2019年7月の気になった物性系論文(完全版)

7月の気になった物性系論文です。
怒られるのが嫌で仕事してる感ある・・・ない?

今月はルテネイトの超伝導対称性に関して重要な論文が2つも出ましたね
(ナイトシフト減少再現実験とヘリカルp波の可能性を示唆するジョセフソン接合論文)
個人的には走査型量子冷却原子顕微鏡論文が好きです。かっこよす。

19/7/14   Ver. 1 : 1-11
19/7/28 Ver. 2:12-25、5、6、11追記
19/7/30 Ver. 3:26-28
19/7/31 Ver. 4:29,30




1,First time- and momentum-resolved photoemission studies using time-of-flight momentum microscopy at a free-electron laser
https://arxiv.org/abs/1906.12155
図1、ドイツの科学力は世界一な光電子分光装置
コメント:ドイツ・HamburgのDESYに建設された自由電子レーザーを利用した、バルスレート5000パルス/s、60fsのパルス保持、40meVの分解能と、25~830eVのフォトンエネルギー、50umの空間分解能を誇る飛行時間運動量顕微法をもちいた時間運動量分解光電子分光装置を紹介する論文。例としてWSe2の超高速励起状態の観測を行っている。スケール感がでかい(*^^*)

2,Terahertz Faraday and Kerr rotation spectroscopy of Bi1−xSbx films in high magnetic fields up to 30 Tesla
https://arxiv.org/abs/1907.00137
図2、ファラデー・カー効果測定の模式図。
コメント:(Bi,Sb)はSb量により半金属からトポロジカル絶縁体に変化するトポロジカル相転移を示すことが知られている。この論文では、30Tまで磁場を印加できるファラデー・カー分光法を開発し、半金属相とトポ絶相で異なる振る舞いをすることを報告している。半金属相はバルクのホールのサイクロトロン共鳴、トポ絶相は表面の電子・ホールポケットからの寄与が大きいとのこと。こういう合金って一様に混ざり合ってない場合どういう応答になるんだろう(*^^*)?

3,Observation of magnetic skyrmion crystals in a van der Waals ferromagnet Fe3GeTe2
https://arxiv.org/abs/1907.01425
Large planar topological Hall effect in a uniaxial van der Waals ferromagnet Fe3GeTe2
https://arxiv.org/abs/1907.02397
Direct observations of chiral spin textures in van der Waals magnet Fe3GeTe2 nanolayers
https://arxiv.org/abs/1907.08382
図3,Fe3GeTe2の結晶構造とスキルミオン相図。SkXが割と高温から発生している。
コメント:Cr2Ge2Te6, CrI3やFe3GeTe2といった二次元ファンデルワールス物質における強磁性の発見はその発現メカニズムと応用の観点から注目を集めている。1つ目の論文では、Fe3GeTe2に着目し、高分解能走査型透過X線顕微鏡とローレンツ透過電子顕微鏡により、電流や傾斜磁場によりスキルミオン結晶が創発することを発見している。さらに、直後に報告された2つ目の論文では、同様の温度域で、巨大なプレーナートポロジカルホール効果が生じることを別グループが独立に発見したことを報告している。さらに、3つ目の論文では1つ目と同様に、磁気力顕微鏡、ローレンツ顕微鏡を用いて、ネール型スキルミオンが存在することを報告している。強磁性トポロジカルファンデルワールス物質の物理が今熱い(*^^*)

4,Detecting the "phonon wind" in superfluid 4He by a nanomechanical resonator
https://arxiv.org/abs/1907.01947
図4、・・・・風が、・・・・くる!・・・・ナノサイズ機械共振器は、心動かされた。
コメント:ナノスケールの機械共振器は微小な力を検出する高感度な測定器である。この論文では、He4に浸したヒーターを熱源としたフォノン流、すなわち”フォノンの風”を共振器で検出できることを報告している(*^^*)

