2I
https://arxiv.org/abs/1906.04510
図4、ワイル半金属のバンド分散とCDWが起きたときのギャップ形成の模式図
コメント:強相関トポロジカル相の一種であるアキシオン絶縁体は、ワイル半金属に電荷密度波(CDW)が生じることで創発し、CDWの位相スライドモードがアキシオンとして振る舞う。この論文では、これまで観測されることのなかったアキシオン的振る舞いをCDWワイル半金属(TaSe4)2Iの磁気コンダクタンス測定により捉えることに成功している。CDWワイル半金属、なかなか珍しい気がするがそんなことない?

5,The driving force behind the distortion of one-dimensional monatomic chains - Peierls theorem revisited
https://arxiv.org/abs/1906.03421
図5、カーボンとリチウムの一次元鎖の電子分布
コメント:一次元金属は絶対零度で安定ではなく、ダイマーを形成し絶縁体化する。この有名な”パイエルス定理”は広く信じられてきた。一方で、電子相関等を考慮することで、”パイエルス免疫”を持つとも言える、パイエルス転移を生じない一次元物質の存在が理論的には報告されていることからパイエルス定理の普遍性については自明ではない。この論文では、擬一次元金属鎖を想定し、DFT計算の範疇でボルン・オッペンハイマーエネルギー面を計算し、パイエルス転移が一次元金属に対して普遍的ではなく、バンド構造や外部ストレスに依存する現象であると主張している。熱い問題提起だ。。。

6,Quantum chaos associated with emergent event horizon in transition layer between type-I and type-II Weyl semimetals
https://arxiv.org/abs/1903.10886
図6,2種類のワイル半金属の界面に事象の地平面で宇宙がヤバイ
コメント:固体物理におけるブラックホールや重力、ホーキング蒸発のアナロジーは、BECや量子ホール効果、グラフェン、歪んだ結晶、Type-3ディラック半金属等で報告されているが、事象の地平面周辺に現れる量子カオス的振る舞いのアナロジー実現は困難である。最近、Volovikらは、不均一ワイル半金属を想定することで、量子カオスが実現できることを提案しているが、球対称計量を採用するなど現実的な系ではない。この論文では、Type-1ワイル半金属とType-2ワイル半金属を接合した境界に事象の地平面に類似した状態が生じることを指摘し、数10Kオーダーのフェルミオン衝撃波やホーキング蒸発として観測可能であろうことを提案している。宇宙物理と固体物理のアナロジー、おもしろいですよね。次はこの流れがくるかな?


7,Evidence for clean 2D superconductivity and field-induced finite-momentum pairing in a bulk vdW superlattice
https://arxiv.org/abs/1906.02065
図7、結晶構造やFFLO、電気抵抗、電子相図のまとめで勢いがある
コメント:二次元ヘキサゴナル遷移金属ダイカルコゲナイドH-MX2は強いスピン軌道相互作用と結晶構造に由来する多様な量子相が注目を集めている。しかし、劈開、剥離したMX2は劣化が早いという問題があり、真の基底状態を探る研究の妨げとなっていた。この論文では単層NbS2と厚いブロック層Ba6NbS8からなるBa3Nb5S13が自然ファンデルワールス超格子物質であり、Tc=0.8K以下で二次元FFLO超伝導を示すことを報告している。二次元物質をブロック層で挟んだ物質は二次元超伝導のいい狙い目かも知れませんね。もしくは、他に層間のコヒーレンスを断ち切る方法があるかな?

8,Robust, switchable, C-related, Superconducting Nanostructure at the Apex of a W tip
https://arxiv.org/abs/1906.02932
図8,グラフェン/Ir(111)表面像とSCチップのスペクトル。えっちだ。。。
コメント:STMの探針を超伝導体で作ることができれば、トンネル分光の分解能を上げたり、ジョセフソン接合分光ができたり、超伝導渦糸をみたり、スピン分極の絶対値を決めたりとたくさんの良いことが期待される。この論文では、Arスパッタで形成したタングステン探針をグラフェンで覆ったIr(111)やPb/Ir(111)に押し当てた状態で電圧をかけることで、探針先端を効率よく超伝導化することができると報告している。面白い現象の発見につながると良いですね。

9,Phase Crystals
https://arxiv.org/abs/1906.04793
図9、位相結晶の相図。超伝導転移温度より下に現れる現象って面白いですよね。
コメント:超伝導、超流動の特徴はU(1)対称性の破れに伴う位相χの系全体にわたる固定であり、それによりクーパー対波動関数の振幅がマクロに決まる。これがBCS理論の枠組みであるが、もし、この位相χが系全体にわたり周期性を持つとどうなるか?この論文では、この状態を”位相結晶”状態と名付け、振幅が空間変調するFFLOとは異なる、超伝導転移温度より低温で生じる新奇な量子状態であることを提案している。さらに、近年発見されたd波超伝導における特徴的な超伝導電流パターンがこの位相結晶化によるものであると指摘している。有名な現象でも一般化すると未知なものってたくさんあるんだなぁ。

10,Discovery of room temperature ferromagnetism in metal-free organic semiconductors
https://arxiv.org/abs/1906.07531

