2019年7月の気になった物性系論文(完全版)
怒られるのが嫌で仕事してる感ある・・・ない?
今月はルテネイトの超伝導対称性に関して重要な論文が2つも出ましたね
(ナイトシフト減少再現実験とヘリカルp波の可能性を示唆するジョセフソン接合論文)
個人的には走査型量子冷却原子顕微鏡論文が好きです。かっこよす。
19/7/14 Ver. 1 : 1-11
19/7/28 Ver. 2:12-25、5、6、11追記
19/7/30 Ver. 3:26-28
19/7/31 Ver. 4:29,30
1,First time- and momentum-resolved photoemission studies using time-of-flight momentum microscopy at a free-electron laser
https://arxiv.org/abs/1906.12155
図1、ドイツの科学力は世界一な光電子分光装置 |
2,Terahertz Faraday and Kerr rotation spectroscopy of Bi1−xSbx films in high magnetic fields up to 30 Tesla
https://arxiv.org/abs/1907.00137
図2、ファラデー・カー効果測定の模式図。 |
3,Observation of magnetic skyrmion crystals in a van der Waals ferromagnet Fe3GeTe2
https://arxiv.org/abs/1907.01425
Large planar topological Hall effect in a uniaxial van der Waals ferromagnet Fe3GeTe2
https://arxiv.org/abs/1907.02397
Direct observations of chiral spin textures in van der Waals magnet Fe3GeTe2 nanolayers
https://arxiv.org/abs/1907.08382
図3,Fe3GeTe2の結晶構造とスキルミオン相図。SkXが割と高温から発生している。 |
4,Detecting the "phonon wind" in superfluid 4He by a nanomechanical resonator
https://arxiv.org/abs/1907.01947
図4、・・・・風が、・・・・くる!・・・・ナノサイズ機械共振器は、心動かされた。 |
5,Time-Reversal Invariant Superconductivity of Sr2RuO4 Revealed by Josephson Effects
https://arxiv.org/abs/1907.03939
Superconducting order of Sr2RuO4 from a three-dimensional microscopic model
https://arxiv.org/abs/1907.09485
図5、ありえる超伝導状態の模式図。ヘリカルかカイラルか、それが問題だ。 |
追記:従来の実験結果を説明する理論では、二次元フェルミ面に基づき計算が行われてきた。2つ目の論文ではフェルミ面を3次元的に考え、フント結合Jとハバード相互作用Uの比率を変えながらギャップ構造を検討することで、奇パリティヘリカル/偶パリティd波超伝導が有力な状態であることを報告している。ただ、この理論では時間反転対称性の破れを説明できないことが問題として残るが、上記の実験結果を正しいとするならば、その問題も消え、ついに世界平和が訪れたまである(ない)。
6,Perpendicular Andreev reflection: Solid state signature of black hole horizon
https://arxiv.org/abs/1907.02609
Hairy BTZ black hole and its analogue model in graphene
https://arxiv.org/abs/1907.03509
Exploring Event Horizons and Hawking Radiation through Deformed Graphene Membranes
https://arxiv.org/abs/1907.08960
図6,超伝導/常伝導接合における完全アンドレーエフ反射の模式図。 |
7,Team of Rivals in a Kagome Material: Quantum Spin Liquid, Spin Order, and Valence Bond Crystal
https://arxiv.org/abs/1907.00454
図7、Barlowiteの取りうる結晶構造とあり得る磁気基底状態。カゴメを感じる、、、 |
8,Visualizing 1D zigzag Wigner crystallization at domain walls in the Mott insulator TaS2
https://arxiv.org/abs/1906.11983
図8、TaS2のCDWドメインウォールに生じる1Dウィグナー結晶のSTM像。右上のミッキーマ○ス感。 |
9,A new Majorana platform in an Fe-As bilayer superconductor
https://arxiv.org/abs/1907.00904
図9、MZMがボルテックス中にあることを示すSTMの結果。すごく、ゼロエネルギーにそそり立ってます。 |