5,Time-Reversal Invariant Superconductivity of Sr2RuO4 Revealed by Josephson Effects
https://arxiv.org/abs/1907.03939
Superconducting order of Sr2RuO4 from a three-dimensional microscopic model
https://arxiv.org/abs/1907.09485
図5、ありえる超伝導状態の模式図。ヘリカルかカイラルか、それが問題だ。
コメント:Sr2RuO4はこれまで、スピン3重項かつ時間反転対称性の破れたはじめての非従来型超伝導体であると考えられてきた。その対称性は未解決問題であり、擬二次元フェルミ面を持つスピン3重項SCで考えられる対称性は6つ提案されていた。時間反転対称性の破れたdベクトルがc軸方向を向いた2つのカイラルSCと時間反転対称性不変でdベクトルが面内を向いた4つのヘリカルSC状態である。これまで、μSRやカー効果測定から時間反転対称性の破れが報告され、カイラルp波SCが最有力とされてきたが、理論的に予言されていたカイラルエッジ流が走査型SQUID/Hall測定で検出することができておらず、時間反転対称性に関する決定的な研究が望まれていた。この論文ではSr2RuO4/Nbのジョセフソン接合を作製し、Current-Field inversion Testと呼ばれる新しい実験手法を導入することで、Sr2RuO4が時間反転不変ヘリカルスピン3重項超伝導で有ることを確認したと報告している。μSRとの不一致については、ヘリカルSCが磁場に非常に敏感なため、ミューオンの周囲でのみカイラル状態となっていたのでは?という解釈が提案されている。カー効果の解釈は?とか、NbとSr2RuO4の接合状態はなにか合金作ってるの?とかもありますが、追試がまたれる興味深い結果ですね(*^^*)
追記:従来の実験結果を説明する理論では、二次元フェルミ面に基づき計算が行われてきた。2つ目の論文ではフェルミ面を3次元的に考え、フント結合Jとハバード相互作用Uの比率を変えながらギャップ構造を検討することで、奇パリティヘリカル/偶パリティd波超伝導が有力な状態であることを報告している。ただ、この理論では時間反転対称性の破れを説明できないことが問題として残るが、上記の実験結果を正しいとするならば、その問題も消え、ついに世界平和が訪れたまである(ない)。

6,Perpendicular Andreev reflection: Solid state signature of black hole horizon
https://arxiv.org/abs/1907.02609
Hairy BTZ black hole and its analogue model in graphene
https://arxiv.org/abs/1907.03509
Exploring Event Horizons and Hawking Radiation through Deformed Graphene Membranes
https://arxiv.org/abs/1907.08960
図6,超伝導/常伝導接合における完全アンドレーエフ反射の模式図。
コメント:グラフェン中でブラックホールの事象の地平面に対応したアンドレーエフ反射や、毛ありブラックホールからのホーキング放射に対応する現象が生じることを予言する論文。アキシオン状態やディラック電子、ワイル電子、マヨラナ粒子といった素粒子・宇宙論的現象が固体物質中で再現されるながれ来てますね(*^^*)

7,Team of Rivals in a Kagome Material: Quantum Spin Liquid, Spin Order, and Valence Bond Crystal
https://arxiv.org/abs/1907.00454
図7、Barlowiteの取りうる結晶構造とあり得る磁気基底状態。カゴメを感じる、、、
コメント:量子磁石の結合間相互作用が周期的に変調すると様々な創発現象が生じる。この論文では新しく合成したBarlowite ((Cu、Zn)4(OH)6FBr)が理論的にはピンホイール型バレンスボンド結晶状態を取ることを予言し、実験からZnを置換しない場合はピンホイール型磁気秩序を、Znを置換して理想的カゴメ格子になると量子スピン液体的に振る舞うことを磁化、比熱、中性子散乱から明らかにしている。いろんな量子スピン液体候補が報告されておもしろいなぁ(*^^*)

8,Visualizing 1D zigzag Wigner crystallization at domain walls in the Mott insulator TaS2
https://arxiv.org/abs/1906.11983
図8、TaS2のCDWドメインウォールに生じる1Dウィグナー結晶のSTM像。右上のミッキーマ○ス感。
コメント:最近の理論的研究から、電子間相関により電子が結晶化したウィグナー結晶が、1次元モット絶縁体やフラットバンド系において高温で創発することが予言されていたが、実現に該当する物質が見つかっていなかった。この論文では、走査型トンネル顕微鏡により、TaS2のCDWドメインウォールに一次元ウィグナー結晶が実現していることを報告している。視覚化できるSTMはやっぱわかりやすいですね(*^^*)