図10,有機半導体が強磁性を示す磁化測定結果。
コメント:1990代以来、化学者たちはs軌道とp軌道だけからなる有機強磁性体の探索に力を入れていたが、キュリー転移温度36Kを超えることはできていなかった。転移温度改善のために重原子ラジカルや絶縁体金属有機複合体の導入が図られたが、純粋な強磁性有機半導体は発見されていなかった。この論文では、金属フリーPerylene diimide (PDI)半導体が400Kを超えるキュリー温度を持つことを発見したことを報告している。炭素と水素と酸素、窒素だけから強磁性体が生まれるのはすごいですね。

11,Evidence of orbit-selective electronic kagome lattice with planar flat-band in correlated paramagnetic YCr6Ge6
https://arxiv.org/abs/1906.07140
図11,電子カゴメ格子とフラットバンドの分散。ペチャパイって感じ。
コメント:カゴメ格子における破壊的干渉が生み出すフラットバンドやディラックコーン的分散は興味深い創発現象につながることが期待されている。そのためには、電子カゴメ格子の実現する物質を見つけることが重要である。この論文では、ARPESと輸送測定、第一原理計算から、YCr6Ge6が電子カゴメ格子物質であり、特に、dz2軌道がフラットバンドを形成する一方で、dx2-y2軌道はディラックコーン分散を示すという、軌道選択的電子カゴメ格子が実現していることを報告している。どんな特殊な物性を示すか楽しみな物質ですね。

12,The new FAST module: a portable and transparent add-on module for time-resolved investigations with commercial scanning probe microscopes
https://arxiv.org/abs/1906.08606
図12、FASTモジュールの概要。Labviewで操作できるの楽しそう。
コメント:走査型顕微鏡(SPM)の弱点は測定に時間がかかるために、表面に出起きている現象(拡散や、膜成長、自己凝縮、化学反応)のダイナミクスを捉えることができないことである。この論文では、走査型トンネル顕微鏡(STM)と原子間力顕微鏡(AFM)に搭載可能な時間分解モジュールFASTを提案している。一般にSPMの機械的共鳴周波数がスキャン速度の律速となっていると信じられているが、著者たちはこの困難をクリアし、共鳴周波数以上の速度で走査型測定が実現可能であることを報告している。誰でも簡単に時間分解測定できてしまうモジュールすごい・3・。

13,Crossover from two-dimensional to three-dimensional superconducting states in bismuth-based cuprate superconductor
https://arxiv.org/abs/1906.08582
図13、高圧下での2次元、3次元転移温度の相図。120Kくらいで二次元SC実現してて凄い。
コメント:銅酸化物に残された長年の未解決問題の一つが、超伝導対形成と異常金属相がどのように関連しているか明らかにすることである。この論文では、Bi2212に対して高圧下での輸送測定と磁化測定を行うことで、2.8GPa以上の高圧では、3次元的な超伝導転移が生じる前に、BKT的二次元超伝導が生じることを明らかにしている。このことは異常金属相が本質的に二次元的性質を持っていることを示しているとのことだが、鉄系とかも細かく測れば同様の結果になるのかな?

14,Non-Volatile Superconductivity in an Insulating Copper Oxide Induced via Ionic Liquid Gating
https://arxiv.org/abs/1906.07360
図14、ゲート電圧操作による2つのSC相と正負電圧かけたときの電荷と酸素の移動の仕方。
コメント:銅酸化物超伝導転移温度を自由に操作できたら嬉しいけど、現実はトライアンドエラーで時間のムダが多い。そこでこの論文では、イオン液体ゲート法を用いて、電子系銅酸化物母物質であるPr2CuO4薄膜に正負の電圧を印加することで転移温度を操作することを目指し、興味深い現象を報告している。すなわち正電圧を印加した際には可逆的に超伝導転移温度が変化するのに対し、負電圧をかけた場合は一旦絶縁性が増し、そこから電圧を小さくしていくと超伝導転移が生じゼロ電圧でも超伝導状態のままとなる不揮発性超伝導相が生じるのである。さらに、その起源を走査型透過電子顕微鏡により調べ、電圧印加による酸素欠損の回復が原因であることまで突き止めている。酸素欠損の解消方法がアニールだけではないことを示せて興味深いですね。それに電子ドープ銅酸化物母物質にホールドープしてSCが出る珍しい例かも知れないとのことで、2つのSC相が同じ性質なの気になるとこですね。

15,Suppressed Auger scattering and tunable light emission of Landau-quantized massless Kane electrons
https://arxiv.org/abs/1906.10905
図15、シュレディンガー、ディラック、ケーン電子のランダウ準位とAuger散乱の振る舞い
コメント:磁場下におけるランダウ準位を利用したテラヘルツ-赤外可変ランダウ準位レーザーが提案されてから久しいが、通常の放射状バンド構造をもつ物質はもちろん、ゼロ質量ディラックバンド構造をもつグラフェンでも、非放射Auger散乱を抑制できずこれまで実現に至っていない。この論文ではHgCdTeのもつKane電子を利用することで、コレまでより効率的にAuger散乱を抑制し、大きなサイクロトロン放射を観測することに成功している。時代はKane電子。。。