この研究では、CaKFe4As4(Tc~35K)の高分解能ARPESと走査型トンネル分光により、超伝導ディラック表面状態とボルテックス中のMZMが存在することを報告している。鉄系、対称性すらよくわかっていなかったのに、いつのまにかトポロジカル超伝導一族の仲間入りですね。1144ただのキワモノ鉄系かと思ってたのに。。。(*^^*)
10,Dissipative-regime measurements as a tool for confirming and characterizing near-room-temperature superconductivity
https://arxiv.org/abs/1907.00425
図10、電流印加による熱励起フラックスフロー、自由フラックスフロー、常伝導への抵抗の変化 |
11,Gapless surface Dirac cone in antiferromagnetic topological insulator MnBi2Te4
https://arxiv.org/abs/1907.03722
Gapless Dirac surface states in the antiferromagnetic topological insulator MnBi2Te4
https://arxiv.org/abs/1907.09596
High-Chern-Number and High-Temperature Quantum Hall Effect without Landau Levels
https://arxiv.org/abs/1907.09947
Dirac surface states in intrinsic magnetic topological insulators EuSn2As2 and MnBi2Te4
https://arxiv.org/abs/1907.06491
図11、MnBi2Te4のギャップレス表面状態、60Kまで続く量子ホール状態、そしてEuSn2As2の表面状態 |
コメント:最近の研究から、反強磁性体トポロジカル絶縁体MnBi2Te4やその関連物質が注目を集めている。これは、劈開面に半整数量子ホール効果を示すギャップの開いたアキシオン状態が実現していることが期待されているからである。
前2つの論文では、そうした予想に反してギャップのないディラックコーン状態がバルクバンドギャップの間に存在することを高分解能ARPESにより発見したことを報告している。このディラックコーン状態は磁気転移の影響や劣化の影響も受けないロバストなものであり、表面での磁気再配列を示唆している。
追記:3つ目の論文では、原子層MnBi2Te4の磁気輸送測定から、7-9層ナノデバイスではランダウ準位を伴わないチャーン数C=2の高次チャーン数量子ホール状態が実現し、7-7層ナノデバイスではC=1の量子ホール状態ではこれまで観測されたことのない高温度域60K付近まで量子ホール状態が実現していることを報告している。
さらに4つ目の論文では、MnBi2Te4のギャップレス表面ディラック状態を観測するとともに、同様の表面状態がEuSn2As2に存在することを時間分解ARPESにより報告している。つまり、EuSn2As2は新たな反強磁性トポロジカル絶縁体であることが明らかになったのだ。(となると、EuSn2As2でも量子ホール状態が期待されるのかな?)
トポロジカル結晶絶縁体状態や時間反転保護トポロジカル絶縁体相など、いろんな相が実現しうる物質やりがいがありますね(*^^*)
12,Unconventional spin glass state in elemental neodymium in the absence of extrinsic disorder
https://arxiv.org/abs/1907.02295
図12、強磁性体とスピンQグラス状態の運動量・実空間分布の違い |
13,Automatic design of Hamiltonians
https://arxiv.org/abs/1907.05898
図13、Moore-Read Pfaffian状態を機械学習させたときの収束 |
14,McMillan Formula: long-standing myth and a novel implementation to reveal high Tc in beryllium-based alloys
https://arxiv.org/abs/1907.07597
図14、Tl-PbとBe-Pb合金の超伝導転移温度の予測と実測。新しい超伝導くるか! |
かくして神話の時代は終りを迎える…
15,Exchange biased Anomalous Hall Effect driven by frustration in a magnetic Kagome lattice
https://arxiv.org/abs/1907.06651
Tunable Magnetic Transition to a Singlet Ground State in a 2D Van der Waals Layered Trimerized Kagomé Magnet
https://arxiv.org/abs/1907.10108
Strange metal behavior in a pure ferromagnetic Kondo lattice
https://arxiv.org/abs/1907.10470
図15、Co3Sn2の異常ホール効果、Nb3X8の結晶構造、CeRh6Ge4の圧力下相図 |
一本目:強磁性ワイル半金属Co3Sn2S2が、強磁性とスピングラス相の共存のために、非常に強い交換バイアス異常ホール効果を示すことを発見した論文。
二本目:Nb3X8(X=Cl,Br)が二次元ファンデルワールス三量体カゴメ磁石であることを発見した論文。単層化したら面白い物性示すかな?