9,A new Majorana platform in an Fe-As bilayer superconductor
https://arxiv.org/abs/1907.00904
図9、MZMがボルテックス中にあることを示すSTMの結果。すごく、ゼロエネルギーにそそり立ってます。
コメント:最近の研究から鉄カルコゲナイド超伝導体Fe(Te,Se)(Tc~15K)がマヨラナゼロモード(MZM)を超伝導ボルテックス中に発現することが明らかになってきている。一方、鉄ニクタイド超伝導体ではLiFeAsが似たようなトポロジカルバンド構造を示すことが報告されているが、ボルテックス中にMZMは観測されていない。
 この研究では、CaKFe4As4(Tc~35K)の高分解能ARPESと走査型トンネル分光により、超伝導ディラック表面状態とボルテックス中のMZMが存在することを報告している。鉄系、対称性すらよくわかっていなかったのに、いつのまにかトポロジカル超伝導一族の仲間入りですね。1144ただのキワモノ鉄系かと思ってたのに。。。(*^^*)

10,Dissipative-regime measurements as a tool for confirming and characterizing near-room-temperature superconductivity
https://arxiv.org/abs/1907.00425
図10、電流印加による熱励起フラックスフロー、自由フラックスフロー、常伝導への抵抗の変化
コメント:新しい超伝導体の探索にはゼロ電気抵抗や磁化測定によるマイスナー効果の観測が用いられる。しかし、新物質は得てして体積分率が小さく、マイスナー効果やゼロ抵抗の観測が困難である。この論文では、サウスカロライナ大のグループが開発してきた、そうした新規超伝導体に対しても適用可能な超短時間スケール/散逸輸送測定法について解説を行っている。交流/直流/パルス電気伝導測定によりバリスティック超流動加速や電流印加対破壊、フラックスフロー駆動など超伝導の証拠となる様々な現象が観測できることを報告している。室温超伝導、見つかるといいな(*^^*)

11,Gapless surface Dirac cone in antiferromagnetic topological insulator MnBi2Te4
https://arxiv.org/abs/1907.03722
Gapless Dirac surface states in the antiferromagnetic topological insulator MnBi2Te4
https://arxiv.org/abs/1907.09596
High-Chern-Number and High-Temperature Quantum Hall Effect without Landau Levels
https://arxiv.org/abs/1907.09947
Dirac surface states in intrinsic magnetic topological insulators EuSn2As2 and MnBi2Te4
https://arxiv.org/abs/1907.06491
図11、MnBi2Te4のギャップレス表面状態、60Kまで続く量子ホール状態、そしてEuSn2As2の表面状態

コメント:最近の研究から、反強磁性体トポロジカル絶縁体MnBi2Te4やその関連物質が注目を集めている。これは、劈開面に半整数量子ホール効果を示すギャップの開いたアキシオン状態が実現していることが期待されているからである。
前2つの論文では、そうした予想に反してギャップのないディラックコーン状態がバルクバンドギャップの間に存在することを高分解能ARPESにより発見したことを報告している。このディラックコーン状態は磁気転移の影響や劣化の影響も受けないロバストなものであり、表面での磁気再配列を示唆している。
追記:3つ目の論文では、原子層MnBi2Te4の磁気輸送測定から、7-9層ナノデバイスではランダウ準位を伴わないチャーン数C=2の高次チャーン数量子ホール状態が実現し、7-7層ナノデバイスではC=1の量子ホール状態ではこれまで観測されたことのない高温度域60K付近まで量子ホール状態が実現していることを報告している。
 さらに4つ目の論文では、MnBi2Te4のギャップレス表面ディラック状態を観測するとともに、同様の表面状態がEuSn2As2に存在することを時間分解ARPESにより報告している。つまり、EuSn2As2は新たな反強磁性トポロジカル絶縁体であることが明らかになったのだ。(となると、EuSn2As2でも量子ホール状態が期待されるのかな?)
 トポロジカル結晶絶縁体状態や時間反転保護トポロジカル絶縁体相など、いろんな相が実現しうる物質やりがいがありますね(*^^*)

12,Unconventional spin glass state in elemental neodymium in the absence of extrinsic disorder
https://arxiv.org/abs/1907.02295
図12、強磁性体とスピンQグラス状態の運動量・実空間分布の違い
コメント:スピングラスはフラストレーションや乱れに起因し、長距離秩序の非存在やエイジング現象の発散など量子スピン液体とは異なる振る舞いをする。この論文では、金属ネオジウムがノンコリニア秩序とエイジング現象を示す新しいタイプのスピングラス、”Spin-Q glass”であることをスピン分極走査トンネル顕微鏡で発見したことを報告している。スピングラスの奥は深い。