16,Theory of a Planckian metal
https://arxiv.org/abs/1906.03265
図16、プランク金属的に期待されるスペクトル関数の振る舞い
コメント:一般的な金属の電気伝導はDrudeモデルで記述され、量子ボルツマン方程式に従えば、低温ではその散乱率は電子間相互作用の強さと温度の二乗に比例する。一方で銅酸化物を始めとする強相関電子系では電気抵抗が広い温度範囲で温度の一乗に比例する、すなわち散乱率がプランク定数とボルツマン定数と温度の積で記述される、所謂プランク金属的に振る舞うことが報告されている。この論文ではSYKモデルを一般化したNフレーバー・ランダム相互作用可解格子モデルを利用することで低温の散乱率が確かにプランク金属的に振る舞うことを示している。プランク金属的スペクトル関数が光電子分光で観測できるであろう、と予言している点もプラスポイントですね。

17,Fermi-surface reconstruction without symmetry breaking
https://arxiv.org/abs/1906.11250
図17、正方格子のグローバル相図。OSMはOrthogonal Metal。対称性が破れなくても量子相転移するらしい。
コメント:低ドープの擬ギャップ金属から高ドープのフェルミ液体に変化する銅酸化物や局在したf電子が電子状態に寄与する重い電子系では、ラッティンジャーの定理を破るような量子相転移を示すことが報告されている。この論文では、符号問題フリー量子モンテカルロ法を用いて、対称性の破れがないにもかかわらず量子相転移を示し、フェルミ面のサイズが変化する正方格子モデルを提案し、Z2トポロジカル秩序をもつ”Orthogonal Metal”状態が実現することを報告している。”Orthogonal Metal”の実証が今後盛り上がってくるかな?

18,Observation of the Kondo Screening Cloud of Micron Lengths
https://arxiv.org/abs/1906.08917
図19、近藤温度とFP干渉計の干渉距離依存性。特徴的な距離、すなわちKondo雲の大きさを存在を示す。
コメント:金属中の磁性不純物の周りには伝導電子が集まり、磁性不純物のスピンを伝導電子のスピンが覆い隠す、所謂”Kondo Cloud”がミクロレベルで生じることが近藤効果の説明に用いられるが、実際に観測されたことはなく長らく理論上の存在であった。この論文では、量子ドットとFabry-Perot干渉計を用いることで、ある長さスケール以上では近藤温度が一定値に落ち着く振る舞いを測定することで、Kondo Cloudがたしかにumオーダーの広がりを持っていることを直接観測することに成功している。こういう基礎的な問題、何が観測されててされていないか、ちゃんと勉強しないとダメだなぁと思いました(こなみ)。

19,Topological Anderson Insulator in electric circuits
https://arxiv.org/abs/1906.04064
A genuine realization of the spinless 4D topological insulator by electric circuits
https://arxiv.org/abs/1906.00883
図19、トポロジカル下村絶縁体と4次元トポロジカル絶縁体の電気回路。ビリビリッ!
コメント:トポロジカルアンダーソン絶縁体は2009年の理論的予言以来、冷却原子系とフォトニック結晶での実現が2018年に報告されたのみで、その詳細な性質は明らかになっていない。1つ目の論文では、キャパシターとランダムなインダクタンスを持つインダクターを結んだDisoreded Haldane modelを電気回路上で実現する方法を提案している。
 一方、トポロジカル物質の分類学により様々な物質のトポロジカルクラスが提案されている。例えば二次元、三次元トポロジカル絶縁体はAIIクラス、時間反転対称性の破れたチャーン絶縁体はAクラスといった分類だが、AIクラスの実現には4次元トポロジカル相の実現が必要である。最近の研究から、合成次元上で4次元トポロジカル相を観測できることが報告されているが、実空間上の4次元トポロジカル相とは区別すべきである。2つ目の論文では電気回路を用いることでこのAIクラスに属する4次元トポロジカル絶縁体相が実現できることを電気回路シミュレーションにより報告している。
 電気回路には無限の可能性がありますね。

20,Evidence for Weyl fermions in the elemental semiconductor tellurium
https://arxiv.org/abs/1906.06071
図20、ワイル半導体のバンド構造模式図と、ARPESの結果。心の目では?
コメント:非自明なワイル点がバンド構造に存在すると、カイラル異常にともなう負の磁気抵抗や、プレーナーHall効果、非従来量子振動といったエキゾキックな輸送現象が生じる。一般的に輸送現象はFermi準位近傍のバンド構造によって支配されるが、最近のワイル半金属に関する理論的研究から、ワイル点がフェルミ準位から離れていても輸送現象に影響を与えることが明らかになってきている。それでは半金属以外でもワイル異常輸送現象が生じるのではないだろうか?この論文では、半導体Teに注目し、ARPESと輸送測定、バンド構造計算により、Valence band頂点付近にワイル点をもつ半導体でもワイル異常輸送現象が生じることを報告している。ワイル半導体物理の幕開けである。ゲート電圧でバンド構造いじりながらいろんな測定できそうでおもしろそう。

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