三本目:重い電子系強磁性体CeRh6Ge4に圧力をかけると強磁性量子臨界点的振る舞いを示すことを電気抵抗、比熱から観測した論文。強磁性量子臨界物質は珍しいので元素置換とかでも同様の振る舞いをするのか、私気になります!
16,Strain-driven nematicity of the odd-parity superconductivity in SrxBi2Se3
https://arxiv.org/abs/1907.06694
図16、歪方向の異なるサンプルのHc2の異方性。みんな違ってみんないい。 |
電子系、歪に敏感すぎてえっちだな。
17,Joule meets van der Waals: Mechanical dissipation via image potential states on a topological insulator surface
https://arxiv.org/abs/1907.08601
図17、振り子AFM+STMのイメージ図。結晶表面より上にある仮想表面状態の存在が示唆される。 |
18,Observation and manipulation of maximal Chern numbers in the chiral topological semimetal PdGa
https://arxiv.org/abs/1907.08723
図18、カイラリティの異なる結晶構造とその時のバンド構造の違い |
19,Evidence for the weakly coupled electron mechanism in an Anderson-Blount polar metal
https://arxiv.org/abs/1907.10220
Floquet Winding Metals
https://arxiv.org/abs/1907.09914
図19、(左)電子と相互作用するフォノンとしないフォノン、(右)Winding metalの相図 |
1本目:50年前、AndersonとBlountは、遍歴電子と横波光学フォノンが分離している場合、金属においてクーロン相互作用のスクリーニングにもかかわらず強誘電体的構造相転移が起きうることを予言した。この論文では、LiOsO3の超高速分光により、電子系とフォノン系の分離が生じていることを明らかにし、予言が成就したことを報告している。
2本目:バルクバンドの巻き上げとカイラルエッジカレントが共存する新しい金属状態Floquet Winding Metal状態の存在を理論的に提案する研究。
20,Interplay of Dirac nodes and Volkov-Pankratov surface states in compressively strained HgTe
https://arxiv.org/abs/1907.11148
図20、相互にバンド反転した半導体界面に現れるVolkov-Pankratov状態の模式図、HgTeに加わる歪とバンド構造の変化、圧縮ひずみの加わったときのバンド構造。 |
トポロジカル絶縁体も半金属もHgTeをやっておけばよいなら楽ですね(こなみ。
21,Automatic Microscopic Image Analysis by Moving Window Local Fourier Transform and Machine Learning
https://arxiv.org/abs/1907.10929
図21,パワポ感を感じる測定アルゴリズムの概念図。 |
22,High-Harmonic Generation in a Correlated Electron System
https://arxiv.org/abs/1907.05687
High-harmonic generation in solids
https://arxiv.org/abs/1907.11134
図22、高次高調波発生を感じる模式図。キンク-アンチキンク相互作用が重要らしい・3・ |
1本目:周期的ポテンシャル中にいる遍歴電子の一体バンド構造に基づき研究されてきた高次高調波のモデルを超えて、低次元強相関電子系の多体相互作用に基づく高次高調波発生を提案する論文。
2本目:高強度少数サイクル遠赤外レーザーパルスによる高次高調波発生をMgOをモデルに解析的・数値的に実行した論文。
23,Imaging work and dissipation in the quantum Hall state in graphene
https://arxiv.org/abs/1907.08973
図23、グラフェン端に発生する熱と仕事を独立に観測した結果と模式図。 |
24,Flat band magnetism and helical magnetic order in Ni-doped SrCo2As2
https://arxiv.org/abs/1907.09342
Non-Fermi-liquid behaviors associated with a magnetic quantum-critical point in Sr(Co{1-x}Ni{x})2As2 single crystals