13,Automatic design of Hamiltonians
https://arxiv.org/abs/1907.05898
図13、Moore-Read Pfaffian状態を機械学習させたときの収束
コメント:変分原理とのアナロジーに基づき、適切なハミルトニアンの性質の重み付き和を損失関数とすることで、適切なハミルトニアンを機械学習により自動的に求める方法の提案。例として分数量子ホール効果を記述するMoore-Read PfaffianとRead-Rezayi stateを導出することに成功している。与えられたエキゾチックな電子状態を記述するより簡単で現実的なモデルを生み出すのに使えるかもとのこと。みんな機械学習やっとる、やってないのはオレだけだ。。。

14,McMillan Formula: long-standing myth and a novel implementation to reveal high Tc in beryllium-based alloys
https://arxiv.org/abs/1907.07597
図14、Tl-PbとBe-Pb合金の超伝導転移温度の予測と実測。新しい超伝導くるか!
コメント:「BCS理論に基づく超伝導転移温度の上限はおよそ30Kである」。。。50年前に当時ベル研所属であったマクミランが予言したとされるフォノン由来のTcの限界はその後も長きに渡って神話として語り継がれてきた。この論文では、そもそもマクミランはそのような主張はしておらず、当時考えられた仮定の範囲内で求めた値を述べただけであることを明らかにしている。さらに著者たちはマクミランの近似をさらに改善することで、(Pb,Tl)合金の転移温度を精度良く再現できることをしめし、さらに(Pb,Be)合金がTc=30K級の超伝導体であることを予言している。実験マダァ-?(・∀・ )っ/凵⌒☆チン チン
かくして神話の時代は終りを迎える…

15,Exchange biased Anomalous Hall Effect driven by frustration in a magnetic Kagome lattice
https://arxiv.org/abs/1907.06651
Tunable Magnetic Transition to a Singlet Ground State in a 2D Van der Waals Layered Trimerized Kagomé Magnet
https://arxiv.org/abs/1907.10108
Strange metal behavior in a pure ferromagnetic Kondo lattice
https://arxiv.org/abs/1907.10470
図15、Co3Sn2の異常ホール効果、Nb3X8の結晶構造、CeRh6Ge4の圧力下相図
コメント:磁性物質祭り
一本目:強磁性ワイル半金属Co3Sn2S2が、強磁性とスピングラス相の共存のために、非常に強い交換バイアス異常ホール効果を示すことを発見した論文。
二本目:Nb3X8(X=Cl,Br)が二次元ファンデルワールス三量体カゴメ磁石であることを発見した論文。単層化したら面白い物性示すかな?
三本目:重い電子系強磁性体CeRh6Ge4に圧力をかけると強磁性量子臨界点的振る舞いを示すことを電気抵抗、比熱から観測した論文。強磁性量子臨界物質は珍しいので元素置換とかでも同様の振る舞いをするのか、私気になります!

16,Strain-driven nematicity of the odd-parity superconductivity in SrxBi2Se3
https://arxiv.org/abs/1907.06694
図16、歪方向の異なるサンプルのHc2の異方性。みんな違ってみんないい。
コメント:トポロジカル絶縁体の一種、Bi2Se3はSrやCu、Nbを置換することで超伝導が発現しその超伝導状態は異方性をともなうネマティック超伝導であることが近年話題となっている。この論文では、SrxBi2Se3結晶は出来たときから特定の面内軸方向に歪みが存在しており、その歪と電子系の相互作用が超伝導状態のネマティシティを生み出していることを、X線回折と磁気輸送測定により報告している。
電子系、歪に敏感すぎてえっちだな。

17,Joule meets van der Waals: Mechanical dissipation via image potential states on a topological insulator surface
https://arxiv.org/abs/1907.08601
図17、振り子AFM+STMのイメージ図。結晶表面より上にある仮想表面状態の存在が示唆される。
コメント:トポロジカル絶縁体は広く注目を集めているが、トポロジカル保護された表面の散逸機構についてはよくわかっていない。この論文では、一電子トンネルに敏感な振り子AFM+STMを用いて、トポロジカル絶縁体Bi2Te3の表面状態の散逸が、電子後方散乱によるジュール散逸と単一電子トンネルにともなうファンデルワールス散逸によって支配されいることを報告している。ヤバイ実験テクだ( ;・`д・´)ゴクリ

18,Observation and manipulation of maximal Chern numbers in the chiral topological semimetal PdGa
https://arxiv.org/abs/1907.08723

図18、カイラリティの異なる結晶構造とその時のバンド構造の違い
コメント:トポロジカル半金属においてトポロジカル不変量の一つであるチャーン数の大きさと符号は、表面Fermiアークの数、磁場中でのカイラルランダウ準位の数、トポロジカル光電流の大きさと向きなど様々な物理量と関連している。この論文では、トポロジカル半金属PdGaがコレまで観測された中で最大のチャーン数4をもつことを報告している。さらにカイラリティの異なる結晶を比較することで、チャーン数の符号と紐付いたフェルミ速度が反転することを明らかにしている。チャーン!

19,Evidence for the weakly coupled electron mechanism in an Anderson-Blount polar metal
https://arxiv.org/abs/1907.10220
Floquet Winding Metals
https://arxiv.org/abs/1907.09914
図19、(左)電子と相互作用するフォノンとしないフォノン、(右)Winding metalの相図
コメント:新種の金属祭り
1本目:50年前、AndersonとBlountは、遍歴電子と横波光学フォノンが分離している場合、金属においてクーロン相互作用のスクリーニングにもかかわらず強誘電体的構造相転移が起きうることを予言した。この論文では、LiOsO3の超高速分光により、電子系とフォノン系の分離が生じていることを明らかにし、予言が成就したことを報告している。
2本目:バルクバンドの巻き上げとカイラルエッジカレントが共存する新しい金属状態Floquet Winding Metal状態の存在を理論的に提案する研究。

20,Interplay of Dirac nodes and Volkov-Pankratov surface states in compressively strained HgTe
https://arxiv.org/abs/1907.11148
図20、相互にバンド反転した半導体界面に現れるVolkov-Pankratov状態の模式図、HgTeに加わる歪とバンド構造の変化、圧縮ひずみの加わったときのバンド構造。
コメント:トポロジカル絶縁体の発見以来、ワイル・ディラック半金属の物性は固体物理の中心課題となっている。一方で、理論的研究の進捗に対し、実験的な物質合成と解析は困難を伴っている。この論文では、圧縮ひずみを与えた高品質HgTeの磁気輸送測定を精密に行うことで、ワイル・ディラックバルク状態による伝導と表面状態による伝導の寄与を詳細に明らかにすることに成功している。
 トポロジカル絶縁体も半金属もHgTeをやっておけばよいなら楽ですね(こなみ。

21,Automatic Microscopic Image Analysis by Moving Window Local Fourier Transform and Machine Learning
https://arxiv.org/abs/1907.10929
図21,パワポ感を感じる測定アルゴリズムの概念図。
コメント:顕微分光はデータの取得と解析に根気が必要で大変。そこでこの論文では、測定窓のサイズを決めるだけで、顕微測定+局所フーリエ変換+機械学習により必要な測定データが取得できる方法を提案している。さらに彼らのアルゴリズムに基づき、HAADF-STEM、STM、蛍光顕微測定が自動で行えることを確認している。そして読者のために、Pythonノートブックまでついて、手元のノーパソでも数分で解析できてしまう!やっぱ機械学習ってすげえわ・3・

22,High-Harmonic Generation in a Correlated Electron System
https://arxiv.org/abs/1907.05687
High-harmonic generation in solids
https://arxiv.org/abs/1907.11134
図22、高次高調波発生を感じる模式図。キンク-アンチキンク相互作用が重要らしい・3・
コメント:高次高調波祭り
1本目:周期的ポテンシャル中にいる遍歴電子の一体バンド構造に基づき研究されてきた高次高調波のモデルを超えて、低次元強相関電子系の多体相互作用に基づく高次高調波発生を提案する論文。
2本目:高強度少数サイクル遠赤外レーザーパルスによる高次高調波発生をMgOをモデルに解析的・数値的に実行した論文。

23,Imaging work and dissipation in the quantum Hall state in graphene
https://arxiv.org/abs/1907.08973
図23、グラフェン端に発生する熱と仕事を独立に観測した結果と模式図。
コメント:トポロジカル保護に伴う非散逸伝導は理論的にはよく主張されるが、実際には様々な散逸機構による阻害される。この論文では、走査型ナノ温度計と走査型ゲート顕微鏡による可視化を組み合わせ、熱Qと仕事Wを独立の観測することで、グラフェン量子ホール状態の散逸メカニズムが端状態に流れる対向流の相互作用により生じていることを明らかにしている。理論的にありえることを実験で検証するプロセス大切ですね(。・ω・))フムフム