https://arxiv.org/abs/1907.08238
図24、これはえっちなフラットバンド |
1つ目の論文ではSr(Co,Ni)2As2の中性子散乱とARPESにより、Ni10%置換すると系がdx2ーdy2軌道フラットバンドに由来する面内強磁性、層間ヘリカル磁性を示すことを報告している。
さらに、2つ目の論文ではNi30%程度置換すると常磁性と反強磁性相のあいだ量子臨界点が存在することを比熱と電気抵抗から報告している。(内容より、異常に詳しく物理量の表式が書かれているのがすごい。。。)
今、フラットバンドが熱い(๑•̀ㅂ•́)و✧
25,Observation of Laughlin states made of light
https://arxiv.org/abs/1907.05872
図25、キャビティ中に閉じ込めたフォトンがフラットトポロジカルバンドを形成し、電子間相互作用を模擬したポラリトン間相互作用を通じて、QHEに似た光のLaughlin状態を生み出す模式図 |
トポロジカルフォトンをつかった強相関量子多体現象研究の幕開けである。
26,Reduction of the 17O Knight shift in the Superconducting State and the Heat-up Effect by NMR Pulses on Sr2RuO4
https://arxiv.org/abs/1907.12236
図26、ナイトシフト、落ちるってよ |
27,A Synthetic Skyrmion Platform with Robust Tunability
https://arxiv.org/abs/1907.12516
図27、通常の多重層と合成AFM多重層の磁気構造の違いを示す模式図 |
28,Locating the pseudogap closing point in cuprate superconductors: absence of entrant or reentrant behavior
https://arxiv.org/abs/1907.12018
図28、擬ギャップのホール濃度依存性のありうる2つの説。論文ではどちらでもなく、p=0.19で唐突に消えるようなモデルが提案されているっぽい? |
29,Imaging Nematic Transitions in Iron-Pnictide Superconductors with a Quantum Gas
https://arxiv.org/abs/1907.12601
図29、走査型量子冷却原子顕微鏡の模式図。めっちゃかっこいい❤ |
この論文では走査型量子冷却原子顕微鏡(SQCRAMscope)と呼ばれるBECを利用したumサイズの分解能をもつ局所磁気・DC抵抗測定方法により、Ba(Fe,Co)2As2の磁気特性が異方性を示すより高温で異方的DC抵抗率が生じることを明らかにしている。これはSongらによる”Extraordinary nematic surface phase transition”と呼ばれる、表面でのC4対称性の破れがバルクより高温で生じるという理論的予想と一致する。
バルク敏感と言われる磁気トルクやNMRでどうして高温でのネマティック転移が観測されるのか?という疑問に対する答えを示していないように見えますが(実はサンプル固定の際に歪みがかかってる?)、SQCRAMscopeめっちゃかっこいいですね。好きぽよ。走査型SQUIDでネマティック転移を見ると面白いのではと昔思っていましたが、それを上回るかっこよい測定手段がでるとは( ;・`д・´)ゴクリ
銅酸化物とかトポロジカル物質とか他の物質での観測も期待です。
30,Observation of non-Hermitian topology and its bulk-edge correspondence
https://arxiv.org/abs/1907.11619
Observation of non-Hermitian bulk-boundary correspondence in quantum dynamics
https://arxiv.org/abs/1907.12566
Observation of bulk boundary correspondence breakdown in topolectrical circuits
https://arxiv.org/abs/1907.11562
図30、非エルミートトポロジーを感じる(感じない |
前2つの論文では、それぞれ非相反相互作用を持つ力学的メタマテリアルと光の離散時間非ユニタリ量子ウォークを用いた理論と実験により、非エルミートバルクエッジ対応原理が存在することを明らかにしている。
一方で3つ目の論文では、非相反トポロジカル電気回路を用いた非局所電圧測定により、バルクエッジ対応の破れが報告されている(ちょっとよくわからない)。
非エルミート系のトポロジカルな性質も着々と研究が進んでますね。
トポロジカル時代のあとは何が来るんだろうか?
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