24,Flat band magnetism and helical magnetic order in Ni-doped SrCo2As2
https://arxiv.org/abs/1907.09342
Non-Fermi-liquid behaviors associated with a magnetic quantum-critical point in Sr(Co{1-x}Ni{x})2As2 single crystals
https://arxiv.org/abs/1907.08238
図24、これはえっちなフラットバンド
コメント:鉄系超伝導体AFe2As2は反強磁性ゆらぎに伴う超伝導発現が有力視されているが、Co置換により電子ドープを行うと強磁性ゆらぎが生じることが最近のNMRや中性子散乱から明らかになっている。さらに、ACo2As2のARPESからフラットバンドがフェルミエネルギー近傍に存在することが報告されているが、2Kまで常磁性を示す。
 1つ目の論文ではSr(Co,Ni)2As2の中性子散乱とARPESにより、Ni10%置換すると系がdx2ーdy2軌道フラットバンドに由来する面内強磁性、層間ヘリカル磁性を示すことを報告している。
 さらに、2つ目の論文ではNi30%程度置換すると常磁性と反強磁性相のあいだ量子臨界点が存在することを比熱と電気抵抗から報告している。(内容より、異常に詳しく物理量の表式が書かれているのがすごい。。。)
 今、フラットバンドが熱い(๑•̀ㅂ•́)و✧

25,Observation of Laughlin states made of light
https://arxiv.org/abs/1907.05872
図25、キャビティ中に閉じ込めたフォトンがフラットトポロジカルバンドを形成し、電子間相互作用を模擬したポラリトン間相互作用を通じて、QHEに似た光のLaughlin状態を生み出す模式図
コメント:対称性で記述される様々な量子状態に対して、エンタングルメントのパターンによって記述されるトポロジカル秩序の代表例が、分数量子ホール状態を記述するLaughlin状態である。この論文では、これまで固体以外では冷却原子でしか実現していなかったLaughlin状態を、共振器中のフォトンペアとして実現することに成功したことを報告している。
 トポロジカルフォトンをつかった強相関量子多体現象研究の幕開けである。

26,Reduction of the 17O Knight shift in the Superconducting State and the Heat-up Effect by NMR Pulses on Sr2RuO4
https://arxiv.org/abs/1907.12236
図26、ナイトシフト、落ちるってよ
コメント:1998年、Natureに発表されたK. IshidaらによるSr2RuO4の17O-NMR測定は「Tc以下でナイトシフトは減少しない」というスピン三重項超伝導を示唆する重要な結果である。その後に行われた偏極中性子散乱やμSRやカー効果測定もその結果を支持し、カイラルp波超伝導状態の実現が強く信じられてきた。一方で、カイラルp波超伝導で生じるべきエッジ電流が観測されなかったり、Hc2近傍での一次転移的な超伝導-常伝導転移など、その実現に疑問を投げかける結果も報告され、議論が生じていた。特にごく最近、Pustogowらによる17O-NMR測定は、「測定パルスの出力を十分に小さくするとナイトシフトは減少する」というものであり、根本的なNature論文の結果に疑義を与えるものであった。この論文では、IshidaらによりPustogow論文の再現実験が行われ、たしかに測定パルスを弱めるとナイトシフトが低下する、すなわちナイトシフトが減少しないのは測定パルスによる瞬間的な加熱により超伝導が破壊されたことに由来していたことが結論付けられたのである。今後さらなる検証のために、99Ru-NMRも同様に実施するとのことで、議論が収束する結果が待たれます。

27,A Synthetic Skyrmion Platform with Robust Tunability
https://arxiv.org/abs/1907.12516
図27、通常の多重層と合成AFM多重層の磁気構造の違いを示す模式図
コメント:重金属多重層における磁気スキルミオンは界面におけるジャロシンスキー・モリヤ(DM)相互作用により安定化される。この論文では、スキルミオンのさらなる機能化のため、この論文では合成反強磁性多重層を用い、DM相互作用の代わりに層間反強磁性交換相互作用によるスキルミオンの生成と安定化の方法を提案し、磁気力顕微鏡、磁気輸送測定による実験的にその存在を確認している。スキルミオンもいろいろな作り方があるんだなぁ。

28,Locating the pseudogap closing point in cuprate superconductors: absence of entrant or reentrant behavior
https://arxiv.org/abs/1907.12018
図28、擬ギャップのホール濃度依存性のありうる2つの説。論文ではどちらでもなく、p=0.19で唐突に消えるようなモデルが提案されているっぽい?
コメント:銅酸化物における擬ギャップはアンダードープ領域から始まり、オーバードープにかけてその特徴的温度T*は減少していく。議論の的となっているのはこの擬ギャップが消えるホールドープ濃度p*がどこにあるのか?という点である。一つの説はT*は超伝導ドームを横切り、p*=0.19に向かって直線的に減少するという”Entrant"的振る舞い、もう一つの説は、光電子分光法から提案されたp*=0.23で超伝導ドームを横切りTc以下ではp*=0.19に向かって折り返す”Reentrant”的振る舞いをするというものである。この論文では、Bi2212の熱力学量の測定結果を整理することで、”Entrant”、”Reentrant”的振る舞いのどちらも実験的に支持できるものではなく、p*=0.19を境に消失するが、擬ギャップはp<0.19では温度に独立に常に存在することを報告している。最近ではp=0.19における比熱の発散とかも報告されているし擬ギャップの正体は少しずつ解明されているということかな?磁場侵入長の発散は見えないと昔読んだ論文に書いていたけど、鉄系の量子臨界点との違いもきになりますね。

29,Imaging Nematic Transitions in Iron-Pnictide Superconductors with a Quantum Gas
https://arxiv.org/abs/1907.12601
図29、走査型量子冷却原子顕微鏡の模式図。めっちゃかっこいい❤
コメント:鉄系超伝導体における注目すべき特徴の一つが電子系の回転対称性が破れるネマティシティである。非双晶化試料のバルク電気抵抗測定から、異方性が磁気転移温度より高温から現れることが報告されており、ARPESや光学測定、NMRからも同一の報告がされていた。一方でバルク敏感な比熱測定からはそのような高温での異常は観測されておらず、その起源について議論が生じていた。
 この論文では走査型量子冷却原子顕微鏡(SQCRAMscope)と呼ばれるBECを利用したumサイズの分解能をもつ局所磁気・DC抵抗測定方法により、Ba(Fe,Co)2As2の磁気特性が異方性を示すより高温で異方的DC抵抗率が生じることを明らかにしている。これはSongらによる”Extraordinary nematic surface phase transition”と呼ばれる、表面でのC4対称性の破れがバルクより高温で生じるという理論的予想と一致する。
 バルク敏感と言われる磁気トルクやNMRでどうして高温でのネマティック転移が観測されるのか?という疑問に対する答えを示していないように見えますが(実はサンプル固定の際に歪みがかかってる?)、SQCRAMscopeめっちゃかっこいいですね。好きぽよ。走査型SQUIDでネマティック転移を見ると面白いのではと昔思っていましたが、それを上回るかっこよい測定手段がでるとは( ;・`д・´)ゴクリ
銅酸化物とかトポロジカル物質とか他の物質での観測も期待です。

30,Observation of non-Hermitian topology and its bulk-edge correspondence
https://arxiv.org/abs/1907.11619
Observation of non-Hermitian bulk-boundary correspondence in quantum dynamics
https://arxiv.org/abs/1907.12566
Observation of bulk boundary correspondence breakdown in topolectrical circuits
https://arxiv.org/abs/1907.11562
図30、非エルミートトポロジーを感じる(感じない
コメント:この数年間、物質のトポロジカルな性質に注目があつまり研究が進められてきた。その中心となるのがバルクエッジ対応と呼ばれる原理である。一方でエネルギーが保存されない非エルミート系とよばれる系でのトポロジカルな性質が次なる重要テーマとなりつつあるが、バルクエッジ対応が非エルミート系でも成り立つのかは明らかではない。
 前2つの論文では、それぞれ非相反相互作用を持つ力学的メタマテリアルと光の離散時間非ユニタリ量子ウォークを用いた理論と実験により、非エルミートバルクエッジ対応原理が存在することを明らかにしている。
 一方で3つ目の論文では、非相反トポロジカル電気回路を用いた非局所電圧測定により、バルクエッジ対応の破れが報告されている(ちょっとよくわからない)。
 非エルミート系のトポロジカルな性質も着々と研究が進んでますね。
トポロジカル時代のあとは何が来るんだろうか?



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